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分娩室の外は、やけに静かだった。
さっきまであんなに音があったのに。
産声も、
助産師さんの声も、
遥花さんの呼吸も。
全部が急に遠くなったみたいで。
廊下の椅子に座る。
手を見るとまだ、震えている。
ポケットからスマホを出す。
時間。
0:28。
……20日。
指が勝手に動く。
コール二回で出る。
『……なに』
低い声。
寝てたはずなのに、すぐ起きた声。
「ごめん、こんな時間に」
喉がうまく開かない。
少し笑う。
たぶん、泣いてる。
『……泣いてんのか?』
さすがだな。
「……産まれた」
数秒、沈黙。
『……今、か?』
「うん」
少しだけ、息を吸う音がする。
向こうも時間を見たはずだ。
0:29。
『……おめでと』
短い。
でも、ちゃんと重い。
胸が熱くなる。
「ありがとう」
廊下の蛍光灯がやけに明るい。
『母子は』
「元気」
言った瞬間、実感が追いつく。
元気。
ちゃんと、ここにいる。
『そうか』
また、少し沈黙。
悠は何も言わない。
でも分かる。
気づいてる。
今日が、何の日か。
俺も、分かってる。
でもどっちも言わない。
『湊』
「ん」
『寝れねえな、今日』
小さく笑う。
『また落ち着いたら、顔見に行く』
「うん」
『……遥花に、よろしく』
「言っとく」
電話を切る。
画面に残る時刻。
0:31。
12月20日。
扉が開く。
「旦那さん、入れますよ〜」
立ち上がる。
足が少しふらつく。
でも、ちゃんと前を向く。
家族のもとへ。




