表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
173/185

169




「ただいま」


玄関のドアが閉まる音。


キッチンから顔を出す。


「おかえり。本買ってきたの?」


湊が紙袋を掲げる。


「名前辞典です」


「本気!」


思わずくすくす笑う。


「まだ気が早いよ?」


「早くないです」


リビングのテーブルに、分厚い本がどん、と置かれる。


存在感すごい。


ページをめくる音がやけに真剣。


「どんな名前がいいですか?」


「んー……あんまり考えてなかったな」


正直な気持ち。


まだ実感がふわふわしてる。


「湊は?」


湊の指が一瞬止まる。


少しだけ照れた顔。


「遥花さんにちなんだ名前が良いです」


「ええ、私?」


「だって」


静かな声。


「俺の人生、遥花さんから広がったので」


心臓が跳ねる。


「な、なにそれ」


「事実です」


さらっと言うのずるい。


私は本を覗き込む。


「花がつく名前、とか?」


「それも考えました」


ページをめくる。


“花”“春”“遥”“陽”


いろんな字が並ぶ。


「でも、あんまり直球すぎるのもどうかと」


「じゃあ“遥”をどこかに入れるとか?」


「いいですね」


本気でメモし始める。


ちょっと笑ってしまう。


「湊も入れたら?」


「俺はいいです」


「なんで」


「俺はもう充分、ここにいます」


そう言って、私のお腹にそっと触れる。


あったかい手。


まだ目立たないけど、そこにある未来。


「男の子でも女の子でも」


湊がぽつり。


「呼んだときに、あったかい気持ちになる名前がいいです」


じんわりくる。


「湊、もう父親みたい」


「父親ですから」


当たり前みたいに言う。


本をめくる音。


外は少しずつ暗くなる。


「十二月生まれだよね」


「はい」


「冬っぽい名前もいいかも」


「いいですね」


静かな時間。


でも、胸はあたたかい。


「……楽しみだね」


私が言うと、湊がゆっくり頷く。


「はい」


その声が、少しだけ柔らかい。


ページの上に、未来が並んでいる。


どれもまだ仮。


でも。


どれも、愛しい。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ