16
湯気が、ゆっくりと揺れている。
差し出されたマグカップを受け取るとき、
指先が少しだけ触れた。
ほんの一瞬。
それだけで、さっきの腕の感触が蘇る。
熱い。
「……甘い。」
言うと、湊が小さくうなずく。
「いつもより多めです。」
覚えていることが、今は少しだけくすぐったい。
カップを両手で包む。
手の震えはもう止まっている。
さっきまであんなに怖かったのに。
部屋は静かだ。
エアコンの音。
遠くの車の走る音。
生活の音が、ちゃんとここにある。
「……泣きすぎました。」
自分から言う。
笑ってごまかそうとするけど、声がまだ掠れる。
湊は少しだけ視線を柔らかくする。
「ええと思います。」
それだけ。
からかいもしない。
慰めもしない。
ただ、肯定。
それがまたずるい。
ずるいけど、ありがたい。
湊がカップを置き
何かを考えている顔。
「今日。」
その声の低さに、自然と顔が上がる。
「泊まってもいいですか。」
一瞬、時間が止まる。
目は真っ直ぐ。
欲はない。
確かめる目でもない。
ただ、心配がそこにある。
「……何もしません。
心配なんで。」
私は、一瞬だけ迷う。
一人で寝ることはできる。
きっと。
でも、さっきの声が、背後に残っている。
「客用の布団、貸してください。」
ちゃんとしてる。
ちゃんと距離を置こうとしてる。
それが逆に、胸に来る。
「……ん…ありがとう。」
言った瞬間、湊の肩がほんの少しだけ下がる。
それを見て、なぜか私も息を吐く。




