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「それ、俺やります」


言った瞬間、自分でも早いと思った。


遥花さんは、まだキッチンに立っただけ。


包丁も持っていない。


「まだ何もしてないよ?」


「しますよね?」


「……するけど」


まな板と包丁をさっと奪う。


「座っててください」


「湊、過保護すぎ」


「否定しません」


冷蔵庫から食材を出しながら

頭の中は別のことを考えている。


妊娠初期 気をつけること

妊婦 立ちっぱなし

つわり 食事


昨日から何回検索したか分からない。


「スマホ見すぎ」


背後から指摘される。


「目、怖いよ」


「真剣なんです」


本気で。


だって。


中にいる。


まだ小さい。


でも確実にいる。


「水分ちゃんと摂ってますか」


「はいはい」


「重い物持ってないですか」


「持ってない」


「階段ゆっくり降りてください」


「そこまで?」


自分でも分かってる。


やりすぎ。


でも止まらない。


「ちょっとトイレ」


その一言で心臓が跳ねる。


「大丈夫ですか」


「トイレくらい一人で行ける」


ついていきたい衝動を抑える。


でも、ドアが閉まる音を聞いてからも落ち着かない。


水音。


静か。


戻ってきた姿を見て、やっと息を吐く。


「ほんま、無理せんといてください」


遥花さんが少し笑う。


「そんなに心配?」


「はい」


「俺」


少し言葉を探す。


「父親になる自覚、まだ追いついてないですけど」


正直に言う。


「守る自覚だけは、先に来ました」


遥花さんの目が、少し潤む。


「早いよ」


「早くないです」


一歩近づく。


「二人分なんですよ」


自分の声が、思ったより低い。


静かだけど、重い。


遥花さんがお腹に手を当てる。


つられて、視線がそこに落ちる。


まだ何も変わらない。


でも、そこに未来がある。


「そんなに気張らなくていいよ」


遥花さんが言う。


「一緒に慣れていこう?」


一緒に。


その言葉で、少し肩の力が抜ける。


「……はい」


でも、次の瞬間。


「ソファ、硬くないですか」


「関係ない」


「クッション増やします?」


「いらない」


「加湿器、買います?」


「湊」


「はい」


「深呼吸」


言われて、やっと気づく。


自分がどれだけ張り詰めているか。


息を吐く。


ゆっくり。


遥花さんが、そっと手を握る。


「大丈夫だよ」


その一言で、胸が熱くなる。


守る側のつもりだったのに。


結局、支えられている。


「……ほんま、無理せんでください」


最後まで過保護は抜けない。


遥花さんが笑う。


「はいはい、パパ」


その呼び方で、心臓が止まりそうになる。


「……それ」


「なに?」


「まだ早いです」


でも、悪くない。


むしろ、


そっと遥花さんを抱き寄せる。


壊れ物みたいに。


でも、ちゃんと温度を感じる距離で。


守る。


何があっても。


今度は、本気で。




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