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ドアが、ゆっくり開く。


遥花さんの泣きそうな顔。


「み、みなと……」


声が震えている。


胸が、ぎゅっと縮む。


違ったのか。


期待させてしまったか。


どう声をかける。


何て言えばいい。


一瞬で考える。


でも次の言葉が、全部止まる。


「線、ある……」


「……え」


聞き間違いかと思った。


「ちゃんと、2本、ある……」


時間が止まる。


二本。


二本って。


陽性。


理解が、数秒遅れて追いつく。


「……ほんま、ですか」


自分の声が、遠い。


遥花さんが、こくんと頷く。


手の中のスティックを、震える指で見せる。


細い線。


確かに、二本。


頭が真っ白になる。


嬉しいとか、怖いとか、感情が整理できない。


ただ。


胸の奥が、どくどく鳴ってる。


一歩、近づく。


気づいたら、抱きしめていた。


強く。


でも、壊さないように。


遥花さんが小さく息を漏らす。


「あ……ごめ……」


緩めようとした瞬間、


ぎゅっと、抱き返される。


「ほんとに……?」


涙混じりの声。


「俺が聞きたいです……」


笑っているのに、喉が詰まる。


遥花さんの髪の匂い。


体温。


全部、いつも通りなのに。


中に、命があるかもしれない。


言葉が出ない。


何を言えばいい。


おめでとう?


ありがとう?


違う。


今は。


ただ、腕の中の重みを感じる。


遥花さんが、くしゃっと泣き笑う。


「早すぎるよね」


「……奇跡かもしれん」


自分でも気づかないくらい、感情が揺れてる。


「怖いですか?」


小さく聞く。


「うん……ちょっと」


「俺もです」


正直に言う。


でも。


「でも、嬉しいです」


はっきり。


「めちゃくちゃ」


腕に力が入る。


「俺ら、ちゃんと始まったんですね」


遥花さんが、また泣く。


「始まったね……」


額を寄せる。


笑って、泣いてる。


ぐちゃぐちゃ。


でも、確かに。


二人の間に、新しい未来がある。


「病院、行きましょう」


「うん」


「まだ確定ちゃいますし」


「うん」


「でも」


一瞬、言葉を選ぶ。


「……ありがとう」


遥花さんが、目を丸くする。


「なんで」


「選んでくれて」


一緒に進むこと。


怖いのに、踏み出してくれたこと。


全部。


遥花さんは、泣きながら笑う。


「一人じゃないね」


胸が、きゅっとなる。


湊はもう一度、静かに抱きしめた。


今度は、さっきより優しく。


壊れ物を包むみたいに。




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