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仕事から帰ると、部屋が少しだけ甘い。
リビングに入ると、テーブルの上に小さなケーキ。
ロウソクが四本。
「おかえりなさい」
キッチンから湊が出てくる。
「なにこれ」
「何って」
少しだけ照れた顔。
「四年です」
ああ。
今日か。
「そんな数える?」
わざと軽く言う。
「数えますよ」
「俺にとっては大事なんで」
湊がロウソクに火をつける。
小さな炎が揺れる。
「四年前の今日、
遥花さんが好きって言ってくれたんです」
「…覚えてるんだ」
「忘れません」
向かい合って座る。
炎越しに見る湊は、少し大人びている。
「消します?」
「一緒に」
ふっと息を吹きかける。
煙がゆらりと上がる。
静かな部屋。
「……四年か」
ぽつりと私が言うと、湊が少しだけ笑う。
「長いですか?」
「ううん」
首を振る。
「早かった」
本当に。
あっという間。
喧嘩して、泣いて、笑って。
全部、四年の中。
湊がケーキを切りながら、ふと手を止める。
「遥花さん」
「ん?」
「四年前より、好きです」
一瞬、音が消える。
「……え?」
聞き返してしまう。
湊は照れもせず、淡々と続ける。
「四年前は、勢いもありましたし」
「今は?」
「今は」
少しだけ、息を吸う。
「選んでます」
胸が、ぎゅっとなる。
「毎日、選んでます」
言葉が、重い。
甘いのに、重い。
「四年前より、ずっと好きです」
「……ずるい」
顔が熱い。
「なんでですか」
「そういうの、さらっと言うから」
湊が少しだけ笑う。
「事実です」
もう一度言う。
「四年前より、好きです」
湊に近づき、ぎゅっと抱きつく。
「私だって」
声が少し震える。
「四年前より、好きだよ」
湊の腕が、ゆっくり背中に回る。
強すぎない。
でも、離さない。
「知ってます」
「なんで」
「顔に出てるんで」
むかつく。
でも嬉しい。
少しだけ顔を上げると、湊が額に軽くキスを落とす。
「五年目も、よろしくお願いします」
「当たり前でしょ」
湊が少しだけ目を細める。
「じゃあ」
「うん?」
「四年分の好き、更新していきましょう」
ずるい。
ほんとにずるい。
「……湊」
「はい」
「四年前より、かっこいい」
一瞬だけ、湊の喉が動く。
「それは知りませんでした」
照れてる。
珍しい。
四年。
恋人から、同棲して、結婚して。
怒って、泣いて、それでも。
今が一番好き。
それが言える四年。
湊の胸に顔を埋めながら思う。
四年前より、今の方が、ずっと幸せだ。




