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「ねえ」


「はい?」


テレビを消すと、部屋が少し静かになる。


「今度さ、職場の子たちが

結婚祝いでご飯行こうって言ってくれて」


その一言で、湊の視線が上がる。


「いつですか」


「木曜。仕事終わりに、そのまま」


「職場の人たちには申し訳ないですけど

早めに帰ってきてください」


遥花は瞬きをする。


「でも、お祝いしてくれるって言ってて……」


その“でも”に、湊の表情がわずかに固くなる。


「でもじゃないです」


低い声。


怒鳴ってはいない。ただ、真剣。


「遥花さんも言ってましたよね。気持ち悪いって」


空気が、ぴんと張る。


柊のことだとすぐ分かる。


「……そうだけど」


「最近会わないから大丈夫、とか思ってませんか」


図星で、少しだけ視線を逸らす。


「でも、女の子だけだし」


「むしろ女性だけの方が危ないでしょう」


湊はゆっくり息を吐く。


「俺、怖いんです」


その言い方が、思ったより弱くて、強い。


遥花は黙る。


「何があるか分からないから言ってるんじゃないです。

何かあったとき、俺が間に合わないのが嫌なんです」


責められているわけじゃない。


でも、軽く扱えない。


「……そこまで心配しなくても」


小さく笑って流そうとした瞬間、


湊が被せる。


「お願いします」


ぴたりと止まる。


「早めに帰ってきてください」


遥花の胸が、少しだけ締まる。


「心配なんです」


静かに、繰り返される。


「……わかった」


観念したように息を吐く。


「早めに帰る」


湊の肩から、わずかに力が抜ける。


「連絡も、ちゃんとする」


「はい」


「終電前には必ず」


「……はい」


それでも湊は、まだ何か言いたげにしている。


「もし何かあったら、すぐ連絡してください」


遥花は苦笑する。


「過保護」


「はい」


否定しない。


「それでいいです」


少しだけ、沈黙。


その静けさの中に、不安が薄く残る。


遥花は湊の手を軽く叩く。


「大丈夫だよ」


その一言に、湊は小さく目を伏せた。


「……その“大丈夫”が、一番怖いんです」


遥花は、気づかない。


その言葉の重さに。




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