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まだ静かな朝のオフィス。


湊は資料を開きながら、淡々とメールを返している。


「おはようございます」


背後から落ち着いた声。


振り向くと、柊。


「おはようございます」


軽く会釈だけして、画面に戻る。


「真面目ですね」


「仕事なんで」


「いや、そうなんですけど」


笑っている。


距離が、微妙に近い。


「奥さん、ホテル勤務なんですね」


指が止まる。


「……なんで知ってるんですか」


「噂でちょっと」


軽い口調。


「女の子たちが

“ホテル勤務らしいですよ〜”って言ってましたよ」


にこり、と笑う。


探ってくる視線。


湊は無表情のまま返す。


「そうですか」


それ以上は言わない。


「綺麗な人なんでしょうね」


「普通です」


「写真とかないんですか?」


「ないです」


柊は少し目を細める。


「大事にしてるんですね」


「当たり前です」


間髪入れずに返すと、柊はくすっと笑った。


「そういう人ほど、油断するんですよ」


湊はゆっくり椅子を回す。


「何の話ですか」


「いえ、なんでも」


肩をすくめる。


「前の支社でも、真面目な人ほど面白かったなって」


面白い。


その言い方が引っかかる。


「俺、面白くないですよ」


「そうですか?」


目が合う。


探るような視線。


「奥さん終電逃したこと、あります?」


「ありません」


「へえ」


わざとらしく感心する。


「ちゃんとしてる」


その言い方に、うっすら苛立つ。


「仕事の話、いいですか」


「冷たいですね」


笑って、柊は自席に戻る。


でも視線は、まだ残っている感じがした。


昼休み。


先輩が小声で言う。


「絡まれてるな」


「別に」


「気をつけろよ」


「はい」


湊は本気で相手にしていない。


でも。


“奥さん、終電逃したことあります?”


その言葉だけ、妙に残る。


疑わない。


遥花を疑う気は一切ない。


でも。


無防備だとは思う。


人を疑わないところ。


距離感が近いところ。


優しいところ。


「……連絡だけ、」


スマホを取り出す。


《絶対迎えに来たりしないでください》


既読はすぐにつく。


《なんで?》


《なんとなくです》


数秒。


《? わかった》


それだけ。


信じている。


でも守りたい。




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