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夜。

遥花は先にシャワーを浴びている。


リビングに一人。


さっきの会話が、まだ頭の中に残っている。


子ども、


いつか。


焦らなくていい。


分かってる。


でも。


スマホを手に取る。


検索欄に、少し迷ってから打ち込む。


「出産 費用」


表示された数字に、眉が動く。


「……え」


思ったより、する。


出産費用。


入院費。


検診。


ベビー用品。


ベビーベッド。


保育園。


次々と出てくる。


桁を見て、思わず息を吐く。


「こんな、するんだ」


軽く笑う。


知らなかったわけじゃない。


でも、具体的な数字は重い。


指でスクロールしながら、頭の中で計算する。


今の貯金。


ボーナス。


式挙げなかった分余裕はある。


指輪と写真だけ。


いけなくはない。


たぶん。


でも。


「あるに越したことないよな」


画面を閉じる。


少しだけ天井を見る。


子どもを抱いてる自分。


遥花が笑ってる。


さっきの女の子みたいに、元気に走る小さな背中。


守れるか。


いや、


守る。


そのための数字だ。


不安じゃない。


むしろ、具体的になった。


立ち上がって、キッチンに行く。


水の冷たさがしみる。


「……がんばろ」


小さく言う。


誰に聞かせるでもなく。


でも、その声ははっきりしている。


今すぐじゃない。


来年の四月以降。


順番は守る。


遥花の仕事。


身体のこともある。


でも。


準備はできる。


昇給のこと。


資格のこと。


今の仕事でどこまで上にいけるか。


ぼんやり考えていた未来が、少しだけ具体的になる。


足りないなら増やせばいい。


ただ、それだけだ。


シャワーの音が止まり現実に戻る。


スマホをテーブルに置く。


遥花がリビングに戻ってくる。


「なにしてたの?」


「……ちょっと調べ物」


「仕事?」


「いや」


少しだけ迷ってから、笑う。


「未来の話」


遥花がきょとんとする。


「なにそれ」


「秘密です」


大したことじゃない。


ただの数字。


でも。


さっきより、少しだけ背筋が伸びている。


今は二人。


でもいつか三人。


その“いつか”のために。


静かに、前のめりで。




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