127 *
熱が、うるさい。
指先も、喉も、胸の奥も。
言葉を探す前に、感覚が先にくる。
触れてる、それだけで、もうだめだ。
分かってるのに、離すって選択肢が浮かばない。
浮かんでも、意味がないってすぐ消える。
離れたくない。
「……遥花さん」
理由なんてない。
ただ、呼びたくて。
ちゃんとここにいるか確かめるみたいに。
返ってくる気配で、また熱が上がる。
だめだ、ほんとに。
思ってるより、余裕ない。
「すき」
それしか出てこない。
言いたいことはもっとあるはずなのに、
全部、押し潰される。
かわいい。
好き。
遥花さん。
それしか残らない。
触れるたびに、
思考がほどける。
どこまでが自分で、
どこからが衝動なのか、分からなくなる。
「湊…っ、」
動きが止まる。
思考が、引き戻される。
名前。
――その瞬間、
すべてが、落ちる。
理性も、距離も、加減も。
残るのは、音と、温度と、
目の前の存在だけ。
「……っ、遥花さん」
声が落ちる。
整えようとして、余計崩れる。
「すき、」
「すき…っ」
さっきより、重い。
同じ言葉なのに、全然違う。
呼ばれただけで、こんなに変わるとか、知らない。
「かわいい」
抑えられない。
触れても、足りない。
たぶん、ずっと足りない。
満たされる気がしない。
欲しい、が消えない。
増えるばっかりで、追いつかない。
――だめだ。
ちゃんとしろ。
どこかで、声がする。
でも、遠い。
届かない。
手の中の温度のほうが、ずっと近い。
優しく、って思ってる。
大事に、って思ってる。
なのに、加減が分からない。
境界が、曖昧になる。
全部混ざる。
それでも、止まれない。
「遥花、さん…っ」
また呼ぶ。
今度は、少し息が混ざる。
「すき」
何回目か分からない。
でも、まだ足りない。
言っても言っても足りない。
伝わってるはずなのに、
言わないと消えそうで怖い。
ここにいるのに、
いなくなるみたいに怖い。
「……すき、」
もっと、って思う自分が、
止められない。
「……っ」
声にならない音。
喉が震えるだけ。
それでも、
離したくない。
それだけは、はっきりしてる。




