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心臓がうるさい。
距離、近すぎる。
「……シャワー、浴びたい」
咄嗟に出た言葉。
逃げたいわけじゃない。
ただ、このままだと持たない。
「……大丈夫です」
即答。
「いい匂いです」
「そういう問題じゃないでしょ」
思わず返すと、
小さく息を吐く気配。
「……わかってます」
わかってるくせに、離れない。
むしろ、少しだけ距離が詰まる。
壁に押し付けられるほどじゃない。
でも、逃げられない距離。
「……もうちょっとだけ」
その言い方が、ずるい。
強引じゃないのに、拒めない。
「湊……っ」
声が揺れる。
その瞬間、指先が頬に触れる。
軽く、確かめるみたいに。
視線が絡む。
逸らせない。
「……そんな顔で、我慢しろはずるいです」
ぽつり、と落ちる。
理性はあるのに、崩れかけてる声。
それが余計に、危ない。
「……だから」
少しだけ距離が詰まる。
唇が触れそうで、触れない。
ぎりぎりで止まる。
「……先、どうぞ」
ふっと、離れる。
急に空気が戻る。
「……え」
拍子抜けするくらい、あっさり。
さっきまでの熱が、嘘みたいに引く。
でも、完全には消えてない。
残ってる。
目の奥に。
「ちゃんと、待ちます」
そう言いながら、少しだけ視線を逸らす。
その仕草が、逆に余裕なくて。
「……待てなさそうだけど」
つい言うと、
「……努力します」
即答じゃない。
少しだけ間があってからの返事。
それが正直すぎて、笑いそうになる。
でも、笑えない。
空気が、まだ近い。
「……早く出てきてください」
小さく付け足される。
さっきより低い声。
「でないと」
一瞬、言葉が止まる。
それから、
「……保証しないです」
って、ぼそっと落ちる。
心臓が、またうるさくなる。
さっきより静かなのに、余計に響く。
「……じゃあ、急ぐ」
そう言って、やっとその場を離れる。
背中を向けるのが、妙に怖い。
でも振り返らない。
振り返ったら、たぶん戻る。
ドアを開ける直前、
一瞬だけ気配を感じる。
追いかけてくるわけじゃない。
ちゃんと、止まってる。
「……ほんとに待っててよ」
小さく言うと、
「……はい」
今度はすぐ返ってくる。
でもその声、全然余裕なくて。
だから余計に、
早く戻らなきゃと思ってしまう。




