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「この後、みんなでお食事でもどう?」


湊の母の一言で、空気がふわっと明るくなる。


「いいですね」


遥花の母もすぐに乗る。


「せっかくだし、ゆっくり話したいわ」


「近くにいいお店ありますよ」


自然に話が広がっていく。


父たちも「それがいい」「予約できるか?」なんて話し始めて、


完全に“その流れ”になっていく。


その中で、ふと横を見る。


湊は、黙ってた。


いつもなら、空気を見て合わせるのに。


「湊?」


小さく呼ぶと、


「あ、すみません」


一拍遅れて、顔を上げる。


でも、その目。


どこか、落ち着かない。


というか、


明らかに、別のこと考えてる。


「どうしたの」


小さく聞くと、


ほんの一瞬だけ、視線が揺れる。


それから、


「……あの」


少しだけ、声のトーンが落ちる。


場の空気を邪魔しないようにしながら、


でも、ちゃんと通る声。


「今日は」


一度、言葉を区切る。


「記念なんで」


その一言で、少しだけ場が静かになる。


「家に、食事用意してきたんです」


さらっと言った。


でも、


その“さらっと”の裏に、


明らかな“決意”がある。


「え、そうなの?」


遥花の母が驚いた声を出す。


「はい」


頷く。


「大したものじゃないですけど」


言いながら、


一瞬だけ、こっちを見る。


その視線。


完全に、


“早く帰りたい”って書いてある。


さっきからずっと、


抑えてるの分かってたけど、


ここまでとは思わなくて、


思わず、笑いそうになる。


「まあ、そうなのね」


湊の母が少しだけ考えるように言う。


「それなら、そっちも大事よね」


「ええ、記念日ですものね」


遥花の母も、すぐに頷く。


「じゃあ今日は二人で、ね」


あっさり、引いてくれる。


「また改めて、ゆっくり食事しましょう」


「そうですね」


話がまとまる。


あっという間に。


「……ありがとうございます」


湊が、ほんの少しだけ深く頭を下げる。


明らかに、


ほっとしてる。





帰り道。

さっきまでの“きちんとした空気”が嘘みたいに、

少しだけ静かになる。


隣を歩く湊。


さっきより、明らかに距離が近い。


というか、


無意識に寄ってきてる。


「……そんなに帰りたかったの?」


少しだけからかうように言うと、


一瞬、間があって、


「……はい」


素直に返ってくる。


「即答なんだ」


「無理です」


「何が」


分かってるけど聞く。


そしたら、


少しだけ、息を吐くみたいにして、


「全部です」


「……写真の時から思ってましたけど」


ぽつり、と続く。


「距離近いのに触れられないの、普通に拷問でした」


「拷問て」


思わず笑う。


「しかも、みんな見てるし」


「そりゃそうでしょ」


「無理です」


またそれ。


でもさっきより、


全然余裕ない。





鍵を出そうとした瞬間、

横で金属が触れる音がした。


「え、」


カチャ、とドアが開く。


「入ってください」


促されるまま一歩入った瞬間、


背中を押され、そのまま


壁に押し付けられる。


「……湊?」


顔を上げると、


逃げ場ない距離。


「もう無理です」


さっきまでの“外用の声”じゃない。


完全に、内側の声。


「さっきから、ずっと我慢してたんで」


息が近い。


「分かってるでしょ」


「……分かってるけど」


ほんの少しだけ、笑う気配。


「じゃあ、いいですよね」


確認みたいな言い方。


でも、


答えは待ってない。


「今日は」


手が、そっと腰に回る。


「ちゃんと、覚悟してください」


さっきスタジオで言ってたのと同じなのに、


温度が全然違う。


「……やりすぎないでよ」


一応、言う。


そしたら、


一瞬だけ間があって、


「……それは、多分無理です」


正直すぎる返答。


「え」


「ドレス姿であんな近くにいて」


少しだけ、距離が詰まる。


「我慢できるわけないじゃないですか」


そのまま、


逃がす気ゼロの距離で、


「……ほんとに、」


もう一回、低く落ちる声。


「だから」


最後に、


ほんの少しだけ優しくなる。


「今日くらい、許してください」


その言い方がずるくて、


何も言えなくなる。





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