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スタジオのライトが、ぱっと明るくなる。


「ではまず、ご家族皆さまで一枚いきましょうか」


カメラマンの明るい声に、少しだけ緊張が走る。


「こっちに並んでいただいて——そうですね、いい感じです」


言われるままに並ぶ中で、


「遥花さん、素敵よ」


ぽつりと、湊の母が嬉しそうに声を漏らす。


その視線は、まっすぐこっちに向いていて、

どこか安心したような、誇らしいような、そんな顔。


「2人とも似合ってる」


隣で、湊の父も静かに頷く。


多くは言わないけど

ちゃんと見てくれてるのが伝わる声。


「え、ちょっとお父さん泣いてる?」


遥花の母が、くすっと笑いながら言う。


「ないてない!」


即座に返す声。


でも、


「……ぐすっ」


全然隠せてない。


「泣いてるじゃん」


「ないてない!!」


強がってるのに、目は完全に潤んでて、


その様子に、場の空気がふわっと緩む。


「いいじゃないですか」


カメラマンが笑いながら言う。


「こういうお写真、

あとで見返すと一番いい顔してますから」


「ほら、ちゃんと前見て」


遥花の母に軽く小突かれて、


「……はいはい」


って言いながらも、どこか照れくさそうに前を向く。


「じゃあいきますよー、はい、いい笑顔で!」


シャッターの音が響く。


その一瞬に、全部が収まる。


今までの時間も、これからのことも。





「では次、新郎新婦お二人でいきましょう」


その言葉で、自然と前に出る。


さっきまでの“みんな”の空気から、


一気に“二人だけ”の空気に変わる。


「少しだけ近づいてもらっていいですか?」


カメラマンの指示。


「はい、そのまま自然に——」


言われた通りに立つ。


隣に、湊。


さっきまでと同じはずなのに、


急に距離が近く感じる。


ふと、横を見ると、


湊がこっちを見てる。


さっきと同じ、あの視線。


抑えてるのに、抑えきれてない。


「……なに」


小さく聞くと、


ほんの少しだけ顔を寄せてくる。


外からは分からないくらいの距離で。


「……やっぱり無理です」


低く、囁くみたいな声。


「なにが」


「我慢」


さらっと言う。


「だからさっき“待て”って——」


言いかけた瞬間、


「分かってます」


すぐに返される。


分かってて、これ。


「でも」


ほんの少しだけ、息が近い。


「近くで見るの、想像以上でした」


その言い方が、ずるい。


「ちょっと、今撮ってるから」


「分かってます」


また同じこと言う。


でも、


「だからこれくらいで止めてます」


ギリギリ、ほんとにギリギリ。


「……顔、やばいよ」


小さく言うと、


「どっちがですか」


って返ってくる。


「そっち」


「俺は通常運転です」


嘘つけ。




「いいですね、そのまま少しだけ目線ください」


カメラマンの声。


「あ、いい笑顔です」


シャッターが切られる。


その合間にも、


「……今日は、覚悟してください」


ぼそっと落とされる。


「だからやめてって」


「やめません」


さっきより迷いがない。


「せっかくなんで」


少しだけ笑う気配。


「ちゃんと全部、見ます」


その言い方がもうだめ。


「今見てるでしょ」


「全然足りないです」


「欲張り」


「はい」


迷いゼロ。





「はい、最後もう一枚いきますねー」


カメラマンの声。


「少しだけ顔寄せていただいて——そう、そのまま」


距離がさらに近づく。


触れそうで触れない距離。


でも、


さっきよりずっと、熱がある。


「……ほんとに綺麗です」


最後に、ぽつり。


今度は、少しだけ真面目な声。


ふざけも、からかいもないやつ。


「……ありがとう」


小さく返すと、


ほんの少しだけ、空気が柔らぐ。


「はい、オッケーです!」


シャッターの音。


その一枚で、撮影は終わる。


距離が離れた瞬間、


ふっと息をつく。


けど、


すぐ横から、


「……もういいですよね」


低い声。


「なにが」


分かってるけど聞く。


「我慢」


「だめです」


一瞬だけ間があって、


それから、


「……じゃあ、少しだけ」


って、懲りてない声。


「少しってなに」


「少しは少しです」


全然信用できない。


でも、


その顔がちょっと嬉しそうで、


結局、笑ってしまう。


「……あとでね」


そう言うと、


一瞬だけ、目が細くなる。


「約束ですよ」


「はいはい」


軽く返すと、


「軽い」


って言いながらも、


どこか満足そうに笑ってた。


さっきまで“待て”されてた犬みたいだったのに、


今はもう、


完全に獲物見つけた顔してる。


ほんとにもう、


油断できない。




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