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「では、少しだけお二人でどうぞ」


スタッフがそう言って、扉が閉まる。


途端に、空気が変わる。


さっきまで“外に向けた顔”だったのが、

一気にほどける。


湊が、こっちを見たまま固まる。


さっきも見たはずなのに、

ちゃんと向き合うのは、これが初めてみたいに。


「……どう?」


少しだけ照れながらもう1度聞くと


一歩、近づいてくる。


ゆっくり、確かめるみたいに。


「……誰にも見せたくないです」


低く落ちた声。


「え、なにそれ」


思わず笑うと


湊は全然冗談みたいな顔してなくて


「……綺麗すぎます」


ぽつりと続ける。


視線が、まっすぐで。


逃げ場がない。


「いや、そんな大げさな」


誤魔化そうとするけど、


「大げさじゃないです」


かぶせるみたいに、はっきり言う。


そのまま、もう一歩近づく。


距離が、ぐっと縮まる。


「……ほんとに」


小さく、でも強く。


「このまま帰りたいくらいです」


「だめでしょ」


即答すると


「だめですか」


って、ちょっとだけ不満そうな顔。


「せっかくここまで来たのに」


「……分かってますけど」


言いながらも、


視線が全然離れない。


じっと見てくる。


「……近い」


「近いですね」


「自覚ある?」


「あります」


なのにそのまま。


むしろ、少しだけ寄る。


「ちょっと、待って」


手で軽く止めると、


ぴたりと止まる。


でも、止まっただけで、離れない。


完全に“待て”されてる感じ。


「……今、触ったら怒られます?」


「怒られるでしょ」


「ですよね」


って言いながら、


ちょっとだけ残念そうな顔するの、ずるい。


「せっかく綺麗にしてもらったんだからだめ」


そう言うと、


一瞬だけ黙って、


「……はい」


素直に引く。


けど、


そのあと、ぼそっと


「我慢します」


って付け足す。


「えらいえらい」


軽く笑いながら言うと、


「褒められると余計つらいんですけど」


って、真顔で返される。


「知らないよ」


「ですよね」


でも、その声は少しだけ柔らかい。




少し距離は空いたけど、


視線だけは、ずっとこっちにある。


さっきより、むしろ強いくらい。


「そんな見ないで」


「無理です」


「なんで」


「見ない理由がないんで」


さらっと言う。


ほんと、こういうとこ。


「……あとで写真見れるでしょ」


「実物の方がいいです」


間髪入れずに返ってくる。


迷いがなさすぎる。


「……恥ずかしいんだけど」


小さく呟くと、


少しだけ表情が緩む。


「そういう顔も、いいですね」


「もうだめ、ほんとだめ」


顔を背けると、


くすっと小さく笑う気配。


でもすぐに、


「……残しましょう」


少しだけ落ち着いた声になる。


「今日の、ちゃんとしたやつ」


ちゃんとした覚悟も混ざってて。


「うん」


自然に、頷く。





「そろそろお時間です」


外から声がかかる。


「はい」


湊が返事をする。


さっきまでと違う、ちゃんとした声。


でも、


扉に向かう前に、ふっとこっちを見る。


一瞬だけ、また視線が重なる。


さっきより少しだけ抑えた顔で、


それでも隠しきれてない熱があって。


「……終わったら」


小さく、低く。


「我慢しませんからね」


「やめて」


即答すると、


少しだけ笑う。


そのまま扉を開けて、


外の空気に戻る。


でも、


さっきの“待てされてた顔”が、


まだ頭に残ってて。


写真なんて、うまくできるか


ちょっとだけ不安になる。




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