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朝は、少しだけ静かだった。
カーテンの隙間から入る光が、やけにやわらかくて、
いつもより時間がゆっくり流れてる気がする。
隣を見ると、もう湊はいなかった。
「……はや」
小さく呟いて、体を起こす。
キッチンの方から、かすかに音がする。
包丁の音じゃなくて、
マグカップを置く、控えめな音。
起きてるんだ。
それだけで、少し安心する。
寝癖を軽く整えて、リビングに向かうと、
「あ、おはようございます」
振り向いた湊と目が合った。
「おはよ」
いつもと同じはずなのに、
少しだけ違って見える。
「……早いね」
「今日、時間読めなかったんで」
そう言いながら、少しだけ照れたみたいに笑う。
その顔は、いつもの湊で。
でも、
どこか、落ち着かない空気も混ざってる。
「緊張してる?」
そう聞くと、
一瞬だけ、言葉を探すみたいに視線が泳いでから、
「……まあ、ちょっとは」
って、正直に答える。
「そりゃそうだよね」
笑いながらそう返すと、
「遥花さんは?」
逆に聞かれる。
「んー、まだ実感ないかも」
そう言うと、
「それくらいの方がいいですよ」
無責任な軽さじゃなくて、
少しだけ力を抜かせるみたいな、優しい言い方。
「朝ごはん、軽くですけど」
差し出されたのは、トーストと、温かいコーヒー。
「え、用意してくれたの?」
「今日は俺やりますって言ったじゃないですか」
少しだけ得意げな顔。
「あー、確かに言ってた」
思わず笑う。
こういうとこ、ほんとにちゃんと覚えてる。
「無理しなくていいのに」
「無理じゃないです」
そのまま、
「……こういう日くらい、やらせてください」
って、少しだけ真面目な顔になる。
その言い方に、
少しだけ胸があったかくなる。
食べながらも、会話はいつも通りで。
変に意識しすぎないようにしてるのか、
あえて普通にしてるのか。
多分、両方。
「時間、大丈夫?」
「はい、余裕あります」
そう言いながら、時計をちらっと見る。
その仕草が、なんとなく落ち着かなくて。
やっぱり、緊張してるんだなって分かる。
スタジオに着くとすぐに準備が始まる。
メイクして、髪を整えて、ドレスに着替えて。
一つ一つ、進めていくほど、
少しずつ実感が近づいてくる。
鏡の中の自分が、
いつもと違って見える。
「……変、じゃないよね」
誰もいないのに、確認するみたいに呟く。
返事なんてないのに。
「遥花さん」
カーテン越しに、湊の声がする。
「準備、できましたか」
「うん、できた」
カーテンが、ゆっくり開く。
一歩、外に出る。
その瞬間。
湊が、止まった。
何も言わない。
ただ、こっちを見てる。
さっきまでの落ち着いた空気が、全部消えて、
視線だけが、まっすぐに刺さる。
「……どう?」
少しだけ不安になる。
でも、すぐには返ってこない。
一瞬、息を飲んで
それでもまだ足りないみたいに
もう一度、ゆっくりと。
言葉を探してるのが、分かる。
それくらい、ちゃんと見てる。
そのあと、
少しだけ息を吐いて、
「……綺麗です」
やっと、声が出た。
でも、それだけで、
全部伝わってくるみたいな顔だった。
オス湊がみたいんです (圧)




