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「あの、」


ぽつり、と湊が口を開く。


「一回、2人で決めていいですか」


その声は強くはないけど、ちゃんと芯があった。


場の空気が、少しだけ静かになる。


さっきまでの賑やかさが、すっと引いて。


言葉の重さだけが、残る。


「もちろんよ」


すぐに、柔らかい声が返ってくる。


「ごめんなさいね、つい楽しくなっちゃって」


悪びれた様子はないけど

ちゃんと引いてくれる距離感。


その言い方が、ありがたくて。


少しだけ、胸の力が抜けた。


「ありがたいです、ほんとに」


湊が軽く頭を下げる。


その横顔は、さっきまでと変わらないのに。


ほんの少しだけ、緊張が混ざってるのが分かる。


「……ごめん」


小さく、湊がこっちを見る。


「勝手に進めるつもりじゃなかったんですけど」


その言い方に、思わず首を振る。


「ううん」


すぐに否定する。


「ありがたいのは、ほんとだよ」


これは、本心。


こんなふうに考えてくれてることも。


両親が楽しそうにしてくれてることも。


全部、ちゃんと嬉しい。


「……ただ」


少しだけ、言葉を選ぶ。


さっき感じた、あの違和感。


ちゃんと拾わないと、また置いていかれる気がして。


「ちょっと、びっくりしただけ」


そう言うと、湊が一瞬だけ目を細めた。


それから、少しだけ安心したように息を吐く。


テーブルの下で、そっと手が触れる。


探るみたいに、確かめるみたいに。


軽く握られる感覚。


逃がさない、でも強すぎない。


その温度に、さっきまでのざわつきが静まっていく。


「ちゃんと、二人で決めましょう」


小さな声。


でも、その言葉はまっすぐで。


ああ、この人はやっぱり変わらないんだなって思う。


周りがどうであっても。


流されそうになっても。


最後はちゃんと、ここに戻してくれる。


「……うん」


自然に、頷いていた。


そのやり取りを見ていたのか、悠がふっと笑う。


「最初からそうしとけよ」


空気を軽くするみたいに、いつもの調子で。


「うるさい」


湊が即座に返す。


「お前がいるからややこしいんだよ」


「俺関係ねえだろ」


間髪入れないやり取り。


くだらないのに、いつも通りで。


それだけで、少し肩の力が抜ける。


さっきまで、ほんの少しだけ遠くにあったはずの距離が。


いつの間にか、ちゃんと戻ってきてる。


ふと、さっきの自分を思い出す。


楽しい空気の中で。


誰も悪くないのに。


でも、どこかだけ置いていかれてる感じ。


私のことのはずなのに。


私の意見が、まだどこにもないまま進んでいく感じ。


あの、言葉にしづらい違和感。


でも今は。


ちゃんと、ここにいる。


湊の手の中に、自分の手があって。


視線を上げれば、ちゃんとこっちを見てくれてる。


「……ありがと」


ぽつりと落とすと、


「どういたしまして」


すぐに返ってくる。


当たり前みたいに。


少しだけ、指に力がこもる。


それに応えるみたいに、握り返す。


“家族の話”が。


ちゃんと、“私たちの話”に戻ってくる。




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