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「……遥花さん」
「ん?」
「式、どうします?」
「式?」
「結婚式です」
「ああ……」
少しだけ考えて、
「んー……やらなくて良いんじゃない?」
軽く言ったつもりだった。
本当に、深い意味はなくて。
ただ現実的に考えて、
忙しいし、お金もかかるし、
そこまでしなくてもいいんじゃないかって。
それだけ。
でも。
「……そうですか」
湊の声が、少しだけ落ちる。
ほんの少しだけ。
でも、確かに。
「え、なに」
「いや」
すぐに首を振る。
「ちょっと聞いてみただけなんで」
いつも通りのトーン。
でも、なにかが、引っかかる。
──やらなくていい、か。
その言葉が、頭に残る。
当然、やるものだと思っていた。
“結婚する”って言った時点で、
その先にあるものとして。
疑ったこともなかった。
でも。
やらないっていう選択肢も、あるんだ。
初めて、そこに気づく。
小さく息を吐く。
別に、否定されたわけじゃない。
価値観の違い。
それだけ。
分かってる。
分かってるけど。
「……俺だけなんだ」
やりたいって思ってたの。
形にしたいって思ってたの。
少しだけ、恥ずかしい。
少しだけ、置いていかれた気がする。
それでも。
遥花さんがやりたくないなら
それでいいとも思う。
無理にやるものじゃない。
あの人が望まないなら、
それは違う。
「……でも」
手が止まる。
──じゃあ、なんでこんなに引っかかってるんだ。
自分でも、うまく言語化できない何かがあった。




