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玄関の前。
インターホンを押す直前で、足が止まる。
「……なんで自分家なのに私より緊張してんの?」
横から、くすっと笑われる。
「してないです」
即答したけど、
声がちょっと硬いのは、自分でも分かる。
「してるじゃん」
そう言って、軽く覗き込んでくる。
その距離に、一瞬だけ視線が揺れる。
「……行きますよ」
ごまかすみたいにインターホンを押す。
「はーい」
聞き慣れた声。
ドアが開く。
「湊、おかえり。遥花さん、いらっしゃい」
「お邪魔します」
「どうぞどうぞ、上がって」
いつも通りのやり取り。
なのに、やけに心臓がうるさい。
靴を脱いで、廊下を進む。
リビングのドアに手をかけて、
一瞬だけ、呼吸を整える。
「ただいま――」
視界に入った瞬間、
思考が止まる。
「え、ほんとになんでいんの??」
隣で、遥花さんが素で声を出す。
ソファ。
くつろいでる男。
「呼ばれた」
当たり前みたいに言う悠。
俺の家やぞ、ここ。
なんでこいつが先に座ってんねん。
その時点で、もうおかしい。
けど。
――一瞬で、繋がる。
父。
大学。
悠は院。
関係者。
「あー……」
小さく、息が抜ける。
「……察した」
呟くと、悠がにやっと笑う。
「早」
「そら分かるわ」
視線だけで睨む。
「言えよ」
「言ったら面白くないだろ」
こいつ、絶対分かってて黙ってた。
後ろから、父の声。
「友達だろ?」
振り向く。
落ち着いた顔。
全部分かってる顔。
「遥花さんの幼馴染でもあるそうじゃないか」
逃げ場、ない。
「……そうですけど」
一応返すけど、
完全にペース握られてる。
横を見ると、
遥花さんがまだ状況飲み込めてない顔してる。
「え……?」
軽く手を上げる悠。
その空気がちょっとズレてて、
思わず、ふっと笑いそうになる。
「……ほんま、最悪や」
湊父は大学関係者です。
湊卒業後に親しくなりました。
湊はコネ入学みたいだと嫌がって誰にも言ってません笑




