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玄関が開く音。
「お邪魔しまーす」
いつも通り入ってくる悠。
でも——
「……あれ?」
リビング見て、止まる。
キッチンで動いてるのは、湊。
「……珍し」
「お前がやってんの?」
「まあ、たまには」
普通に返す湊。
手際よくコンロの前に立ってる。
「……へぇ」
悠、ゆっくり中に入る。
視線が、ソファへ。
遥花が座ってる。
クッション抱えて、ちょっと大人しい。
「……遥花」
「なに」
「なんでお前座ってんの」
「別にいいでしょ」
もう一回湊見る。
また遥花見る。
もう一回湊。
「……ふーん」
にや。
「なに」
遥花、警戒。
「いや別に?」
ソファの背もたれに軽く寄りかかる。
「いつもお前がちょこまか動いてんのにさ」
ちらっと視線。
「今日は王様?」
「違うし」
「じゃあなんで湊が全部やってんの」
「……今日はそういう日なの」
「どんな日だよ」
「……」
一瞬詰まる遥花。
「……っ」
湊が軽く息詰まらせる。
「お前も分かりやすいな」
悠、笑いながら言う。
「なにが」
「いや別に?」
肩すくめる。
「優しい彼氏だなーって」
「普通やろ」
「へぇ〜」
にやにや。
「……」
遥花、ちょっと目逸らす。
「……あー、でもさ」
悠、わざとらしく続ける。
「優しさってさ、理由あるよな」
「……は?」
「急に家事全部やるとかさ」
視線、遥花へ。
「普通じゃないじゃん」
「……」
「……」
一瞬の沈黙。
「……っ」
湊、またむせる。
「お前今日どうしたの」
悠、完全に面白がってる。
「いや、別に……」
「別に、じゃないだろ」
「……」
言葉詰まる湊。
悠、確信。
「……あー」
ちょっと声低くして、
「動けない感じ?」
一瞬で空気止まる。
「……は?」
遥花、睨む。
「いや違うならいいけど?」
完全にニヤけてる。
「違うし」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「じゃあ立ってみ?」
「なんでよ」
「確認」
「しない」
「じゃあ黒」
「黒じゃない」
「じゃあグレー」
「うるさい」
「じゃあ確定だな」
「確定してない」
悠、満足そうに頷く。
「なるほどね」
「だからなにが」
「いや?」
「青春だなって思っただけ」
「うざ」
でもちょっと顔赤い。
その横で、
「……すみません」
湊、小声。
「なんでお前が謝んの」
「いや、なんか……」
「いやお前悪くないだろ」
笑う悠。
「むしろ頑張った側だろ」
「……」
「……」
沈黙。
「……悠」
遥花、低め。
「帰る?」
「早くない?」
「いいから」
「まだ飯食ってない」
「じゃあ黙って座ってて」
「はいはい」
楽しそうに座る。
「無理はさせんなよ」
軽いトーンのまま。
でもちょっとだけ真面目。
「…無理、しました?」
「……し、してない」
「ならいいけど」
それ以上は踏み込まない。
遥花、少しだけ視線落とす。
そのあと、小さく息吐いて
「……ご飯できた?」
って、いつもの声に戻る。
「もうすぐです」
くすっと笑って、
空気は、いつもの3人に戻る。




