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9月の終わり頃から、少しずつだった。
最初は、ほんの些細なこと。
「ただいま」
「おかえり」
玄関で顔を合わせて、少し笑う。
それだけで満たされてた。
仕事終わりに迎えに来てくれて、
会えた瞬間に分かるくらい嬉しそうで。
「遥花さん」
って呼ばれるだけで、
なんとなくくすぐったくて。
手を繋ぐのも、抱きしめられるのも、
全部が少し特別だった。
でも。
10月に入ったあたりから、
「今日ちょっと遅くなります」
そういう連絡が、少し増えた。
「了解」
それに対して、何も思わない。
むしろ、
「そっちも忙しいよね」
って、自然に返せるくらいには、
お互いの生活を分かってる。
帰ってくる時間がずれても、
「ご飯、先に食べてていいですよ」
「うん、ありがとう」
そんなやり取りで済む。
一緒に食べれない日もあるけど、
それでも同じ家に帰ってくる。
それで十分だと思ってた。
11月。
湊が後輩の話をすることが増えた。
「ちょっと手かかる子で」
苦笑いしながら話す顔は、少しだけ余裕がなくて。
でも、その分ちゃんと“先輩”してるのも分かる。
「ちゃんと教えてるんだね」
そう言うと、
「当たり前です」
って、少し照れたみたいに言う。
その会話も、好きだった。
前みたいに、すぐ触れてくることは減ったけど。
隣に座る距離は変わらないし、
たまに手が触れるだけで、
ちゃんと“ここにいる”って分かる。
だから、気にしてなかった。
気にしてなかった、はずだった。
「……あれ?」
ふと、思う。
いつからだっけ。
ちゃんとキスしたの。
思い出そうとして、少しだけ詰まる。
できないわけじゃない。
でも、“すぐに出てこない”ことに気づく。
「……まあ、いっか」
忙しいし。
疲れてるし。
そんな日もある。
12月。
外は寒くなって、自然と距離は近くなる。
ソファに並んで座って、
同じブランケットに入って。
肩が触れて、
寄りかかって、
それが当たり前みたいになってる。
「……あったかいですね」
「うん」
そういう時間は、増えてる。
むしろ前より落ち着いてる。
でも。
「……」
違和感ってほどじゃない。
不満でもない。
ただ、ほんの少しだけ。
何かが足りない気がする。
でも、それが何かは分からない。
分からないまま、
「まあ、いっか」
で流せるくらいには、
今の関係が心地よかった。
だから、多分。
ちゃんと気づくのは、




