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紅き薔薇の夢の果て  作者: みなと


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10:犯罪者

 犯罪者、と聞いてエレディア王国国王・キールは愕然とする。

 そんなことした覚えなんか国王であるキールには全く無い。そも、『犯罪者』という言葉は、一般的には『犯罪を犯した人』全般を指すが、法的には有罪判決を受けた人を指しており、捜査段階では『容疑者』とされる。

 犯罪者の引き渡し、ということは罪が確定しているということだろうが、そんな人がこの国にいるのか、とキールは考える。しかも引き渡し、というのは他国……イクシス王国からやってきた人物ということになるが、というところまで考えて、はっと思い当たった。


「まさか……」

「陛下、ど、どうすれば……」


 宰相は大層混乱しているようだが、それより混乱しているのはキールだ。

 何でこんなことになっているのかが意味不明だし、息子で王太子であるセシリオからは『聖女と婚約破棄したけれど、彼女のことは王家が囲い込んだままにしておくので問題ない』という報告だってやってきていたにも関わらず、蓋を開けてみれば全くそんなことは出来ていない。

 婚約破棄に関する書類は不備などないし、セシリオのサインがあるのだから一旦はセラフィナを解放しなくてはいけないではないか、と頭をフル回転させるが、アレスは一切の容赦をせず、硬直しているキールに向かって口を開いた。


「おや……陛下、まさかこの国にイクシス王国からの犯罪者を囲っていたのですか。一体いつの間に……」

「し、知らん! 誰がそのようなことを……!」

「誰、って」


 国王夫妻は本当に知らないようで、倒れ込んだ王妃は侍女に支えられながらか細い声で知らない、と言い続けている。

 国王のこの反応から察するに、本当に彼も知らないのだろう。

 犯罪者を匿って、ある程度情報が漏れないようにすることのできる環境を持っている人物だろうが、そもそもその『犯罪者』とは誰なのだろうか、とアレスは思った。


「ちなみに陛下、犯人探しにはご協力させていただきたく存じますが……容姿や名前はお分かりになっておりますか?」

「……それ、は……」


 手紙を読み進めているキールの顔は、どんどん真っ青になっていく。最早土気色、と言ってもおかしくないまでに悪くなった顔色でアレスを見るが、これほどまでに狼狽えてしまうほどの相手、ということなのだろうか。


「……今は、言えん。だが、女公爵には話を聞かねばならんだろう……」


 絞り出したような声に、アレスはこれ以上突っつくのはやめておこう、と決める。

 ともかく、セラフィナのことを諦めてもらうには改めて念押しをする必要があるのだからな、と思って、アレスはふぅ、と小さく息を吐いた。


「ともかく陛下、その知らせによって曖昧になりかけておりますが、セラフィナは正式に王太子殿下の婚約者から除外されました。書類は受理されております故、これ以上の干渉はご遠慮願いたい」

「ぐ、う」

「そもそも……王立学園で、私刑のようにセラフィナに暴行を加えていた人間と、どうして再度婚約させたいとか、あるいは婚約関係を持続したいと思えましょう」

「…………」


 セシリオは、自慢げに語っていた、と影から報告を受けている。

 まさか本当に……と疑っていたが、被害者の父からもこうして言われてしまえば、本当なのだと受け入れざるを得ない。


 一人の女性を、寄ってたかって暴行し、一時は意識不明の状態にまで追い込んだ人間となんか、確かに縁続きになどなっていたくはないだろう。


 国王であると同時に、父親でもあるのだから、キールにだって理解できる。だが、国を治めている立場としては『聖女』を失うなどもっての外なのだ。

 この葛藤をどうすれば良いのか、と悩んでいるところに、セシリオが入室の許可もなく、いきなりレアンドラを伴って入ってきてしまった。


「な、セシリオ!?」

「父上、聞いてください! セラフィナが……って……」

「……ほう」


 何ともまぁ無礼なことだ、と感じているアレスだが、これ以上ここにいたところで会話は進まない。むしろ、婚約破棄の書類にサインをしてくれたことに関してはお礼を言う必要があるだろう、と思ってセシリオに対して、にこ、と微笑みかける。


「これはこれは王太子殿下、ご機嫌麗しゅう。そして、我が娘を解放していただきまして、誠にありがとうございます、感謝申し上げます」

「は!?」

「破棄の書類は恙なく、受領されましたので手続きに入っております。ご安心ください! そして、パストラーナ公爵令嬢と末永くお幸せに!」

「え? お、おい、アニムンディ侯爵!?」


 それでは失礼! と颯爽と謁見の間を後にしたアレスは、大変足取り軽く王宮を出てから、すっかり住み慣れた王都での自宅に戻った。

 セラフィナの場所を聞くと、中庭の四阿でまったりとお茶を楽しんでいる、とエマから聞けば自然と笑みが零れてくる。

 娘が聖女であることは変えられないことではあるし、力をどうすれば良いのか、というところだって今後考えていかなければいけないことである。

 最優先は、娘であるセラフィナが平穏無事に生きていってくれることではあるし、そのためなら領地に戻ってしまって、王家とは最低限の関わりをする、に留めておいてまっとうに貴族の務めを果たしていけばいい。そのうち、セラフィナの心が落ち着いたら改めて婚約者を探せばいいし、今すぐあれこれ考える必要なんかないんだ、と判断し、アレスは愛娘に会うために足取り軽く中庭に向かったのであった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「はん、ざい……しゃ?」


 そして、舞台は戻って、王宮の謁見の間。


「そうだ」

「犯罪者、って……え、ええ?」

「すでにイクシス王国からは、書状が届いている。ソルフェージュ公爵のものではあるが……」

「まぁ陛下、そのようなもの気になさらずともよろしいのですわ! 大体、どうして公爵がそのような書状を送り付けてきているのですか!」


 あまりに失礼だ、と怒っているレアンドラに対し、キールは重い口を開く。


「デイル殿下に、聖女マナ」

「………………え?」


 名前に聞き覚えがあるどころか、レアンドラとセシリオが匿っている二人ではないか、と国王は察したために、あの場では何も言えなくなってしまったのだ。


「その二人が、指名手配されておる。捕まえるために、イクシス王国の公爵までこちらに来ているんだよ!」


 キールの言葉を聞いたセシリオ、レアンドラは顔を青くしたままでマナとデイルのことを思い出しているようだった。

 何であの二人が犯罪者として……と考えても理由はソルフェージュ公爵がここに来ないと理解はできない。確かに、彼らをセシリオとレアンドラが連れてきたときは彼らの格好はボロボロであった。


 まるで、どこかから逃げてきたかのように。

 だとすれば、どこから逃げてきたのだろうか?


「そもそも、聖女マナがきちんとした聖女、だという証拠はあるのか?」

「あります! だって彼女は『遠見の水晶』を、何の説明もなしに使用してみせたんですよ! 我が国の国宝で、誰も使用できていなかったのに! ……あの、聖女セラフィナですら使えていなかったのですから!」

「それは……そうだが……」

「聖女マナこそ、我が国の正しき聖女である可能性が高いのでは!?」


 レアンドラの発言はもっともだが、他国から逃げている犯罪者をこのまま匿い続けていると、碌なことにはならない。

 既にイクシス王国からは、追手であるルナリアとミトスがやって来ているだろうし、匿っていたことを彼らに知られる前にこっそりと逃がしたとなれば、果たしてどのように責任追及されるのか、考えただけでゾッとする。


「……その話は、一旦置いておくとして……どのように彼らを匿っていることを説明するというのだ」

「まぁ……それはほら、聖女マナが命の危機を感じたから我が国への亡命を望んでいたとか、何とでも理由はつけられます!」

「そうですよ、父上! 母上、セラフィナとは婚約破棄をしたのですから、我が国から追放しなければいけませんし!」


 どうしてそこまで意見が飛躍するんだ、と止めてくれる人がいないこの場で、これ以上話したところで自分たちの都合の良いようにしか話は進まないだろう。

 それを知ってか知らずか、セシリオもレアンドラも、きっと自分たちはお咎めなしだ、聖女マナとデイルがいれが何も問題はない、と思っているのかもしれない。


 ――それはあくまで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であることが必須条件なのだが、マナはこれに気付いていない。


 マナは、『続編のヒロインがいる国に行ってしまえば、何かどうにかなる、と勝手に思い込んでいたから、魔獣退治の時に隙を見て逃げ出してしまった、というわけだ。

 結果として、マナもデイルも祖国からは犯罪者という不名誉なレッテルをしっかり貼られていること、犯罪者を捕えるべくルナリアとミトスが既にこの国に入国しかけている、とういうことに、全員が気付かないまま、時間だけが過ぎていってしまった。

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― 新着の感想 ―
>しかも引き渡し、というのは他国……イクシス王国からやってきた人物ということになるが、というところまで考えて、はっと思い当たった。 国王の方は知らずに引き受けてたのね。でも王妃の方は……? >倒れ込…
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