21:『初めまして』
クライマックス前、ちょい短めです。
ルナリアとセラフィナは、セラフィナの部屋で向き合い、座っていた。
メイドによってお茶の準備が行われ、セラフィナが『ありがとう』とお礼を言ってから誰もこの部屋に、許可があるまで立ち入らないように、と言っておく。
これで、ゆっくり話せるだろうから。
「改めまして……初めまして、と言っても良いのかしら」
困ったような表情のルナリアは、どこか申し訳なさそうな声で言う。それに対してセラフィナはゆるりと首を横に振って、そんなことはない、と否定した。
「いいえ……いいえ。貴女が助けてくれたから……『わたくし』は、こうして存在出来ているの。だから、まずはお礼を言わせてほしい」
セラフィナは、綺麗に微笑んでからすっと頭を下げた。
「ありがとう、わたくしを……救ってくれて」
「……セラフィナ様……」
「様、だなんてやめていただきたいわ。命の恩人なのに……」
「でも、結果的にあなたを巻き込んでしまっていて……」
「それでも、新しい未来がやってくるんだもの。貴女のおかげで……ね」
微笑んでくれるセラフィナは、セラフィナのはずなのに『ルナリア』だと確信できるような微笑みを浮かべていた。
媚びてなんかいない、凛とした彼女は、これからきっとイクシス王国で聖女としてしっかりと役目をこなすのだろう。マナなんかよりも相当強い聖魔力を持っているのは間違いないし、不安はない。
「ところで……不思議だったのだけれど、マナさんって、あんなに強かったのね」
「ああ、あれは主人公補正、みたいなものよ」
「……なぁに、それ」
はて、と首を傾げるセラフィナ。
どうやって説明したものだろうか、と悩んでいたルナリアだったが、ふと思いついてから微笑んだ。
「常に、自分自身に対して何らかの能力強化がかかっている状態……って言えばいいのかしら」
「……ああ」
これで理解してくれたらしい。さすがは本家本元のチートの持ち主。
とはいえ、ルナリア自身も自動回復を持っているのだから、マナに引けを取らない。だからこそ、最強最悪の裏ボス、とまで言われた存在なのだ。
削っても削っても、体力は回復していく。
魔法を使えば無効化されて、物理攻撃をすれば防御力を上げられる。
今度こそとどめを刺せる、と思っていたのに全回復をするし、一体何をどうすれば良いの!? と思いながら必死でゲームを進め、やりこんでいたころが懐かしくもあるほどだ。
だからこそ、そうした設定をきちんと理解していた自分だから、『ルナリア』に入っても違和感なく動くことができたのかもしれないし、これはこれで『愛』故にでしょうね! とちょっと誇らしげになる。
そもそも、あのマナはここまでやりこんでいないだろうから、ルナリアがどれだけ恐ろしいかなんて、理解をしていなかっただろう。
なお、続編にルナリアが出てくる予定はないそうだが、お生憎様。
何せ前作はマナ敗北エンド、と言っても過言ではない終わり方なのだから、色々改変されているということなのだろう。だから、遠慮なく介入できた、と言っても過言ではない。
「……しかし、どこの国でも……王太子殿下ってあんなの、かしら」
「……一概にそうだ、とは言えないけれど……悲しきことにそうなのかもしれないわね」
はぁ、と揃って溜息を吐けば、どちらからともなく自然と笑い合う。まさか、こんなにも穏やかな時間を迎えられるだなんて、思ってもみなかった。
「……でも、本当にありがとう。わたくしの物語を、どうしようもない繰り返しから、救ってくれて」
「……あの、……この体、は……」
「そのままで、いらして」
ふふ、と笑ってセラフィナは言う。
返せるものならば返したい、と思っているのに、とルナリアが少しだけ困ったような顔をして見せても、セラフィナは緩く首を横に振るだけだった。
「セラフィナ様……」
「一つの体に、魂は一つよ。もし体を返す、だなんてことしようものなら……今度こそわたくしたち、死んでしまうわ」
「あ…………」
そうか、と納得する。
だが同時に、この世界でのセラフィナは、『もう命がない』ということにも他ならない。
「本物のセラフィナ、は……」
「……」
考えを肯定するように、セラフィナは『駄目だ』と首を横に振った。
そうか、駄目なんだ。
だからこそ、『返せる』方法があるとしても、そうしてはいけない。そうなると、次こそ『私』は終わってしまうのだから。それならば、残っている面々で未来を歩いていくことが望ましいのだ。
「……何だか、怒涛の日々だったわ。目覚めて半年も経過していないのに、何だか忙しくて……ああでも、貴女がマナさんとデイル殿下を吹っ飛ばしてくれたの、とってもスッキリしたわ!」
「本当?」
「ええ、あの時の殿下ったら! 何て無様なんでしょう!」
とても楽しそうに笑っているセラフィナを見ていると、『ああ、ぶちのめして良かった』と思える。
だがしかし、笑顔がどことなく不穏な気配を宿しているのは、恐らく気のせいではない。実際、ルナリア自身も渾身の力……というにはほど遠いが、そこそこ遠慮なくデイルのこともマナのこともぶっ飛ばしている。
それに加えて、セラフィナに渡していたペンダントのおかげで、結果的にセシリオとレアンドラのこともぶっ飛ばせているので、愉しさは倍増、というやつかもしれない。
悪役だからとて、何をされてもやられっぱなしで居る、だなんて思わないでいただきたいものだ。
「……良かった」
「何が?」
セラフィナが安心して微笑んで呟いた言葉に、ルナリアが不思議そうに反応した。
「わたくしを救ってくれたのが、貴女で」
ああ、良かった。
彼女を、きちんと救えていたのだ。
こんなにも穏やかな微笑みを浮かべてくれていて、ありがとう、という言葉も聞けたことは、きっと何よりのご褒美かもしれない。否、そうに違いない。
だから、ルナリアも微笑み返す。
「こちらこそ、ありがとう。……ねぇ、貴女に出会えて……『私』、本当に幸せよ」
「……ええ、わたくしも」
笑い合う二人を見たら、きっとカイルはこう言うかもしれない。
――まるで姉妹のようですね、と。




