2:セラフィナの決意
コミカライズ第二章、始まりましたね!
ちなみに、私は原作担当しておりませんので、ご留意くださいませ(監修はしておりますが)
こちらの物語は書籍版の続きとして、『ルナリア』の物語の続きを書いたものになります。
Web版の続きは!? って言ってくださっている方が多かったので、「よっし書くか!」と思い立って書き始めたものになります。
『ルナリア』がどうなっていくのか、お楽しみくださいませ。
「セラフィナ……」
「お願いします、お父さま、お母さま」
ベッドの上で必死にお願いをしてくるセラフィナを見ていたアレスとヴィオラートは、顔を見合わせて、そっとセラフィナの頭を撫でてくれた。
「セラフィナ、無理はいけない」
「ですが……!」
「良いかい、君は……ようやく意識不明だった状態から回復してくれたんだ。まずは、体を休めることを最優先にしておくれ」
「……」
そう言われてしまっては、何も反論できない。
だが、これだけは確認しておかなければいけないんだ、とセラフィナはぐっと真剣な顔になってから、父と母に視線をやった。
「……では、ひとつだけ。これだけ教えてください」
「何だい?」
父であるアレスの眼差しはとても温かい。
これは、ルナリアが決して得られなかったもの。取り返したかった、宝物。
「……私は、どうして……今まで眠ってしまっていたのですか……!」
そのセラフィナの問いかけにも似た悲痛な色の混ざった言葉に、アレスもヴィオラートも、顔を顰めた。教えたくない、とでも言わんなかりの態度だったが、あまりに真剣な娘の目には、負けてしまったようだった。
「……それはね……」
ぐ、と何かを決意して、アレスは語り始めた。
その内容は……まさしくセラフィナにとって『地獄』そのものだったのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「セラフィナ、ゆっくりお休みなさいね」
そう告げて、ヴィオラートはそっと娘の部屋の扉を閉じ、退室した。
アレスもそうだが、ヴィオラートの顔色も悪くなってしまっていたが、夫妻は揃って溜息を吐いた。
倒れる前と比べて、セラフィナはとても強くなった気がする。
眼の光がとても強くなっているが、何より記憶をなくしていることで、皮肉にもセラフィナ自身がかつて持っていた強さが復活すらしているように見えてしまうのだ。
「……あなた、セラフィナは……」
「きっと、大丈夫だ」
双方頷き合って、セラフィナがしっかりと休めるように部屋から離れていくが、その前にセラフィナ専属メイドには『何かあったらすぐさま連絡を入れるように』とは命じておいたから、きっと問題ないだろう。
セラフィナなら、乗り越えられる。
以前のセラフィナであれば、恐らく自分を責め続けたが、記憶をなくしたことで前を向けるようになったらしいセラフィナはきっと、自分の足で立ち上がれるはずに違いない。
この期待は、間違いなく外れることはないだろうから……。
「――信じられない」
セラフィナは、両親が出て行って一人になった部屋の中で、ぽつりと呟いた。
そして、自分の怪我を改めて見てから、目を閉じる。
「……きっと、使えるわ。大丈夫……大丈夫だから……」
自分に言い聞かせるように、小さな声で呟いてから自身へと魔法をかけていく。
「完全治癒魔法」
ふわ、とセラフィナの体を桃色の光が覆っていき、足に感じていた痛み、同じく腕に感じていた痛みも何もかも、すっと消えていくのを感じる。
「……できた」
手を握って、開いて。
さっきはこれをしただけで、ずぐ、と鈍い痛みが走ったものだが、今はすっかり感じられない。オマケ、というべきか、傷跡も綺麗さっぱり消えている。
「あら、やっぱり効果はルナリアの時のままね。これならきっと……」
自分には力がある、と確信したセラフィナは、両親に言われた通りに体を休めることを心に決める。
「でもまさか……私が『悪役』?とかにでっち上げられて、婚約破棄をされた時に王太子殿下や彼の取り巻き、婚約者に成り代わった公爵令嬢の取り巻きにも殴る蹴るの暴行をされた挙句、意識を失ってしまった……だなんてね」
あはは、と乾いた笑いがセラフィナの口から零れるが、その笑みはじわじわと冷酷なものに変化していく。
「何のための婚約なのかを認識しない、しようとしないお馬鹿さんだった、ということ。そもそもこのセラフィナが馬鹿みたいに聖女として有能だったからって、自分の公務までもを押し付けていた、だなんて……まるで」
ああそうだ、似ているんだ、とセラフィナはしみじみ思う。
「デイル殿下のようだわ」
静かに呟かれた言葉と名前に、セラフィナ自身がぞわ、と寒気を感じてしまった。
マナとデイルにたっぷり苛め抜かれた過去を思い出してしまい、ぶるりと震えるが、自分が明け渡した体に入った『あの人』ならば、何となく問題ない、とも思う。
たった一人だと思い込んでいた自分に対して、とっても温かい言葉をかけてくれたあの人に任せて、セラフィナ……もとい、ルナリアは逃げ出してしまったものの、ひとつの体にふたつの魂なんて入るわけがない。
体一つに、魂は一つ。
何かで学んだわけではないものの、これは本能的に『そうだ』と思えることなのだから、仕方がないというものだ。
「……私はもう、逃げない、って決めた」
かつては逃げた。
だが、やり直しできると分かって、いざやり直しが始まった矢先にこれだ。
「私、不運なのかしら」
困っちゃうわね、と部屋で呟いたセラフィナは、もう一度体を起こす。
ベッドサイドにあるテーブルには、使用人を呼ぶためのベルもある。とりあえず、これでさっきのメイドを呼んでしまおう、と思ったセラフィナは、ちりり、とベルを鳴らせば、すぐさま駆けつけてくれた。
「お嬢様、お呼びで……って、起き上がってはいけませんよ!」
「大丈夫よ、見てちょうだい」
セラフィナはさっきのように、袖を捲る。
見てはいけない、と慌てて目を逸らそうとしたメイドは、つるりと美しい腕になっているセラフィナの腕に、思わず見入ってしまった。
「え……?」
「ふふ、自分に回復魔法かけちゃったわ」
「お嬢様……」
叱られてしまうかもしれない、とセラフィナが思うものの、メイドは嬉しそうに微笑んだ。
「良かった、ようやくご自身を大切にされるんですね!」
「ようやく、って」
「お嬢様……ああそうでした、記憶が……。ええと一旦あれこれ置いておきますが、目が覚める前のお嬢様ったら、どれだけ私や旦那さま、奥さまが言っても……決して自分には回復魔法をお使いにならなかったんですよ! でも、安心しました。こうしてご自身を大切にできるようになったのであれば、むしろ記憶が無くなってしまった方が良かった、なーんて想っちゃいます」
あはは、と笑うメイドの言葉に一瞬硬直してしまったセラフィナだったが、元のセラフィナはきっともう、『居ない』のだろう。
自分と違い、セラフィナは何らかで既にこと切れていたのかもしれない。魂が入り込める僅かな残り時間のほんの一瞬に、自分が入り込んだから蘇生した、と考える方がしっくり来てしまう。
そんなものがあるのかないのか、と問われてしまえば『分からない』が答えではあるものの、こうして実現できているのだから、何もおかしいことではない。
こうなったのにも、何か理由があるはずだ。
だから、それをきちんと解明して、このアニムンディ家でセラフィナが笑って過ごしていけるために。
王家から何かまずいことを言われないように、つつけるところを無くしてしまってから、きちんとしてしまってから、セラフィナとして第二の人生を歩んで行こう。
「(……って、勝手に決めちゃったけど……ごめんね、セラフィナ)」
こっそりと心の中で謝りつつ、よっこいしょ、と掛け声をかけながらベッドから起き上がった。
「ええと……」
「そうだ、お嬢様は記憶が……! 失礼いたしました、お嬢様専属メイドのエマ、と申します」
「エマ、改めてよろしくね」
「はい! メイドとして、専属護衛として、お嬢様のことを今度こそお守りいたします」
とても強い決意の元、エマはセラフィナに微笑みかけてくれた。
ああ、味方がいるって明確に分かるだなんて、とっても心強いことだったんだ。改めてセラフィナがそう思っていると、エマがセラフィナの周囲をぐるぐると回っているではないか。
「……エマ?」
「失礼いたしました! その……お嬢様、足の怪我も……?」
「ええ、全部治したわ」
「……っ!!」
何やら感動しているらしいエマは、ぶわっと涙を零すものの『良かった』という声と共に嗚咽が聞こえてくる。
そんなに感動するほどのこと……? と思っているセラフィナは、ハッと思ってしまう。
まさか、セラフィナって自己犠牲ありきで色々頑張っていたのでは、と。
実際コレは当たっているのだが、セラフィナとして目が覚めたばかりのルナリアは、何となく居心地が悪い。いや、何かしたわけではないのだが、怪我をしているなら自分に回復魔法を使うのは当たり前のことだったし、自分が駄目になってしまっては今後大変よろしくない。
「(……セラフィナ……あなた……とんでもなく不器用さんだったのかしらね……。とりあえず、記憶喪失、ってとっても便利だから、このワードは今後の立ち回りとして有効活用させていただくわ)」
またもや心の中でそう呟いたルナリアは、エマに対してにこ、と微笑みかけた。
「エマ、きちんと回復するまで私のことを教えてくれない? ……記憶を無くしてしまって、お父さまやお母さまにも申し訳がないし、アニムンディ家の役にも立てないわ、って思って……」
そう、申し訳なさそうに告げれば、エマはすっとセラフィナの前に膝まづいた。
「お任せくださいませ、セラフィナお嬢様。何かあればこのエマを頼ってください。でも」
「でも?」
「今日はベッドの中でお過ごしくださいませ!」
「え」
わし、と肩を掴まれたかと思えば、エマによってもう一度ベッドにぽい、と放られてしまった。
これはセラフィナがどうとか、というよりはエマが護衛として習得しているであろう、体術もあるのだろうが、今度教えてもらわなければ、とセラフィナはベッドの中で決めたのだった。




