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【完結済】紅き薔薇の夢の果て  作者: みなと


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18/22

18:馬鹿は反省しない

 マナがようやく自分のやらかしを後悔していたころ、これから自分に何が降り掛かってしまうのかを必死に考え、結論に到達したらしいセシリオは、焦っていた。


「くそ……っ、くそくそくそ!!」


 どれだけ怒り狂ったとしても、セシリオがやらかしてしまったことには変わらない。事実として残っているのは『王太子セシリオが聖女を罰したが、それは聖女が偽物だったからである』ということだけ。

 しかも、この国の公爵令嬢まで絡んでおり、王立学園という場でリンチが行われたことも、国中に広く知られている。

 だから、色々な人があるべくして起こった事件だ、という認識をされているということまでは、セシリオやレアンドラ、学園に通っている生徒たちは知る由もない。


「どうしたら……俺の立場を回復できるんだ……?」


 ひたすら考えるものの、いい考えは出てきそうにない。

 セラフィナに再婚約を申し出ようとしても、恐らく、ほぼ間違いなく、拒否されてしまうことは目に見えている。


 あくまで、『罰を与える!』とか言いながらのあの時期は確かにセラフィナは『遠見の水晶』を使うことは出来なかったのだから、正しいことではあった。

 一部ではここまでしなくて良いのではないか、という声もあがっていたのも知っているが、無視しておいた。


「……父上は……セラフィナの能力に関しての文章を神殿と……それから、国民に向けて発するとか言っているし……」


 明らかにやりすぎていたことに関して、謝罪をしたくともアニムンディ家からは、これ以上関わるなと先に釘を刺されているし、下手に動いてはセシリオの立場が余計に悪くなるだろう。

 だが、王太子として過ちをきちんと認めている、ということを示しておかなければ、間違いなく今後の生活が最悪なものになること、これこそ間違いない。


「そうだ……確か、アニムンディ家が王宮内での職を辞して領地に帰るとか……。その時だ、その時にレアンドラと共に謝罪すれば良いんだ!」


 簡単なことじゃないか! と高笑いをしてから、セシリオはいそいそとレアンドラに手紙を書いた。

 数日もしないうちに、分かりました、という内容の手紙がやって来て、ホッと胸を撫でおろしているところに、またまたちょうどいいタイミングでアニムンディ家の登城の知らせがやってくる。


 そうか、自分にチャンスがやって来ているんだ、と喜んだが、ことはそんなに簡単なものではなかったのである。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……お父さま」

「何だい、セラフィナ」

「あなた……」

「ヴィオラート……その、だな」


 こそこそと小声で話をしているのは、アニムンディ家ご一同様。

 セラフィナは、ここで挨拶をしてから領地へ帰ってしまえば、きっとこの王家には積極的に関わりすぎることもないだろうと思っていた、が。


 国王に対してご挨拶をする、というのはまぁよくあることなので、これは良いとして。


 何で、セシリオとレアンドラが、ちょっとどや顔をしてこの場に居るのかが分からなかった。

 王妃がここにいるのは理解できるが、セシリオとレアンドラは一切関係ない。なのに何でいるんだ、とアニムンディ家全員が思っている。


「セラフィナ、お前に怪我をさせたことは謝ってやろう!」


 もう帰るか、そして領地に行くか、と顔を上げた途端にこれである。

 隣で国王が頭を抱えているし、王妃もとても顔色を悪くしている。ああ、この二人は押し切られてしまったのかな、と思えるのだが、宰相や他の家臣たちはセシリオたちがいることに対して唖然としている。


「お父さま……これ、殿下やレアンドラ様が勝手にここにいる、だなんてこと……」

「あり得るんだよ……」

「この国って、これから大丈夫なんです?」

「…………多分」


 とても自信なさげに頷いているアレスだが、何やら眉をひそめている。


「お父さま……?」

「ソルフェージュ公が……おらんな」

「……」


 そういえば、とセラフィナは頷く。

 セシリオは謝ってやったんだ、ととてつもないドヤ顔だったが、段々眉間に皺が寄っていく。不機嫌になっているのは分かるが、勝手に来ているらしい状態の人に、何をどう言えば良いのか分からない。あと、この人に関わりたくない、と心から思っているセラフィナは、はぁ、と溜息を吐いた。


「何だ、俺と離れることがそんなに……」

「陛下……何故殿下がここに?」

「……すまん、そなたらをこころよく送り出すつもりが……」


 ルナリアにメンタル的に〆られて以降、キールはすっかり元の……というか、暴走気味だったような性格が落ち着いている。

 恐らく、今日のこともセシリオに話していなかったのだろうし、何ならかん口令を敷いていたまでありそうなものだ。


「……まぁ、陛下のお考えは分かりました。あと、殿下に何かを言いたいとか、そういうことは一切ございません」

「え」

「レアンドラ様とどうぞお幸せに、くらいしか思いつかなくてすみません」


 あっけらかんと言われた内容に、セシリオもレアンドラもぽかんとした。

 これは、本当にあの『セラフィナ』なのだろうか。


 縋るかのようにセシリオに対してまとわりついていた彼女が、記憶をなくしただけなのに、と思っていると、セラフィナはすっと綺麗なカーテシーを披露した。


「聖女としての役目も、全て放棄する手続きを取らせていただきました。あんなことをした方々のためになど、この力を使いたくございませんもの」

「何だと!?」

「まぁ、怖い。また怪我でもさせられたら、たまったものではありませんわ。それに……イクシス王国の犯罪者も匿っていたそうで、恐ろしい方々ですこと」


 嘲笑うかの如く言ってから、セラフィナはすっと父の後ろへと移動する。

 さぁ、これでもう終わりだ。全て投げ出して、家族と幸せに過ごせるんだ、とそう思っていたセラフィナをはじめとしたアニムンディ家だったが、下がろうとしたときに謁見の間の扉が開かれる。


「おお、ソルフェージュ公!」

「……え」


 セラフィナが弾かれたようにそちらを向けば、にこやかな笑顔でマナとデイルをがっちり拘束してやってくるルナリアの姿が視界に入る。


「(……っ!)」


 ああ、デイルとマナの、何と無様なことか。

 もしかして抵抗でもしていたら……と思っていたが、案の定。マナはルナリアに悪態を吐きまくっているし、デイルはデイルで何かを許してくれ、と必死に懇願している。


「大変申し訳ございません、陛下。そして聖女セラフィナ様」

「あの……」

「こちらの二人、ちょっとイクシス王国まで転移させてまいります。後ほど、これらをお持ちいたしますので、どうぞ、よしなに」


 え、と誰かが呟いた。

 お持ちいたします、とは一体どういうことなのだろうか。

 というか、コレ持ってこられても困るんですが……と、憔悴しきった宰相の声が聞こえたが、ルナリアもミトスも無視している。

 そんなに攻略の知識を持っていてちやほやしてほしいなら、別の国でやってほしい。それでルナリアもミトスも考えを一致させたのだが、もう一つ大きな理由があった。


「それはそうとして、聖女セラフィナ様」

「は、はい!」

「あくまで提案、なのですが……ちょっとこの二人をこちらに持ってまいりますので、セラフィナ様は我が国にいらっしゃいませんこと?」


「え」

「ええ、と」


 ぽかん、としているセラフィナとアレスだったが、これに猛反発したのは言うまでもない、マナであった。


「ふざけたこと言わないでよ!! イクシス王国の聖女は……」

「あなた、何もしていないでしょう? デイル殿下と共にこちらに丸投げしようかしら、って思っていたんだけど」

「そ、ソルフェージュ公……さすがに我が国も……」

「まぁ、何を仰いますの。こちらの国に聖女が不在となるだなんて、そんなことあってはいけませんし、ねぇ?」


 ねぇ、に込められた迫力はとんでもない。

 何度も首を縦に振っているキールを王妃が諫めているものの、その王妃のことも射殺さんばかりの視線で見つめてあげれば、王妃も真っ青になってこくこくと力なく首を縦に振った。

 しかし、こんなイレギュラーすぎるほどの事態、マナやデイルは受け入れるわけがない。


「……ざ、けんな……」

「何です?」

「ふざけんな、って言ったのよ悪役令嬢風情が!」


 思いきり体をよじって、マナがセラフィナの方に走り出す。

 両手を縛られているが、そこはさすがの主人公補正、とでも言うべきなのだろうか。バランスを崩しながらも走って、意識を集中させながらセラフィナに向けて打ち込めるだけの炎の球を一斉に放った。


「……マナ嬢、あんな魔法使えたのか!?」

「ああ、あの子は使えるのよ。……まったく、手間をかけさせてくれるじゃないの」


 困ったわ、と言いながらルナリアの目にあるのは『愉しさ』。

 良かった、本当にうまいこと進んでくれている。なら、それをとことんまで利用するだけだ。


「セラフィナ、あんたも余計なことしてんじゃないわよ!! そのまま焼け死ね!!」

「きゃあ!?」


 何とか魔法で防いでいるが、セラフィナとなったばかり。魔法のコントロールが秀逸だとはいえ、一発当たりの威力はマナの攻撃魔法の方が高い。

 セラフィナも必死に防いでいるが、防御魔法に亀裂が入り始めている。


「……っ」


 まずい、と思った瞬間、ふっとセラフィナの隣に立って、肩に手を置いてから、ルナリアはセラフィナへと魔力を流し始める。

 いつの間に、と思ったセラフィナに、ルナリアが微笑みかけた。


「大丈夫です」

「あ……」

「よく、頑張りました」


 聞いたことのある、言葉だった。

 ほんの少しだけ前、というだけなのに、途方もなく懐かしい言葉に、セラフィナは泣きそうになる。


「……頑張れ……ました、かしら」

「ええ、とっても」


 セラフィナの展開している防御魔法は、あっという間に補修され、強度も増していく。

 家族だって心強い味方ではあるが、それ以上に心強い味方がいたんだ、とセラフィナの胸が熱くなった。


「だから……もう、いらないものは捨てて、『未来』へと、歩いていきましょう?」

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