17:捕縛
セラフィナとアレスが自宅に帰ってから、ほんの数刻後。
あっという間に情報がレアンドラのところにまで到達し、王宮ではセシリオの管轄しているありとあらゆる所について、ルナリアとミトスによって家探しともいえるような捜索が行われていた。それは容赦なく、色々ひっくり返しながらだったせいもあってか、数分に一度セシリオがブチ切れていた。
「お前たち、気を付けて俺の部屋のものに……って、あぁ言ったそばから!!」
ふざけんな、と怒って地団駄を踏んでいるが、ルナリアやミトスがそんなもので怖がるわけなどない。
むしろ鼻で笑われてしまい、恥ずかしい思いをするのはセシリオのみ。
「まぁ、何という幼い王太子殿下でしょう」
「メンタルがクソガキなんだろ、放っておけ」
「だって邪魔なんだもの」
ほほほ、と笑いながらあれこれ探している中、ふとルナリアがデスクの上に無造作に置かれていた金貨を見付けて、手に取った。
「……これ」
「うちの国の金貨、だな」
ルナリアとミトス、二人の視線がゆっくりとセシリオへと向けられた。
どういうことだ、と聞かれているのが視線だけで分かるほど、二人の眼差しは鋭い。
「仮に、イクシス王国へと旅行にでも来ていたと仮定するとしても……」
「帰る時にまたすぐ両替するでしょう? それに……こんな風に置いておく?」
「俺なら置かない」
「お、お前たちの常識をこちらに勝手に当てはめるな!」
「入国履歴なら、調べたらすぐに分かりますわよ」
ぐ、と言葉に詰まったセシリオ。
色々と、全てが物語っているので、何ともまぁ分かりやすい人である。
入国履歴についても、ファリトゥスかアリシアに連絡を取れば、あの二人なら爆速で調べてくれるだろうし、何なら嬉々としてこちらまでやって来るかもしれない。
そうなるとさすがに業務に支障が出てしまう可能性があるから、ということでルナリアとミトスで行動しているのもあるが、今回に関しては別の理由もある。
それが、セラフィナだった。
ルナリアから聞いていた前情報のまま、全てが進んでいくものだから、ミトスは色んな意味で感心していたが、これをマナも知っているということに恐怖を覚えた。
だが、『天使の加護は貴方と共に』は、二作でそもそも開発が終了してしまっているので、ここから先はない。そもそも、最初からしてマナが『敗北』ということで進行しているのに、無理やり絡んでしまったからおかしなことになっている、と言われれば納得しかできなかった。
巻き添えを食らってしまった、本来は恐らくここに居るはずではない『ルナリア』が、暴行されて意識不明から一瞬だとしても死を迎えてしまったセラフィナの体にすっぽり入ってしまったのがいい例だ。
「せっかくもっともっと幸せになってもらうはずだったのに……」
「まぁ、そう言うな。何か考えがあって動いているんだろう?」
「一応は、ね。セラフィナ様が乗ってくれるかどうか、それがネックになるけれど……」
会話をしながらテキパキとセシリオを捕縛し、ぽい、と床に放り捨ててから金貨を魔力でふわりと宙に浮かせ、袋にぽん、と放り込む。
イクシス王国に戻った際にはこれを証拠として提出しつつ、誰が触れたのか魔力痕を測定してもらう必要があるため、王国に持ち帰らねば、とルナリアは収納魔法を展開して、ぽい、と放り込んでおいた。
何やら後ろから『は!? いやいや待て、無詠唱!?』とか聞こえてきたが、ルナリアもミトスも完全スルーしておいた。
取り合ってもろくな事にならないのは、目に見えている。
「無視してて良いのか、あれ」
「取り合ったところで、こちらには何の利益もないの、見えているでしょう」
「それもそうか」
よし、と頷き合ってから、もうほとんど用済みになっているセシリオをどうしたものか、と二人は考える。大した利用価値もなさそうだし、それならばパストラーナ公爵家にさっさと移動して家探しでもした方が有意義な時間が過ごせるというもの。
互いにもう一度頷き合ってから、セシリオのことはガン無視して、パストラーナ公爵家へと向かうべく、案内役として付き添ってくれている宰相を振り向いた。
「宰相閣下、というわけでパストラーナ公爵家への案内か、馬車を用意していただけますと、とても助かるのですが……」
「か、かしこまりました!」
「おい、人の話を聞けよ! おいってば!!」
セシリオがどれだけ騒ぎまくろうとも、ルナリアもミトスも、一切気にしていない。聞こえません、と言わんばかりの態度を貫く彼女たちを見ていると、まるで自分がとてつもなくおこちゃまである、と証明しているような感じだった。
これだけぎゃんぎゃん騒いでいれば、当然、城の他の面々にも声が聞こえており、セシリオの部屋から出ると逃げるようにこそこそと散らばっていくのを見て、野次馬根性はどこの世界でも共通か……と、ルナリアがこっそり溜息を吐く。
「ソルフェージュ公、アストリア公、馬車をご用意いたしますのでこちらへ……」
「どうもありがとうございます」
「おい!!」
最後まで無視を貫いてから、パストラーナ家へと向かったルナリアとミトス。
到着早々にレアンドラから『何の御用かしら!!』とふんぞり返った態度を向けられたので、ルナリアもミトスも、『これも容赦いらねぇな』とお互いに頷き合ってから、馬車を用意してもらっている間に、国王に一筆書いてもらった用紙を見せつける。
「……へ」
「捜索して良い、っていう権限はいただいておりますし、国王陛下のサインもあるので、お好きなだけご確認くださいまし」
「……っ!」
ルナリアの手から書類を奪いとる仕草は、かつての義母と義妹にとても似ていて、何だか滑稽だと笑いが溢れてきてしまった。
「そん、な……」
わなわなと震える様子もまるきり同じ。
ああ、何て無様なんだろう、とルナリアはほくそ笑んでから、呆然と立ち尽くしているレアンドラをぐい、と押し退けて遠慮なくパストラーナ家の中へと入っていった。
「(マナ様とデイル様は逃がしておいた……隠し通路を通って、王宮に逃げて行ったはずだし後はセシリオ様がうまくやってくれるはず……!)」
内心そう思っているレアンドラだったが、歩いていたルナリアがくるりと振り返り、ぎくりと体を強張らせた。
「な、に……?」
「言い忘れておりましたが、何か痕跡の欠片でもあったら、容赦しません」
「……!」
マナの魔力反応も、デイルの魔力反応も、知っている。
追跡してしまえるように、そういう玩具もアリシアに開発してもらっているし、持ってきているから何も問題はない。
ルナリアもミトスも、一切手を抜くことはしない。
「……っ!」
「魔力の痕跡なんか……消せるわけもありませんし……ねぇ?」
にこ、と得体の知れない迫力の笑みを浮かべているルナリアに、何を言っても言い負かされてしまうことは確実だった。
勝てるわけがない、勝とうだなんて思ってはいけない。
自然とそう思ってしまい、レアンドラは地面にすとん、と座り込んでしまった。
「まぁレアンドラ嬢、どうなさいまして? そのように座ったら、お召し物が汚れてしまいますわよ?」
くすくすと笑っているルナリアに、一切他意はないが、レアンドラには恐怖しかない。
ほんのわずかな手掛かりを持って、ここまで追いかけてきて、到着して一日も経過していないのに、あっさりここまでやって来ている。
「……そうそう、一つ申し上げておきましょう。お前たちが匿っていた……聖女マナとデイル殿下。そちらに差し上げるのはいかが、と提案させていただく予定です。イクシス王国にて、ちゃーんと罰を受けていただいてから、にはなりますけれど」
微笑んで告げられた内容だが、恐らく良い情報ではない。
「代わりに、聖女セラフィナをこちらにもらい受けようかな、って。書類はこちらで作成するように手配しておきますので、ご安心くださいませね」
「こ、こちらの聖女の役割は」
「あら、聖女マナにやってもらってはいかが?」
畳みかけるように言われてしまい、何も言えなくなったレアンドラを置いてから、今度こそルナリアとミトスは屋敷の中に入っていった。
結果は推して知るべし、というやつではあるが、隠し通路もあっという間にルナリアたちにばれてしまい、マナとデイルはあっという間に捕縛されてしまい、イクシス王国に送還する前にエレディア王国の王宮にて、王家との関係についてある程度調査をするべく、ルナリアが提案をしていた。
ちなみに、マナとデイルは魔法でがちがちに拘束されており、どうにか抜け出せないか、と抵抗していたところ、ルナリアが気付いてデイルの腹部に思いきりつま先を叩き込んだのだ。
「ぐ……ぅ!」
「デイル殿下! 何をするんですか、ルナリアさん!」
「貴女方が脱走なんかしなければ、こんなことにはなっていない。違っている?」
「……っ! 卑怯者だわ!」
「何とでも仰いなさい、痛くもかゆくも無いし……ああ、そうそう。もう一つ教えておいてあげましょうね、マナさん」
「何よ!」
コイツ、本当にあのパーティーでの一件を忘れているのか、というくらいにルナリアに噛みついてきているマナを見て、ミトスも呆れ返っている。
「貴女方、もう、いらないわ」
「…………っ!!」
ゲームの中で唯一、ヒロインの負けイベントでのみ聞ける、悪役令嬢ルナリアのとてつもなく冷たいボイスで言われる、このセリフ。
この発言をもってして、ルナリアは本来魔王召還をし、イクシス王国そのものを滅ぼすのだが、今は違う。
「色々と、きちんと、答え合わせをして、我が国に帰ってからしっかりと罰を受けてもらって、そして追放いたしましょう。……お可哀想なプリメラ家。娘の失態で、とことんまで追いつめられている貴女のご両親は……巻き込まれただけなのにね」
ルナリアの台詞は、ごくごく当たり前のものだが、思いがけずマナに対してはダメージを与えられたようだった。
ようやく真っ青な顔になって、『どうしよう』という後悔の台詞を吐き出したのだから。




