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【完結済】紅き薔薇の夢の果て  作者: みなと


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16/22

16:責任

 ずるずると、セシリオは言葉通り引きずられて謁見の間にやってきた。やめろ、とか離せ、とか色々叫んでいたが、悠然と立っているルナリアとミトス、セラフィナ親子、そして土下座をしたからか、地べたにそのままへたり込むように座っている己の父を見て、カッと血が登ったらしいセシリオは、ルナリアに一気に駆けてきた。ご丁寧に拳を振り上げて。


「貴様ぁぁぁぁ!!」

「まぁ、血気盛んなお方ですこと。怖い怖い」


 微笑んだルナリアは、ひらりとセシリオの突進を交わす。

 同時に、ミトスが足を引っ掛けてセシリオを転ばせてから背中を容赦なく踏みつけた。


「んぎゃ!」


 どたん、と派手な音を立てて転んだから、さぞや痛かったことだろう。

 その上でミトスに背中を踏まれたのだから、息苦しさも追加されたかもしれないが、そんなもの知ったことではない。正当防衛だ。


「き、きさま、なにを、んぐ……っ、い、痛い!」

「そりゃそうだろうよ、体重かけて踏んでるんだから」

「ぐぎぎ……!」


 悔しそうにしているセシリオだが、これでミトスと同い年か……と、ルナリアもセラフィナも呆れている。

 そして、こんなんと婚約させられていたのか……とセラフィナは更にものすごい顔をしている。


「セラフィナ様、もしやと思いますが……こちらの王太子殿下に、いつもこの様な扱いをお受けに……?」

「え、えぇ、まぁ……はい」

「お前!」


 セラフィナに対して、『何勝手なこと言ってんだ』と、叫んだセシリオだったが、その発言こそが『わたしが色んなことやりました、やらかしました』と証言していることになると気付いていない、とでもいうのだろうか。


「……呆れた、我が国の誰かさんと同じようなおバカさんだわ」

「はあ!?」


 ルナリアは、セシリオを踏みつけたままのミトスにちらりと目配せをする。意図を理解したミトスは、少しだけ足にかける力を多くしてみた。

 すると案の定、セシリオは憤慨して大声で怒鳴りつけてきた。


「離せって言ってるだろう!? あぁそうか、どうせそこの女に従ったんだな。……ハン、デイル殿下の言っていたように性根の腐りきった女だな!!」

「…………国王陛下?」

「……すまない」


 もう一度改めて、ルナリアに対して心底反省しました、と言わんばかりに土下座をしたキールの姿に、セシリオは更に顔を真っ赤にしたが、キールが続けた言葉を聞いて、目を点にした。


「我が息子が、貴国の罪人を知っていることは間違いない。……この馬鹿の管理する、王宮内全ての場所、そしてこいつの新たな婚約者の令嬢の屋敷の捜査権も……差し上げます……」

「へ?」

「罪人を匿った場合って……どんな罪だったかしらねぇ……」


 のんびりとした口調のルナリアだが、視線にはしっかりと殺気が込められている。

 ぞわ、と得体のしれない何かを察知しているらしいセシリオだが、それがルナリアからの殺気だとは気付いていないようだ。

 鈍感なのか、単なるアホなのか。

 どちらかといえば後者なのかもしれないが、ルナリアは気にすることなく、口を開いた。


「あぁ、でも犯罪者だと知らなかったから……そこのところは微妙なのかしら?」

「ソルフェージュ公、とりあえずこの人がデイル殿下を知っていることは確実だ。とりあえず、先程陛下より捜査権をいただいたわけだし、しらみ潰しに探していけば良いだろう」

「あら、そうね。そうしましょうか」


 にこ、と微笑みあった二人は、頷き合う。そして、ミトスは一旦セシリオの背中から足をどけてやったものの、背中にはくっきりと足跡が残っている。

 大変間抜けではあるものの、襲いかかってきたのは事実なのだから仕方がない。いきなり殴りかかってくる方がどうにかしている、というものだ。


「ぐ、っ……。この俺を足蹴にした報い、いつか受けてもらうからな!?」

「あらまぁ……何とでも仰ってくださいまし。そもそも、最初はあなたが殴りかかってきたのがことの発端。いきなり怒鳴りつけて殴りかかってくる……だなんて……これで王太子だなんて」


 くすくすと嘲笑うルナリアの態度があまりに気に入らないのか、セラフィナにばっと視線を移してから指さした。

 セラフィナを指さしたその指、へし折ってやろうかとルナリアが思っていたところ、セラフィナが無表情でつかつかとセシリオのところに歩いていった。


「フン……今更謝ろうとしたのか? だが遅いぞ、セラフィナ! そうだ、父上がしたようにお前も地に頭を擦り付けて謝れば許してやらんことも」


 ない、と続くはずだったらしい言葉は、ルナリアから変わってセラフィナを指さしている、その指をがし、とセラフィナが掴んで本来曲がらない方向に思いきり曲げたことによって、悲鳴に変わった。


「いだーーーーーー!?!?」


 ぐぎ、と何やら妙な音が聞こえたようだが、セラフィナは気にかけることもなく、淡々とした声で告げた。

 ついでに、セシリオの指を掴んでいた手を離して、まるで消毒するかのようにハンカチを出してから手を拭いている。それはそれは丁寧に、きゅっきゅっ、と。


「いい加減になさいまし。私、殿下に謝っていただく側でして、謝る側ではございません」

「な、なな……な……」

「だいたい、あなた方が私に冤罪ふっかけてきたというのに、その謝罪もまともにしていないわ、人を意識不明にしておいて暴力沙汰を起こしておきながら加害者側が守られているというのも、どうにもおかしい話ではありませんか。当家として、賠償金を請求したく存じます。あと、貴方もレアンドラ様も、よく分からない聖女マナ様とデイル様に踊らされていたんでしょうが、王家の一員としての責任、言葉の重さ、その他諸々、何だと思っているのです?」

「……あ、う」

「婚約破棄をしたというのに、私のことを名前で呼び続ける神経もおかしいと思うんですよね。どうなっているんです?」


 畳み掛ける様を見ていたミトスは、思わずぶるりと体を震わせた。


「……まんま、ルナリアじゃねぇか」

「だって、ルナリアだもの」

「いやそうなんだけど」


 あの詰め方はまさしくルナリアそのものであり、何となくセラフィナの背後にかつてのルナリアが見えるような雰囲気まである。


 これまでと、全く異なっているセラフィナを見て、口をぱくぱくと開け閉めしていたセシリオだったが、どうにか反論しなければと思ったのか、よろよろと立ち上がって一歩詰め寄った。

 だが、セラフィナがすっと一歩後ろに下がったため、その場で悔しそうにぎりり、と歯ぎしりをしている。


「こちらに寄らずとも、お話くらいはできるでしょう?」

「生意気だぞ!?」

「ですからね、殿下。もう一度申し上げますが……」


 セラフィナの纏う温度が、すっと下がった。それに気付いていないのか、セシリオは鼻息荒く『はぁ!?』と声を上げた。


「私、婚約破棄をしました。申し出たのは貴方の方です。それから、貴方はレアンドラ様と婚約をされましたね。それらは、すべてほかの聖女の導きだとかなんとか、言っておりませんでした?」

「それが何だ!」

「それ、イクシス王国の犯罪者二人組じゃないですか。殿下、もしかして馬鹿なんです?」

「…………」


 どこまで墓穴を掘ってくれるのか、いっそデイルよりも馬鹿っぷりと屑さ加減が増しているというか、大馬鹿すぎて何をどうしていいのか分からない、という雰囲気すら醸し出している困ったちゃんである。


「ば、馬鹿、だと?」

「馬鹿に馬鹿って言っても伝わらないかもしれませんが、一応馬鹿、って言っておきますね。あぁそれから、色々捜査をしていただきまして、私に対して暴行を働いた方々にも……しっかりと、きちんと、賠償請求いたしますので、お覚悟なさってくださいね」


 ここまで淡々とした反論が飛んでくるとは思わなかったセシリオは、ぐうの音も出ない、という言葉をしっかり体感し、更にはルナリアとミトスがスタスタとセシリオ保有の部屋など諸々の捜査に行ったのを見て、慌てて後を追いかけることしか出来なかった。

 残されたキール、そしてアレスにセラフィナは、揃って対峙し、ゆっくりとセラフィナが口を開く。


「陛下、私……どうやら彼らに暴行されてしまって、記憶を無くしてしまったみたいなんです。人が変わったように思えるのはそのせいなんですが……ふふ、でもこれでスッキリしますわ。……お馬鹿さんたちに、報いを受けさせることが出来るんですから」

「……ぐ、っ」

「改めてお伝えします。聖女としての活動は、一切、いたしません」


 予想できていた事とはいえ、これによって神殿から詰められることには変わりない。

 彼らも一時はセラフィナのことを責め立てたものの、聖女であることには変わりない。ただ、『遠見の水晶』の使い方を知らなかっただけだ、として考えを改め、きちんと謝罪に訪れていたようだ。

 これは、セラフィナが書いていた日記にもあったので、何かあった時の証拠として提示できるだろう。


「お前、聖女としての責任を……」

「はて、面白いことを仰いますのね、陛下ったら」


 あはは、と笑うセラフィナから、得体のしれない雰囲気を感じ、キールは体を強ばらせる。


「最初にこちらを偽物だとかほざいたくせに、聖女としての責任とか……寝言は寝て言え、というやつですわ。おかしな方。……お父さま、帰りましょう?」

「そうだな、セラフィナ。ははっ、領地に帰る支度をしよう!」


 笑いながら、親子はさっさと歩いて謁見の間から出ていってしまった。

 後に残ったのは、キールや宰相のみ。他にも役人はいたものの、セラフィナのことを止めることができない、というか彼女の言うことが正論であり、責めることなど出来ないまま立ち尽くすことしかできなかった。

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