11:到着
コミカライズ第二章、始まりましたね!
ちなみに、私は原作担当しておりませんので、ご留意くださいませ(監修はしておりますが)
こちらの物語は書籍版の続きとして、『ルナリア』の物語の続きを書いたものになります。
Web版の続きは!? って言ってくださっている方が多かったので、「よっし書くか!」と思い立って書き始めたものになります。
『ルナリア』がどうなっていくのか、お楽しみくださいませ。
「マナ様! デイル様!」
レアンドラが所持している屋敷に戻ったところ、マナとデイルは割と呑気に二人揃って眠っていた。
すやすやと眠っている二人を発見したレアンドラは、みるみるうちに顔色を真っ赤にし、サイドテーブルにあった水差しを取って、遠慮なく二人に水差しの水をぶっかけた。
「わぶっ!」
「きゃあ! な、何!?」
「目が覚めましたか。……呑気に惰眠を貪っているところ、申し訳ございませんが……貴女方が犯罪者として追われているとの情報が入っておりますが」
レアンドラの冷たい一言に、マナとデイルはさっと顔色を悪くするが、すぐさまマナが立ち上がり、顔を伝う水を拭ってからきりっとした視線をレアンドラへと向ける。
「それは、間違っております」
「間違い? はて、何故でしょうか」
「私たちは、不当な扱いを受けておりました。それから逃げてきているだけです!」
あまりに自信満々に言うものだから、レアンドラは面食らってしまう。それどころか、自信満々すぎて『マナの言っていることこそが本当なのでは』とすら思えてしまうが、イクシス王国から手配されているのも事実なのだ。
しかも、もう既にルナリアとミトスがエレディア王国にやってこようとしているのだが、マナは更に自信たっぷりなままで言葉を続けていく。
「そもそも、私がこちらに逃げてきたのは、正しき聖女としての役割を果たすため。……現に、この国の聖女が使えなかったものを、私は使えた。それこそ、私がこの国の聖女ということを指し示していることではありませんか?」
「……それは……」
そうかもしれない。
レアンドラはマナの言葉に納得しかけるものの、ハッと我に返るかのようにマナをぎろりと見た。まさかの反応に、マナもデイルも何事か、と顔を見合わせた。
「それは一旦置いておきましょう。それよりも、貴女がアドバイスをくださって断罪した聖女・セラフィナが……」
「まぁ、偽聖女がどうしたというのでしょう?」
「殿下に対して、正式に婚約破棄の書類を突きつけ……殿下は、サインしました」
「…………は?」
マナがポカンとしている中、デイルは鼻で笑ってからニヤニヤと意地の悪い表情を浮かべて口を開いた。
「それは、レアンドラ嬢からすれば、全く問題ないのでは? 貴女は殿下の婚約者となったのでしょう?」
「……我が国の慣例では、聖女が存在している場合、王太子と婚約するのは聖女の役目です」
「……は!?」
そんな慣習があったのか、とデイルが驚いてマナを見るが、マナも目を丸くしている。
「何で……」
やっぱりおかしい、とマナは咄嗟に自分の頭をフル回転させ、ゲームの知識を引っ張り出してくる。
そう、この続編では『聖女=悪女』、『悪役令嬢=正義』として話が作られているのだ。
前作であまりにルナリアを不遇にしたことに加え、ルナリアファンから『何でこんなにルナリアを虐げているのか』『ヒロイン側でプレイしていたけど、回数を重ねるたびに不快感がものすごい』などの感想が大量に会社に届き、それならば……と前作とは逆の内容にした…………はず。
「(なら、セラフィナを断罪したところでこの国には、別にデメリットなんかないじゃないの……)」
何が問題なんだ、と考えているマナは、気付いていない。
あくまで、『前作ヒロインが悪役令嬢であるルナリアを退け、恋愛EDなりを迎えた状態で続編の世界へと進んだ場合』のみ、この法則が適用されるのだ。
だがしかし、マナはルナリアに圧倒的敗北を突きつけられている。
というか、のど元過ぎれば何とやら、というのが本当である、というのを己自身で体現しているのだから、かなりたちが悪い。
あれだけルナリアに『否』を突きつけられた挙句、デイルは王太子の地位をはく奪された。
これらすべてがマナとデイルの企みであることは、イクシス王国では広く知られているところであり、マナもデイルもかの国ではまともに外を歩けないほどにイメージダウンしている。
マナの実家であるプリメラ家は、『あんな風にご令嬢が傲慢になるだなんて』と同情の声が多かったものの、今回の件で周囲から『娘可愛さに脱走の手助けをしているのではないか』という嫌疑まで駆けられ始めているのだが、マナは知らない。
マナもデイルも『知る』ことから、全力で逃げている。
それに加えて、マナは『自分がデイルと結果的に結ばれた』ということから、デイルとの恋愛EDを迎えた、と思っているから、結局はこのねじ曲がりっぷりに気が付いていないし、気が付かないのだ。
「せ、セラフィナ嬢は、強がっているのではありませんこと?」
「強がる?」
「ええそうです! だって、あれだけ殿下に好かれようとしていたのに、どうしていきなり婚約破棄を申し出てきたのでしょう?」
「それは……」
それはそうかもしれないが、と言いかけてレアンドラはハッと思い出して口を開いた。
「待ってください、セラフィナ嬢はこちらが断罪してから何だか様子がおかしくなっていたわ!」
「え?」
断罪後、とはつまり『ゲームの終了後』ということを意味するのでは、とマナは考えた。そして同時に『余計なことに首を突っ込みかけているのでは』とも思う。
「(……断罪後の世界になっていきているなら……これ以上介入したらまずい……?)」
「おい、マナ。どうしたんだ?」
「あ、ええと……」
「マナ様のいう通り、セシリオ様はセラフィナ嬢との婚約破棄を宣言なさいました。でも、その後はマナ様の仰っていたことと、話が異なっているのですよ!?」
知っている、とマナは心の中で呟いた。
婚約破棄を突きつけているシーンを『遠見の水晶』で見ていたし、そもそも学園も何もかも、レアンドラに案内してもらったおかげで、ほとんどの重要な場所はマナが出向かなくてものぞき見することが出来ているのだ。
だから、王家にもバレずにうまいこと色々できているのだが、セラフィナの行動は確かに今の時点でおかしい。
「それに、セラフィナ嬢だけじゃない。アニムンディ家そのものが動いております!」
「……え」
さすがにアニムンディ家には行ったことがないから分からなかったけれど、まさかセラフィナの実家が動いているだなんて思っていなかった。
「アニムンディ家、が?」
「そうです! ……マナ様は聖女ですし、遠見の水晶で見ていたから分かるのでは……?」
「え、ええと、あ……」
マナが中途半端にゲーム内の知識を説明してしまったことが、仇になっている。マナはレアンドラに対して『この国のことを色々知りたいから、学園とか王宮とか案内してほしいわ!』と明るく伝え、レアンドラの屋敷、王宮(入れるところまで)、学園、王都の中心部、など案内してもらってはいたが、あくまで『色々なところを見て回りたい』としたもの。
『遠見の水晶』は、使用者が行ったことのある場所しか見ることはできない。
これを伝えていなかったから、レアンドラやその他の面々からは、盛大に勘違いされているのだ。
そもそも『遠見の水晶』という名前だから、魔力を込めれば色々な場所を見ることができるだろう、と推測していたこの国の人々だが、実際は異なっている。
なお、セラフィナがこれを使おうとしても使えなかったのは、魔力の流し方が間違っていたことが理由だが、マナは『偽聖女だからだ!』とレアンドラに吹き込んだために、セラフィナへの断罪があっという間に行われてしまったのだった。
「マナ様?」
「そ、その……」
今更、『遠見の水晶』の正しい使い方を言うわけにもいかない。伝えないとまずいということだけは分かっているものの、セラフィナのことは偽聖女と吹聴しているため、それもできない。
「お、おい、マナ?」
「(まずい……! どうせ続編の世界だから、って舐めてかかっていたのが仇になった!)」
「……あの、ついでに申し伝えておきますが、イクシス王国からはソルフェージュ女公爵と、もう一人派遣されてくるようです。あちらの国王の印も押されていたので、間違いはないでしょう」
「ルナリアが!?」
「……お知り合い、なのでしょうか」
「あ……」
まずい、とマナはぐっと押し黙ってから、にこ、と穏やかな笑みを浮かべて誤魔化す。あんな女、知り合いどころの話ではない。
ルナリアが来れば、圧倒的な力をもって、デイルもマナのことも制圧してから連れ帰るに違いないだろう。
「ルナリアが……来る、のか」
マナがちらりとデイルを見れば、顔面蒼白になって震えていた。
それはそうだろう、学園の卒業パーティーの場にて、王太子の座から引きずり降ろされ、四大公爵家全てからの後見を失ったことは、記憶に新しい。
「……何で……父上、母上……」
がたがたと震えているデイルを見たレアンドラは、すぐさま察した。ああ、コイツはかつてイクシス王国の王太子だったが、その地位を無くしたのはこれが原因か、ここまで動揺していれば、かの国の公爵と何かあったことは一目瞭然でもあるし、一緒に行動しているマナにも何かあるのでは、と考えるのが当然ではないだろうか。
「デイル様、しっかりなさってください! レアンドラ様、わ、私たちがここにいるということは……」
「セシリオ様とわたくししか知りません、が……」
「……が?」
「いずれ、知られてしまうことも時間の問題でしょう。何もかもを隠しとおせるだなんて、思わないことですわね」
確かに、マナは聖女であるのかもしれないが、この人の言うことを全て聞いてしまったことは、果たして正解だったのだろうか、という疑念が、じわりとレアンドラに生まれたものの時は既に遅すぎているのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……さて、到着したわけだけど」
「物々しいな」
イクシス王国の紋章が入った馬車から降りたルナリアとミトスは、何やら自分たちに殺気を向けてきている門番の兵士に、歩いて近付いていく。
「ま、どうせネズミさんがどうにかして騙しているんでしょうけど……そろそろ、夢から覚めていただかないとね」
に、と笑うルナリアから、ちりちりとした殺気を感じ、ミトスは苦笑する。
だが、我慢しているのはミトスとて同じこと。
ルナリアを虐げた張本人であり、彼女を壊したクソ野郎であるデイルとマナが、あれで懲りてくれていれば、そのまま放置していても問題なかったはずなのに、マナとデイルは逃げ出してしまった。
「……容赦、してもらえるだなんて、思わないことね」
低く呟いたルナリアは、懐から書状を取り出して門番に見せる。
「通していただけます? こちら、ご覧くださいませ」
口調こそ丁寧だが、『通せ』と告げているルナリアのプレッシャーに、門番は顔を見合わせている。そこに駆け付けた宰相は、ルナリアが持っている書状に押されている印を見て目を見開いた。
「……っ」
「『国王代理』として、来ております。……意味、お分かりですわよね?」
「我々は協力していただきたいだけだ、犯罪者の引き渡しに……ね」




