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僕は瞬間を追い続ける

作者: ラベンダー

 大きな池に、小さな鳥が飛び込む。一瞬、水面が波立つ。その瞬間を捉えようと、カメラを構える人々。彼らはカメラマンだ。


 僕は高校の写真部に所属している。「僕は写真部だ」と言うと、先生に「写真部に所属している、と言いなさい」と注意されるので、最近は気をつけるようにしている。理由は僕が「写真部」という存在自体ではないからだ。僕は一眼レフカメラを持っているが、その機能には詳しくない。できるのは望遠レンズを使ったり、モノクロで撮ったりすること、明るさを調整することだけだ。明るさは何が正解なのかわからない。


 学校の近くには、そこそこ広い公園がある。その公園には池があり、カワセミという美しい鳥が訪れる。カワセミは池の魚を捕まえて食べる鳥で、青、白、そしてオレンジ色の鮮やかな体色をしている。その姿は息をのむほど美しい。


 僕はカワセミを撮影するために、この公園に通っている。でも、カワセミがいつ来るかは分からない。僕が狙っているのは、カワセミが池に飛び込み、魚を捕まえる瞬間だ。その場面を撮影しようと、僕の周りには大勢のカメラマンたちがカメラを構えている。カワセミはまるでアイドルのような人気者。その美しい姿に、人は魅了されるのだろう。


 今日も僕は公園へやって来た。しかし、ここは虫が多い。蜂もいる。僕は虫が苦手だ。なぜなら、毒があるかもしれないからだ。毒がなければ気にならない。でも、毒の有無は見ただけでは分からない。そこが嫌いな理由だ。とりあえず、蜂は刺されると痛いので、逃げる。蜘蛛も苦手だ。その色や見た目が毒を持っていそうな雰囲気を醸し出している。たまに顔に蜘蛛の巣がくっつくと、近くに蜘蛛がいるのではないかと怖くなる。蜘蛛は身体を這い上がってきそうな気がして、ぞっとする。


 そんなことを考えつつも、僕はやっぱりカワセミを撮りたい。僕は写真の評価がよく分からない。写真展に応募したことがあるが、何が悪いのか、何が良いのかも分からない。ただ、自分が思うベストな写真を撮るだけだ。


 カワセミは魚を狙い、目を光らせている。一方、魚は何も知らず、ただ泳いでいる。魚には申し訳ないが、良い写真を撮るためには犠牲になってもらうしかない。


 周りのカメラマンたちは、カワセミが近くにいるとき、小声で会話している。僕はその会話に加わらないので、何を話しているのか分からない。その時、カワセミが飛んだ!一瞬の出来事だった。カワセミは魚を捕まえ、どこかへ飛び去った。カメラマンたちは連写していた。僕も連写していた。


 果たして、うまく撮れただろうか。写真を見返してみる。カワセミは写っていた。しかし、ピントはブレブレだった。


 カワセミの動きは速く、はっきりと撮るのは難しい。まだまだ、修行が必要だ。


 カメラマンたちはうまく撮れたようで、喜んでいる。


 明日もまた、この公園へ来よう。いつか、納得のいく写真が撮れるように。


 帰り道、犬を散歩しているおじいさんがいた。おじいさんはベンチに座っている。良い絵になりそうだったので、声をかけて写真を撮らせてもらう許可をもらった。僕はベンチに座るおじいさんと、ベンチの上に立っている犬を撮影した。そして、家に帰った。


 三日後。写真部の顧問の先生が、写真展に出す作品を提出するように言ってきた。僕はカワセミの写真か、おじいさんと犬の写真のどちらかを提出しようと思った。結局、おじいさんと犬の写真を選んだ。カワセミの写真はピントが合っていないので、あまり良くないだろうと判断したからだ。


 提出した後に気が付いたがおじいさんと犬の写真をよく見返すと、ピントはベンチに合っていた。これは良くないかもしれない。落選かも、と思った。


 二ヶ月後。その写真は入選した。人の評価は、よくわからない。


 自分の納得のいく写真が必ずしも人から評価されるということはない。反対に自分が良くない写真だと思っていてもこうやって評価されることもある。芸術に正解はない。だから、難しい。


 しかし、写真を撮っているときは楽しい。なぜなら、どうすれば良い写真を撮ることができるのかなどの思考錯誤ができるからだ。撮る角度が違うだけでも全然印象は変わる。明るさもモノクロも色々な機能があってそれをどう使うのかを考える。仮に人から評価されなくてもその時間は大切だと僕は思う。


 物語はここで終わるけれど、僕の写真の旅はまだまだ続く。




おわり

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