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痛みが導く力

週に1度、それぞれが調べた内容を報告し合う報告会がある。紫凜が担当している通り魔事件も報告会があった。しかし、紫凜は何も発言しなかった。発言したところで何の意味もないことを分かっていたからだ。魔術など誰も信じる者はいない。会議中ずっと上の空だった紫凜を文世はあまりよく感じなかった。報告会が終わり、部屋を出たところを文世に止められた。

「ねぇ、あの態度はどうかと思う。難しい事件で進展がないから話すことがないって感じるかもしれないけど、それでもみんな必死に解決しようと頑張ってるの。次からは態度に気をつけてね。」

進展がない?その言葉に腹が立った。誰よりも真実に近づいてるのは自分なのにどうして目の前の人間は自分のほうが事件に詳しいみたいに接してくるのか。いつもなら受け流すだけだが、最近またひどい頭痛に襲われていて十分な睡眠が取れておらずいつもより沸点が低かった紫凜は言い返した。

「俺は貴方よりこの事件に詳しいですよ。貴方みたいな人間にはこの事件はとけないっすよ。」

満面の笑みで言う紫凜に文世も怒りを隠さなかった。しかし、何も言うこともなく文世はどこかへ行ってしまった。つまんないなと感じた紫凜だったがそんなことを考えられないほどまたひどい頭痛が押し寄せてきた。よろめきながらその場に座り込む紫凜を心配するように一人の男性が声をかけた。

「大丈夫か?」

男性が紫凜の肩に触れた瞬間、男性は遠くに飛んでいった。紫凜が男性の腕をはじいたからだ。無意識に無影干渉を使っていたため、男性は飛んでいったのだ。紫凜も無意識に魔術を使ったことに驚きその場に立っていることしかできなかった。周りの人たちは何が起こったのか理解しておらず、紫凜を冷たい目線で見ていた。紫凜は、はっとしすぐに男性に駆け寄り謝罪した。男性も何が起こったのか理解はしていなかったが、特に気にしていない様子をみせた。その場を後にし、人がいないところで壁にもたれかかりながら座った。今までは制御できていた魔術が無意識のうちに出てしまう事態に頭を抱えた。そして、今ので完全に理解した。魔術を使えば頭痛が治まることを。前に暴走したときも気づけば魔術を使っていた。一定の期間、魔術を使わなければ頭痛がするということ。頭痛がくると何も考えれられなくなり、自分が何をするか分からない。いつか殺戮でもするのではないかと、自分自身が怖くなってしまった紫凜はさっそく頭痛を治める方法を考えた。新しく魔術を生み出そうか。そう思った紫凜の脳内に一つの答えが出た。使わなければ頭痛に襲われる。ということは逆に使っていれば襲われることはないということ。紫凜はすぐに資料室へ向かい、犯罪者リストを探した。犯罪者リストの名簿に目を通し、すでに刑期が満了した犯罪者に紫凜は目を付けた。犯罪者は生きている意味はない。正義感の強い紫凜はそう考えていた。目を通し、今夜の獲物を見つけると、紫凜は自分のデスクへと戻り仕事を再開した。深夜、一度部屋へ戻り黒いパーカーを深く被り、暗い街へと嬉しそうに歩いて行く。ターゲットがいつも仕事終わりに行っている居酒屋まで向かっている最中、ある店に猫のお面が売っているを発見し、誘われるように店に入った。猫のお面を手に取り、考えた。この街にはたくさんの防犯カメラがある。魔術で痕跡を消せるとはいえ、顔は隠した方がいいと思い、猫のお面を購入した。良い買い物を出来たと嬉しそうに歩いていると目的の場所に到着した。ターゲットが来るまで建物の影で身を隠していると大きな声で笑っている男の声が聞こえてきた。声の正体は紫凜が求めていた人物だった。猫のお面を付け、気づかれないように後をついて行った。男は同僚らと別れ、一人で歩いて家へと帰ろうとした。酔っているからか男は右、左とふらふらしていた。あと少しで家に着くところで紫凜は後ろから男を蹴り飛ばした。男は地面に倒れこんだ。すぐに紫凜を見て、怒鳴った。しかし、紫凜の耳には何も聞こえていなかった。怒鳴り散らしている男を哀れな目で見つめていた。この男は酔った勢いで未成年の少女に性的暴行を行った。少女は事件後、精神的に気を病んでしまい、自ら命を絶ってしまった。しかし、この男はたった数日で外の世界に出てきた。その後も事件の前と同じように生きている。目の前の男は果たして人間なんだろうか。たくさんの罵倒を繰り返している男に紫凜は手を伸ばし、唱え始めた。

「罪、ここに顕れしとき、天火は理に従い降り、魂は名を失い、存在は灰へと帰す。」

その瞬間、男は炎に包まれた。暗かったあたりは真っ赤に染まった。叫び暴れる男。しかし、すぐに炎は消え去り、男は動かなくなった。黒くなった男は人間かも分からなくなった。その男を見て、紫凜は笑った。やっと本来の姿に戻ったと。転がった死体に向かいもう一度手を伸ばし、また唱えた。

「死により解き放たれる魂よ、冥府へ還るな。その終焉を我が内に移し、生を魔へと転ぜよ。」

”死魂転化”

殺害によって解き放たれる魂を吸収し、純粋な魔力へと転化する魔術。この魔術を使えば使うほど魔術使いとして強くなれる。唱え終わると紫凜の身体は少しだけ重くなった気がした。その後すぐに、紫凜は忘却刻印を使い、防犯カメラ・隣人の記憶を消失した。翌朝、もちろん昨日の出来事は話題になっていた。街中でも平和主義者でも誰も知らない人はいないほど。紫凜は至って普通に過ごしていた。昨日のことなど覚えていないかのように。デスクに座り、また通り魔事件について調査した。調べられることは調べたが、証拠は何一つなかった。紫凜は視点を変えて、一番初めの被害者の元へ訪ねることにした。住所を調べ、向かうと、そこはいわゆるオンボロアパートと呼ばれる古いアパートだった。インターンホンを押すと、中から小柄な女性が出てきた。一番初めに襲われた二宮ななだ。紫凜はななを一目見て、驚いた。ななからかすかに魔力を感じるからだ。なぜななから魔力を感じるのか。考えるばかりで挨拶を忘れていた紫凜にななは少し、戸惑っていた。直ぐに、紫凜ははっとし、挨拶をした。

「初めまして、平和主義者の猫麻といいます。少し、事件についてお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

ななは直ぐには答えなかったが、どうぞと部屋に入れてくれた。部屋は必要最低限なものしか置いておらず、素朴だった。ななはお茶を入れてくれたが、紫凜は飲まなかった。お茶になにかを入れられていることに気づいたからだ。このとき分かった。ななは紫凜を恐れていることを。紫凜というか平和主義者を恐れているのかもしれない。ななのスマホが鳴った。しかし、ななは画面すら見なかった。不思議に思い、紫凜は言った。

「電話出てもらって大丈夫ですよ。」

ななは苦笑いで、気にしないで下さいと紫凜に言った。この様子だと電話が誰からきているのかを分かっているのだろう。ますます、ななを怪しく思った紫凜は直球に聞くことにした。

「ななさん、魔術つかえますよね?」

その言葉にななは目を大きくさせた。しかし、何も答えなかった。ここで事件の内容が全て分かった。そして、犯人も。

紫凜は言った。

「その電話相手がななさんを襲った犯人ですよね?」

ななは瞬きを数回して、話し始めた。

自分は職場でいじめにあっており、一ヶ月前に自殺しようとしていたときにある男に魔術を教えてもらった。初めは、強くなって職場の人たちを懲らしめたいとしか考えていなかったが、魔術をすればするほど自分じゃ無くなっていく感覚に怖くなり、男から逃げた。しかし、もちろん簡単に逃げることはできず、一週間前に襲われた。そのとき、魔力を勝手に注がれ、今、ひどい頭痛と毎日闘戦っている。自分の意志で男の元に帰らなければ日に日に犠牲者が増えていくと言われた。

話を聞き終わり、紫凜は男の名前などを聞いた。しかし、名前は知らなかった。だが、男はいつも”N”と呼ばれる人物と連絡を取っていたという。紫凜はある作戦を考えた。ななをおとりに男を誘い込む作戦だ。男は魔術と使い慣れているはずだ。もしかしたら、簡単な戦闘じゃないかもしれないと思ったが、紫凜は自分が負けることは考えもしなかった。ななに作戦を伝えると承諾してくれた。作戦実行は二日後、深夜。一人でもよかったが、ななを守ることが出来にないかもと考えた紫凜は文世にも作戦を伝えた。魔術に関して、何を言っているのか理解していなかったが、作戦に賛成してくれた。

二日後、紫凜と文世はななと待ち合わせをした場所へと向かった。すでに待ち合わせ場所にはななが着いていた。ななの表情は緊張が現れていた。人が来ない路地でななは男を待った。すると、数分後男はやってきた。

「ひさしぶりだな、なな。」

男はななに喋りかけた。だが、ななは恐怖で何も言うことができなかった。そんな様子を見た男がチッと舌打ちした。男はななに向かい手を伸ばす。その時、紫凜が男に声をかけた。

「やっと見つけた。」

男は驚き、後ろを振り返った。紫凜はポッケに手を入れ、立っていた。男は紫凜を見て、自分より明らかに年下だとわかり鼻で笑った。

「お前、一人で俺に勝てると思ってんの?」

男は、紫凜に殴りかかった。しかし、その拳は紫凜には当たらない。紫凜は、華麗に避け続ける。男は、思い通りにいかず、怒りのままに殴りかかる。紫凜は男に回し蹴りをした。男は地面に倒れ込む。本気で怒った男は紫凜に手を向け、詠唱を唱えた。しかし、紫凜も対抗するかのように無影干渉を行った。男は見えない何かに首を絞められ、もがき苦しんでいる。紫凜は笑っている。やはり、魔術を使っているときが一番生きてる実感がするからだ。しかし、ここで殺してしまうと証拠がなくなってしまうため殺す一歩手前で術を解いた。男は必死に息を吸ったり、吐いたりしていた。紫凜が近づくと男は土下座しながら、許してくれと言った。その様子は先ほどとは全く別物で、紫凜を怯えているようだった。紫凜は上から見下ろしながら、文世に手錠をかけさせた。文世は言った。

「今のが魔術ってやつ?」

「…そうです。」

少し沈黙した後、答えた。文世は怖くなり、疑問に思ってることを聞いた。

「昨日の事件は凜がやったのじゃないよね?」

昨日の炎事件について探りを入れた。何て答えるか迷った紫凜だったが、結局何も答えなかった。

「帰りましょうか。」

話題を変えると、文世もそれ以上は聞いてこなかった。

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