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これは始まりにすぎなかった

主人公:狗麻 紫凜 (いぬま しりん)

登場人物

母親:狗麻 紗倉 (いぬま さくら)

父親:狗麻 がく (いぬま がく)

叔母:由紀 (ゆき)

慌てた様子の叔母、由紀はドアにもたれながら座っている紫凜の肩を強く掴み深く深呼吸をした後、悩んだような顔で紫凜に言った。その言葉は一瞬で紫凜どん底へと追いやった。

「あなたのお父さんが自殺してしまったの。」

さっきまでうるさいとまで感じていた鈴虫の鳴き声が聞こえなくなり、聞こえるのは速く動いている心臓の音だけだった。聞きたいことは山のようにあるはずなのに一言も喋ることができなかった。そんな唖然としている紫凜を由紀は立ち上がらせ、手を引っ張るように車へと向かっていった。

車へ乗った二人はいつもなら楽しい空間のはずなのに、今日は重い空気しか車内には充満していなかった。少しの間車を走らせ、到着したのは大きな総合病院ではなく、小さな無血の方だけが利用する病院だった。看護師に父親の名前を伝えると部屋へと案内された。部屋に着きドアを開けようとドアノブに手をかけようとしたとき、部屋の中から聞き覚えのある声が聞こえた。その声は大きな声で父親の名前を泣き叫ぶ母親のものだった。母親のそんな姿をみたことがなかった紫凜はドアを開ける手を離してしまった。このドアを開けると全てが終わってしまうような気がしたからだ。そんな紫凜の姿をみて由紀は抱きしめることしか出来なかった。

「開けても開けなくても紫凜の好きにしたらいい。」

抱きしめられながら耳元で囁く声が微かに震えているのを紫凜は気づかないふりをしていた。どうすることが正解かなんて考えることなんてできないほど頭が重く、悲しいはずなのに涙すらこぼれない。その理由は、まだ父親が死んでないって思い込んでいるからなんだと重い頭で結論を出した。このまま部屋に入らないとこの先もずっと引きずる気がした。自分を納得する為にもここで踏ん張る必要がある。そう思った紫凜は由紀の胸から顔を離し、一人でドアノブへ手をかけた。

ドアを開くとそこは地獄のような空間だった。泣き叫ぶ母親の声、それでも目を覚さない父親。入ったものの足に鉛がついているように重く、思うままに足を動かすことができなかった。母親は紫凜が部屋へ入ってきたことを気づいていたが何も声をかけることができなかった。

その日の記憶はそこで終わっていた。次に目を覚ますと自分の部屋に居た。あの地獄のようなものは全て夢で自分自身の妄想だった。そう自分に言い聞かせいつも通りリビングへと向かった。昨日までは味噌汁の匂いが部屋中に香っていたのに机の上にあったのは母親の手書きのメモだけだった。

(紫凜へ おはよう。お母さんは今日から早めに仕事に行ってきます。朝ごはんは冷蔵庫にはいってるので温め直して食べてね。お味噌汁もあるよ。気をつけて学校に行ってね。行ってらっしゃい!)

そんなメモの隣には鍵が置いてあった。その鍵は父が使っていた物だった。鍵についているのは紫凜が去年の誕生日にあげたパンダのキーホルダーだった。次第に机に置いていた母親のメモが濡れていき、文字が滲んでいった。

その日紫凜は学校をさぼった。用意されていた朝ごはんやお弁当を一口も食べることはなく、何もせず過ごしているといつの間にか17時の鐘が鳴っていた。

この世界では亡くなるとそのまま墓地へと埋葬される。純血や混血はクリーノーデンスに、無血はバリューノーデンスに墓地が作られるため父親の遺体はそちらへと病院の方から送られた。呆気ない別れに泣いてる暇もなかった。

その日から家族で過ごす時間は減ってしまった。こんなにも静かな家に一人でいることがもっと紫凛の心を暗くしていった。たまに会う母親は明らかに痩せ細っていくのが分かるほど衰弱していた。それでも紫凜の顔をみると昔の母親の顔へと戻った。

そして、時間が傷を癒してくれるという言葉のように父親の死から4ヶ月後には紫凜の顔にも笑顔が戻っていた。前のように学校にも当たり前に行くようになり一人の静かな家にも慣れていった。

しかし、紫凜の人生を変えてしまう出来事が起こってしまう。この出来事さえなければ異なった人生を送ることもできたはずなのに。ここから紫凜は神という存在を信じなくなった。

ある日の真夜中、紫凜はトイレの為に部屋をでた。時計は3時を指していた。玄関を確認するといつもはあるはずの母親のハイヒールがないことに気づいた。ここで初めて母親がまだ帰っていないことを知った紫凜はトイレに行くために部屋を出たことを忘れたかのように急いで部屋に戻った。携帯を開け、母親の連絡先へ電話をかけた。1コール、2コール、3コールとなかなか繋がらない電話に嫌な感覚を覚えた。その後は寝ることもできず、何度も何度も数分おきにかけ続けた。それでも繋がることはなかった。気づけば外は明るくなっていた。握りしめていた携帯が手から落ち、重い頭をベットに埋めた。そこから少しづつ意識がなくなっていきそうなところで電話がなった。眠たかったはずの目が覚醒し、勢いで電話にでるとその声は聞き覚えの大好きで優しい母親の声ではなかった。

「落ち着いて聞いて。お母さんが会社で自殺していたと連絡がはいった。」

は?

叔母である由紀からの急な連絡に睡眠不足のせいか悪くもない由紀に八つ当たりし無理やり電話を切った。その後冷静になった紫凜は病院へと母親を見に行った。しかし悲しみもなく、涙を流すこともなかった。紫凜の感情はこの日からなくなってしまった。

その後は、父親と同じように島を出た。紫凜は唯一の親戚である由紀と暮らすことになった。しかし部屋から出てくることはなく学校へもいっさい行かなくなってしまった。そのことに由紀は何も言うことができなかった。母親の死から何日経ったかもわからなくなったある日、紫凜は何を思ったのか部屋をでてリビングへ向かった。リビングでは由紀が誰かと話している声が聞こえた。その内容な紫凜のなくなったはずの感情を思い出させた。

「紗倉もがくさんも二人とも純血からの職場いじめで自殺したのよ。遺書にそう書いてあったのになにも対応してくれなかったの。無血って理由で。」

そう悔しそうに言う由紀の姿をみて紫凜は静かに涙を流した。

ここから紫凜は純血を嫌い、復讐を考え始め、そして、最強と呼ばれる魔術使いへと成長していく。

読んでくださってありがとうございます^ ^

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