力の代償
本部へ帰り、拘束した男に事情聴取を行った。しかし、男は何も話さなかった。しかし、紫凜は焦ってはいなかった。ある魔術を生み出したからだ。この日は、なんの収穫もなく終わった。次の日、さっそく男の元へ向かった。誰もいない部屋で男に話し始めた。
「これが最後の警告だよ。ここで何も話さないならあんた、俺の養分にするよ。」
それでも男は口を動かさなかった。きっと何も話すなと言われているんだろうと感じた紫凜はあの人の話をする。この男が誰に魔術を習ったのか、大まかな検討はついていた。
「あの人は元気?」
男は急に顔を上げ、紫凜に言った。
「N様を知っているのか?!」
N様。あの人はNと名乗っていることを初めて知った。名前は教えていないことに少しあの人らしさを感じた。あぁ、と答えると男は顔色を変えた。
「俺はN様に魔術を習ったんだ。俺がN様の一番弟子だ!」
一番弟子という言葉を聞き、紫凜はふっと鼻で笑った。何が一番弟子だ。名前も知らないくせに、あの人の駒になっていることにも気づいていない有様に笑いが止まらなかった。普段の紫凜だったら何も気にしていないはずが、このときは違った。目の前の男がとても哀れに感じた。紫凜は男に目線を合わせて言った。
「何が一番弟子だ。然の名前も知らないくせに笑えるな。あの人の一番は俺だよばーか。」
笑いながら煽る紫凜に男はぽかんとした顔で紫凜を見た。背筋を伸ばし、紫凜は手を伸ばした。
「じゃーな。」
一言だけ告げると、詠唱を唱え始めた。
「精神の中枢は制圧され、思考は覆い隠されることなく、白日の下に晒される。」
”脳域拳握”
対象者の脳を直接支配し、事件の記憶・動機・罪を自分の意志で語らせる魔術。使用後、対象者の精神はほぼ破壊し、生きているが元には戻らない。
さっきまで、あの人について熱く語っていた男はぐったりと椅子に座っている。すぐに、文世を呼んだ。昨日までは何も話さなかった男が今日はやけにはっきりと答えていることに疑問を持った文世は紫凜に聞いた。
「凜、あなた何かやったの?」
文世は感がすごくいいなと言わんばかりに紫凜はにこっと笑った。その瞬間、文世は紫凜の頬を叩いた。何が起こったのか紫凜は分からなかった。文世は泣きそうな顔で紫凜を見て言った。
「魔術は禁術よ、使ってはいけないの。」
最初から分かっていた。文世が理解してくれないことを。このとき紫凜は自分を認めてくれない人間を悪だと感じ、頬を抑えながら小さい声で
「魔術は禁忌なんかじゃありません、強くあろうとすることはいけないことなんですか?」
文世は紫凜が何も理解していないことに呆然とした。文世は必死に伝えるが紫凜には何も届かなかった。ガミガミと言われ続け、紫凜も限界が来た。手を伸ばし、無影干渉を使った。文世の足は宙に浮き、息が出来ず必死に身体を揺らしている。そんなを姿をみて、やはり生きることに必要のは力であると紫凜は確信した。必死に動いていた文世の身体は力が抜けた。その時、
「やめろ!!」
遠くから聞き覚えがある声が叫んでいた。紫凜は魔術をやめ、声の方向をみると、そこにはこちらに走ってきているブラックの姿があった。ブラックは文世に駆け寄り、声をかけた。そんな様子を紫凜はただ見つめていた。文世は一命を取り留めた。紫凜は簓に呼び出され、責任者室へ向かった。ブラックから報告を受けた簓は紫凜に真相を確かめた。紫凜は嘘偽り無く答えた。
「凜、あんたはどうしたいん?」
その質問にはすぐには答えることが出来なかった。自分は魔術を使って人を助けたい。でもそれは世間から認められることはない。魔術を否定されるのは自分自身を否定さえたような気分になってしまう。
「…どうしたらいいんですか。」
平和主義者を辞めたい訳では無い。でもここに自分の居場所がないことは誰よりも分かっていた。考えていたとき、簓は紫凜に究極の二択を提示した。
「魔術を捨てるか、ここを辞めるか。どっちがいいかは凜が一番分かってるんじゃない?」
そう言われ、紫凜は平和主義者を辞めた。家は平和主義者附属高校の寮へと移った。そこでの生活はとても退屈だったが、紫凜にも友達ができ楽しく過ごしていた。学校帰りは直ぐに寮へと戻らず、魔力の発散をしていた。寮では新しい魔術の研究をしたりして過ごしていた。
そんな生活を一年続けた、高校生活最後の冬のある日、友達である馬路一志が痣だらけで登校してきた。どうしたのか聞くと昨日
街中で急に襲われたと言う。特徴などを聞き、放課後その人達を探しに街へ向かった。数時間探したが見つからず諦めて寮へと戻ろうとしたとき喝上げにあっている男子生徒を見つけ、紫凜は男子生徒の元へ近寄った。すると一人の男が紫凜に気づき、
「なんだてめぇ。」
と紫凜に近づいてきた。直ぐに紫凜は手を伸ばし、無影干渉を使い、男を投げ飛ばした。飛ばされた男は頭から血を流し、脈は止まっていた。紫凜は死んだ男に手を伸ばし、唱えた。
「怨みを帯びし魂は器に降り、命尽きるその刻まで、呪いは行われ続く。」
”怨魂降器”
紫凜が殺した者の魂を器に宿し、敵へ放つ魔術。
死んだ男はもう一度目を開け,埋まっていた壁からむくっと起きあがった。男の目には黒目がなく、よだれを垂れ流しながら仲間の元へ歩いて行く。何が起こっているのか分かっておらず逃げることも出来ないまま男に皆、殺されていった。その場は血の海になっていた。紫凜が術を解く男は地面に倒れた。血の海を見て紫凜は満足げにしていた。死魂転化を詠唱し、その場を離れた。
次の日、簓から連絡があり、平和主義者本部へと向かった。簓は分かっていた。血の海事件の犯人が紫凜であることを。
そして疑われていることを紫凜は気づいていた。しかし紫凜は自分が呼び出された理由が分かっていないかのように簓に聞いた。
「なんですか?」
簓はすぐに答えた。
「人には使うなと言ったやろ。なんで約束守られへんねん。」
穏やかな簓は今日はおらず、終始怒っていた。簓にも真実を伝えるつもりはなかった紫凜は何のことか分からないと最後まで貫いた。情報を得ることが出来ないと分かった簓は紫凜に言った。魔術は最終、自分でも制御できなくなり身体が蝕まれると。もちろんそんな言葉紫凜には届かなかった。寮へと帰る道でひどい頭痛に襲われた。前とは比べものにならないほど、頭を刃物で刺されているような痛みが紫凜を襲った。早く、この頭痛から解放されたい。そんな思いしか頭にはなく、意識が戻った頃にはそこは炎に包まれていた。一瞬で理解できた。自分が犯した罪を。
そこから紫凜は世界が怖がる魔術使いとして、名前があがった。




