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最後の日常

主人公:狗麻 紫凜 (いぬま しりん)

登場人物

友達:橘 可奈心 (たちばな かなこ)

叔母:由紀 (ゆき)

静かな部屋に響き渡るのはいつもと同じアラームの音。その音に一人の少年が重たい体を必死に起こし響き渡る音を止めた。まだ目覚めていない少年は眠たい目を擦りながら顔を洗いに部屋を出た。顔と髪を整え長い髪を一つに束ね、よしと小さく呟くとリビングから味噌汁のいい匂いが鼻についた。その匂いに導かれるように向かうとおっとりした女性が少年を呼んだ。

「おはよ。紫凜」

名前を呼ばれた紫凜は微笑んだ顔で

「母さん、おはよう。」

と答えた。毎日同じ景色だけれどもこれを紫凜は幸せと呼んでいた。この当たり前がずっと続くと信じてやまなかった。机に用意された朝ごはんを頂きますと呟き手をつけていると

「いってくるね。紫凜も学校頑張ってね。」

と男性が優しく言いながら、紫凜を励ますように頭を撫でた。

「父さんも仕事がんばってね。」

撫でられた手に触れると紫凜の父親は笑顔で玄関へと向かっていった。その逞しく大きな背中を見るのがこれで最後になるとはこの時紫凜は思いもしなかった。

用意された朝ごはんを食べ終え、制服を着て元気に玄関へと向かい大きな声で

「母さん、行ってきます!」

その声に答えるように紫凜の母親は行ってらっしゃいと今日も息子が無事に帰ってくるようにと想いをこめながら学校へ送った。

学校へ向かう道は紫凜にとっては危険ばかりだった。美しい黒髪を揺らしながら歩く紫凜を睨む人や、馬鹿にしたように笑う白髪がいた。

この世界は純血、混血、そして無血の三人種が存在している。白髪で赤い目が特徴の頭脳や身体能力がズバ抜けていて三人種のなかで最も地位が高い純血。髪色や目の色、能力などに大きな特徴がない混血。そして、黒い髪に色素の薄い黒い目。頭脳も身体能力も純血、混血に比べ低い傾向がある無血。しかし無血の中でも一族という頭脳や身体能力が純血よりも高い人種がいる。しかし一族は人と暮らすことを嫌い、ほとんどは一族のみで形成されている集落で暮らしている。そのため一族と関わることはほぼない。

人類の割合は混血>純血>無血だ。能力が低い無血は純血や混血から蔑ろや差別されることが当たり前の世界になってしまった。そのため世界は3つの島に分かれており、主に純血・混血が住む"クリーノーデンス"。一族である齋藤家が住む"ユレーノーデンス"。そして無血が多く住む"バリューノーデンス"。互いに他の島に移り住むことをタブーとされており、移り住んでしまうと同じ人種からも異なる人種からも浮いた存在になってしまう。

そんな無血の紫凜が住んでいる土地は"クリーノーデンス"だった。紫凜が生まれたのもこの土地だった。いつから、そしてどうして両親がここの土地に住んでいるかを紫凜は聞くこともしていなかった。その訳を聞いたところで紫凜は興味もなかったからだ。どんなに蔑ろにされようと耐えきれれないほどの扱いを受けても何も気にしてはいなかった。紫凜は肩を落とすと足を止めることなく学校へと向かっていった。学校へと近づくにつれ、紫凜への視線や笑い声は次第に多くなっていった。しかし、これが日常になっていると日に日に怒りや悲しみなどが感じなくなっていくことへ紫凜はどうしたものかと言いたげな顔で口角をあげた。そんな紫凜を大きな声で呼ぶ少女がいた。

「紫凜!!おはよう!!!」

その声の持ち主は同じクラスの橘 可奈心だった。可奈心は純血なのにも関わらず無血である紫凜と仲良くしている唯一の友達だった。

「おはよ、可奈心。今日もあいかわらず元気だな。」

色々なことを考えていた紫凜の心をその一言で晴らすことができるのは可奈心だけだなと照れたような顔で挨拶を返した。そんな二人を見ている周りの少年少女は二人を嘲笑うように見ていた。しかし彼らは"恋仲"では片付くような関係ではなかった。そんな周りの目など二人は気にもしていなかった。紫凜も可奈心もやりたいことをやる。周りなど関係ないといった性格が似ていたためか出会ってすぐに友達になった。二人とも浮いた存在だったことも絆を固くする理由だったのかもしれない。

学校に行く楽しさを知らなかったあの頃をもう紫凜は思い出せなかった。いつも通り自分の席に座り、いつも通り授業を受けている。何も変わらない日々。これが幸せだということをまだ気づいてはいなかった。全ての授業が終わり、帰ろうとすると担任の小林先生に呼び止められた。内容は進路に関することだった。紫凜は中学3年生だったこともあり、これからの進路に関することを考える時期だ。なにも考えていなかったからこそ少し憂鬱な気持ちで職員室へと向かった。

「狗麻さんは成績もいいしどこでも目指せることできるし、推薦も出すこともできるよ。」

そんな小林先生の前向きな意見もなかなか素直に受け取ることが出来なかった。

「こんな俺を推薦してくれるんですか、無血の俺を。」

馬鹿にしたような呆れたような口調で言う紫凜を小林先生は一瞬驚いた顔をしたが、すぐさまフォローをした。

「先生は胸を張って推薦します。自分で自分の価値を下げるような発言は、先生悲しくなるよ。」

すみません。小林先生が放った言葉すら紫凜の心には何も響いてはいなかったが、場を収めるためだけに言葉を伝えた。

職員室をあとにし、帰ろうとした時、忘れ物をしたことを気づいたため取りに帰ろうと階段へと向かって歩いていると甲高い声が耳に入ってきた。聞こえてきた声を頼りに辺りを見回すと複数の白髪の生徒が黒髪の生徒を囲んでいた。靴の色を見てみると1年生だった。紫凜の長所は正義感が強いところ。そして、短所は正義感が強すぎるところだと口を揃えみな、答えた。あの可奈心さえも。

「1人に対してその量はだせぇよ、純血のくせにびびってんじゃねぇーよ。」

片方の口角をあげ、ニヤリと笑う紫凜に純血の少年達は眉間に皺を寄せた。

「黙れよ、無血のくせにのこの生きるな。」

そんな言葉を聞いてもなお笑うことをやめない紫凜に対し、怒りが隠せなくなった少年達は拳を向け殴りかかろうとしてきた。

そんな時、遠くから大きな声で叫ぶ声が聞こえてきた。

「喧嘩するなら先生としよう。」

野太い声で男らしい大きな体格の男性は体育科の羅口先生だった。羅口先生は学校で1番恐れられている先生だったため純血の少年たちは焦った顔でその場を後にした。紫凜は少しがっかりしたようなおもちゃを取られたように拗ねた顔でため息を吐いた。

「大丈夫?」

床に座っている無血の少年に目線を合わせるように腰を落とした。少年は何が起こっているか分かっていないかのような顔で口が少し空いていた。そんな少年を元気づけるかのように紫凜は言った。

「勝つには強くならなきゃいけない。弱い奴は生きてはいけないよ。ここは戦場。今日生きれるかも不安になってるようじゃ目を付けえられるだけだよ。」

その言葉は昔の自分に伝えたかった言葉なのかもしれない。その言葉を放つとよいしょっと呟き自分の名も言わず、何もなかったかのように階段を登って行った。

忘れ物を取り帰ろうとドアに向かって行くとちょうど可奈心が教室に入ってきた。お互いに驚いた顔で話し始め

、可奈心は部活終わりに掃除をしにきたとのことだった。確かにこの教室は他に比べると毎朝とても綺麗な状態だと思い出し可奈心に感謝をのべた。すると可奈心は照れて顔を隠してた。今日は二人で一緒に掃除をし、仲良く学校をあとにした。

いつも通りたわいもない会話をしてまた明日と手を振る可奈心に紫凜も同じように手を振り返した。そして、家まで無事辿り着きいつも通りドアを開けようと手をかけると鍵が開いていないことに気づいた。いつもこの時間は母親が帰宅しているため紫凜は首を傾げた。インターホンを鳴らしても応答はなかった。鍵も持っておらず誰か帰ってくるまで待つことを決めた紫凜はドアにもたれる形で腰を落とした。しかし、暗くなっても誰も帰ってくる気配はなく、鈴虫の声だけが紫凜の耳に入ってきた。しばらくすると階段を登ってくる音が聞こえたため顔をあげて待っていると帰ってきたのは母親ではなく、母親の姉である由紀だった。由紀さんは紫凜の叔母にあたる親戚である。

「紫凜!!!」

慌てたような声で名前を呼ぶ由紀の様子で紫凜はすぐに察した。なにかあったことを。


読んでくださってありがとうございます。

趣味程度で書いているので文章力や構成は下手ですが楽しんでくれたら嬉しいです。

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