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第二章第四部です。
コメントが思いつきませんね。無理に書かなくてもいいんでしょうけれど。
文章が読みにくいとか、そういうのあったら言ってください。
どうにかこうにか頑張ってみます。
(どう読みにくいかも同時に書いてくれるとうれしいです)
わたしは天花をエステア湖にお供えした後、あの場所に向かった。『星昇る夜』の前夜、ネルと語り明かした場所。
その場所は、木が生えていない。この場所に生えるのを拒むように、円形に木が生えている。誰もここには用事も無く、人は殆ど近寄らないけど、わたしにとってこの広場は、大切な場所だ。前夜はもちろん、つらい時や何かを決めた時、怒った時や泣いた時、いつもここに来た。わたその全ての思い出を、この場所は知っている。
「暇潰し、か……」
数日前にネルが言った言葉。でも、わたしはこの森の生活が退屈だとは思わない。ネルは何が不満なんだろう。
チチチチチ。
鳥の鳴く声が聞える。
カラカラカラ。
虫の鳴く声が聞える。
チャポン。ピチャッ。
水の爆ぜる音が聞える。
時折、獣の声も聞える。
森は平和で事件も起きず、平穏な時間が流れる。退屈だとは、わたしは思わない。事件も何もいらない。
わたしは、静かにネルと共に生きたい。
「これが……ネルにとっては退屈なのかなあ」
わたしの呟きを聞く人など、もちろんいない。ごろり、と横になった。昨日降った雨で、地面が濡れている。湿った土のにおいが、わたしの鼻を刺激した。懐かしいような、悲しいような匂いがする。
考え事をしているときにここにくると、いつもこの匂いがする。思えばわたしは、この匂いで心が整理されていた――ように思う。けれど、今のわたしの心は、整理されない。
些細なことなのに、些細なことじゃないような気がする。
何かが変わる気がする。
「ダメダメッ! 別に何も変わってないじゃない。ネルもわたしも」
まあ、ネルは少し口数が増えてきたけど。でも、本質的には何も変わってない。
わたしは体を起こして、そのまま立ち上がった。背中と頭が濡れてしまったけど、今のわたしには心地よく感じられる。後ろ髪を一回払い、わたしは広場を出た。
木が生い茂り、陽の光が遮られる。枝と葉の間をぬって差し込む陽光が、線になって地面を照らしている。湿った地面が光を反射して、きらきらと光っている。ネルの『発光』の魔法、『明滅する時』を思い出す。光り方は全く違うけど、なぜか思い出した。
急に、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
痛くはない。
ただ、苦しい。けれど、呼吸は普通にできている。
寂しい。
両手に魔力を込めて胸の前で握る。そして、ゆっくりと開けた。
「ピィ」
小さな白い鳥が一羽、わたしの手から出た。鳥はぱたぱたと羽ばたいて、わたしの肩にとまる。
「ピィ」
一度鳴き、また飛んだ。今度はわたしの指先にとまって、首をしきりに動かしている。その動きがとにかく可愛らしくて、わたしは鳥の頭を撫でた。鳥は気持ちよさそうに目を細め、また飛んだ。わたしの肩の上にとまり、首を動かしている。
わたしは思わず笑い、再び歩き出した。いつもより多めに魔力を込めて創ったこの鳥。たぶん、普通より長い間わたしの隣で鳴いてくれるはずだ。
「『小さな友達』、か」
この魔法の名前、確かにその通りだ。
この名前がますます好きになった。
「おや、ミナではないか」
突然わたしを呼ぶ声がして、わたしは上を見上げた。
「テトさん」
テトさんは、『森の人』となって引越してきた家の住人だ。今はこの人と二人暮らし。話し方は男の人みたいだけど、女の人。
「天花を供えに行ったっきり帰ってこないから、すこしばかり心配していたのだよ」
テトさんはそう言って、木から飛び降りた。バスンッ、という音がしたけど、当然、テトさんは平気そうだ。
「どうしたのかね?こんな所で」
「いえ、少し散歩してただけです」
「そうかそうか。……嘘はいけないよ」
テトさんはニヤニヤと笑い、その手をわたしの肩に乗せた。白い鳥は慌てて飛び立ち、反対の肩に乗る。
「おや? 可愛い鳥じゃないかね。『発現』の魔法かね?」
「は、はい」
そうかそうか、とテトさんは何度か頷いて、またさっきのニヤニヤ笑顔に戻った。
「さっきの話だが……嘘はいけないよ」
「えっ? 嘘なんてついてませんよ」
けれど、テトさんは首を横に振った。
「いやいや、嘘を言っているよ。実にわかりやすい。君は嘘をつける人間じゃないんだよ。君は嘘をつくことに対して自覚的かどうかはともかく、罪悪感があるのさ。別に、責めるつもりは無いよ。悩みあるなら、相談くらい乗るが?」
ニヤニヤした笑いが、今度は真剣な顔になった。考えてることがよくわからない人だ。
「……大丈夫です。テトさん」
一瞬、話そうかと思ってしまった。でも、これはわたしが解決しなくちゃいけない問題だ。
「そうかそうか。ならばいいよ。いつでも気が向いたら話すといい。私たちは家族なのだから」
そう言って、テトさんはどこかへ跳んでいった。取り残されたわたしは鳥の頭を撫で、また足を進めた。
「ピィ」
鳥が鳴いて、わたしの視界の少し上を飛びはじめた。ゆっくりと、わたしの歩調に合わせて。
「家族なのだから」――テトさんのその一言がわたしはうれしい。今まで勝手に一人だと思っていた。寂しいと思っていた。けれど、わたしにはちゃんと頼れる人がいた。頼るかどうかは別だけど、いてくれることはうれしい。
と、わたしの前を飛んでいた鳥が光りだした。
「あ……」
鳥はふわりと形を崩し、光の泡となって消えた。魔法の効果が切れたのだ。
「ありがと」
呟き、その場から離れた。