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星降る森  作者: 人鳥
第二章 空で星が光る日々
7/23

4

第二章第四部です。

コメントが思いつきませんね。無理に書かなくてもいいんでしょうけれど。


文章が読みにくいとか、そういうのあったら言ってください。

どうにかこうにか頑張ってみます。

(どう読みにくいかも同時に書いてくれるとうれしいです)

 わたしは天花をエステア湖にお供えした後、あの場所に向かった。『星昇る夜』の前夜、ネルと語り明かした場所。

 その場所は、木が生えていない。この場所に生えるのを拒むように、円形に木が生えている。誰もここには用事も無く、人は殆ど近寄らないけど、わたしにとってこの広場は、大切な場所だ。前夜はもちろん、つらい時や何かを決めた時、怒った時や泣いた時、いつもここに来た。わたその全ての思い出を、この場所は知っている。

「暇潰し、か……」

 数日前にネルが言った言葉。でも、わたしはこの森の生活が退屈だとは思わない。ネルは何が不満なんだろう。

 チチチチチ。

 鳥の鳴く声が聞える。

 カラカラカラ。

 虫の鳴く声が聞える。

 チャポン。ピチャッ。

 水の爆ぜる音が聞える。

 時折、獣の声も聞える。

 森は平和で事件も起きず、平穏な時間が流れる。退屈だとは、わたしは思わない。事件も何もいらない。

わたしは、静かにネルと共に生きたい。

「これが……ネルにとっては退屈なのかなあ」

 わたしの呟きを聞く人など、もちろんいない。ごろり、と横になった。昨日降った雨で、地面が濡れている。湿った土のにおいが、わたしの鼻を刺激した。懐かしいような、悲しいような匂いがする。

考え事をしているときにここにくると、いつもこの匂いがする。思えばわたしは、この匂いで心が整理されていた――ように思う。けれど、今のわたしの心は、整理されない。

些細なことなのに、些細なことじゃないような気がする。

何かが変わる気がする。

「ダメダメッ! 別に何も変わってないじゃない。ネルもわたしも」

 まあ、ネルは少し口数が増えてきたけど。でも、本質的には何も変わってない。

 わたしは体を起こして、そのまま立ち上がった。背中と頭が濡れてしまったけど、今のわたしには心地よく感じられる。後ろ髪を一回払い、わたしは広場を出た。

 木が生い茂り、陽の光が遮られる。枝と葉の間をぬって差し込む陽光が、線になって地面を照らしている。湿った地面が光を反射して、きらきらと光っている。ネルの『発光』の魔法、『明滅する時』を思い出す。光り方は全く違うけど、なぜか思い出した。

 急に、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

 痛くはない。

 ただ、苦しい。けれど、呼吸は普通にできている。

 寂しい。

 両手に魔力を込めて胸の前で握る。そして、ゆっくりと開けた。

「ピィ」

 小さな白い鳥が一羽、わたしの手から出た。鳥はぱたぱたと羽ばたいて、わたしの肩にとまる。

「ピィ」

 一度鳴き、また飛んだ。今度はわたしの指先にとまって、首をしきりに動かしている。その動きがとにかく可愛らしくて、わたしは鳥の頭を撫でた。鳥は気持ちよさそうに目を細め、また飛んだ。わたしの肩の上にとまり、首を動かしている。

 わたしは思わず笑い、再び歩き出した。いつもより多めに魔力を込めて創ったこの鳥。たぶん、普通より長い間わたしの隣で鳴いてくれるはずだ。

「『小さな友達』、か」

 この魔法の名前、確かにその通りだ。

 この名前がますます好きになった。

「おや、ミナではないか」

 突然わたしを呼ぶ声がして、わたしは上を見上げた。

「テトさん」

 テトさんは、『森の人』となって引越してきた家の住人だ。今はこの人と二人暮らし。話し方は男の人みたいだけど、女の人。

「天花を供えに行ったっきり帰ってこないから、すこしばかり心配していたのだよ」

 テトさんはそう言って、木から飛び降りた。バスンッ、という音がしたけど、当然、テトさんは平気そうだ。

「どうしたのかね?こんな所で」

「いえ、少し散歩してただけです」

「そうかそうか。……嘘はいけないよ」

 テトさんはニヤニヤと笑い、その手をわたしの肩に乗せた。白い鳥は慌てて飛び立ち、反対の肩に乗る。

「おや? 可愛い鳥じゃないかね。『発現』の魔法かね?」

「は、はい」

 そうかそうか、とテトさんは何度か頷いて、またさっきのニヤニヤ笑顔に戻った。

「さっきの話だが……嘘はいけないよ」

「えっ? 嘘なんてついてませんよ」

 けれど、テトさんは首を横に振った。

「いやいや、嘘を言っているよ。実にわかりやすい。君は嘘をつける人間じゃないんだよ。君は嘘をつくことに対して自覚的かどうかはともかく、罪悪感があるのさ。別に、責めるつもりは無いよ。悩みあるなら、相談くらい乗るが?」

 ニヤニヤした笑いが、今度は真剣な顔になった。考えてることがよくわからない人だ。

「……大丈夫です。テトさん」

 一瞬、話そうかと思ってしまった。でも、これはわたしが解決しなくちゃいけない問題だ。

「そうかそうか。ならばいいよ。いつでも気が向いたら話すといい。私たちは家族なのだから」

 そう言って、テトさんはどこかへ跳んでいった。取り残されたわたしは鳥の頭を撫で、また足を進めた。

「ピィ」

 鳥が鳴いて、わたしの視界の少し上を飛びはじめた。ゆっくりと、わたしの歩調に合わせて。

 「家族なのだから」――テトさんのその一言がわたしはうれしい。今まで勝手に一人だと思っていた。寂しいと思っていた。けれど、わたしにはちゃんと頼れる人がいた。頼るかどうかは別だけど、いてくれることはうれしい。

 と、わたしの前を飛んでいた鳥が光りだした。

「あ……」

 鳥はふわりと形を崩し、光の泡となって消えた。魔法の効果が切れたのだ。

「ありがと」

 呟き、その場から離れた。


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