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星降る森  作者: 人鳥
第二章 空で星が光る日々
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二章part1です。最近、一度に投稿する文章量が多いような気がしてきたのですが、どうでしょうか。

 少しいいことがあった翌日は、なぜか普段とは違った心持になる。そしてもちろん、今がその状態なのだが、しかし、素直には喜べないのであった。

 わたしは家を出ることになった。『森の人』になったわたしは、エステア湖周辺に移動する必要があった。引越し先はこれから決める。これも、『掟』みたいなものだ。

「ミナァ、会いに来てくれるんだよね? ね?」

 家から出て行こうとしたとき、コズがわたしに飛び掛ってきて、頬を涙で濡らしていた。わたしの服を掴む両手は、力が入りすぎて震えている。

「うん。絶対、会いに来るわ」

 今できる最大限の笑顔で答え、コズを下ろした。

「絶対だよ? 絶対だよ? 嘘ついたら葬花食べさせるんだからね!」

 わたしに死ねというのか?

 というよりも、会えない相手に食べさせられないだろ?

 葬花は文字通り、『葬る花』だ。葬式のときに手向ける花じゃなくて、もの凄い毒がある。茎から出てくる汁の毒素が一番強くて、触るだけで皮膚が腐ってしまう。それを食べたら……確実に死んじゃう。

「は……は、はは。絶対に約束破らないよ。絶対に会いに来るわよ」

 まだ、わたしは生きたいのよ。コズならわたしを探し当ててでも、葬花を食べさせそうだ。

わたしはまだ、平均寿命の十分の一も生きてない。

 コズの頭をそっと撫で、わたしは家を出た。ハギは家にはいなかった。たぶん、わたしと顔を合わせにくいんだろう。わたしも、会ったときどういう顔で会えばいいのかわからない。

 『森の人』になっても、特に変化は起きなかった。昨日の『森の人』の話によると、今日から魔法が使えるようだけど、魔法の使い方がわからない。今あるのは、昨日よりも強くなった『耐性』だけだ。


 森を進み、エステア湖に着いた。ここで、ネルと待ち合わせをしている。ネルはまだ到着していないようだ。

「魔法……使いたいな」

 湖の水を手ですくってみた。昨日のような輝きは最早無く、魔力も極端に減っていた。手ですくっても手は熱くならないし、ここまで近づいても苦しさは全くない。もしかしたら、わたしに『耐性』ができたからなのかもしれないが、それでも、森の魔力が減っていることは事実だろう。

でもまあ、すぐに元に戻るはずだ。いつもこういうサイクルであるはずだ。でなければ今頃大騒ぎだ。

「ミナ、ミナ」

 わたしを呼ぶ声がして後ろを振り返ると、ネルが立っていた。

「あ、ネル。おはよぉ」

「……ん、おはよう」

 いつもの、あまりしゃべらないネルがそこにいた。いつもの静かな声で、呟くような話し方だ。

「ねえ、ネル。どうやって魔法使うか知ってる?」

 たぶん知らないと思う。知っていたら、逆にショックだ。

 わたしが知らないのに、なんでネルが知ってるのよ!ってな感じだ。

「…………、知ってるよ」

 知っているらしい。何処からそういう情報を得ているのか、わたしにはさっぱりわからない。

「……ボクはキミよりも『森の人』とよく話をするから。でね、手は対象や方向、範囲を決めるために使うんだって。あとは、自分のイメージらしいよ」

 よくわからないけど、それってかなり簡単なことじゃないかと思う。

「あっ、でもね、あまりに大きな変化と効果を期待したら魔力を多く消費しちゃうらしいよ。魔力は『森の人』にとっては生命力みたいなものなんだからね。一回で使い過ぎないように注意してよ」

 いきなりよく話すようになった。

わかってる。わたしを心配しているんだ。

全く、いい友達を持ったものだ。

「うん。ネル、ネルはもう魔法使ってみたの?」

 使い方を知っているなら、もしかしたら使っているかもしれないと思った。

 しかし、返答はわたしの予想を裏切るものだった。

「ううん、使ってないよ」

「えっ? そうなの? てっきりもう使っちゃってるって思ったのに」

 わたしが驚いたように言うと、ネルはおどけたように頭をかいた。そしてクスクス笑いながら、

「使ったんだけどね」

 なんて、そんなことを言った。

「どっちなの?」

「使ったんだよ。最初は難しいけど、慣れれば簡単だね」

 ネルはおもむろに両手を合わせた。そしてその手をわたしの胸の前まで寄せて、ゆっくりとその手を開いた。

 一匹の白い蝶が、その手の中から飛び出した。

「えっ、えっ? ええええ!」

 蝶はわたしを囲むように飛び回り、そして光の泡となって消えた。それは短い時間だったけれど、確かに飛んでいた。本気で驚き、魔法であることに気付くのに数瞬かかった。

「まだ未熟だけどね」

 今日から魔法が使えるのだから、それは当たり前。

でも、使えている。

 わたしを残してネルがどんどん先に進んでいくような錯覚が、わたしを襲った。

 錯覚じゃないのかもしれないけれど。

「さ、ミナもやってみようか」

「えっ?」

 いきなりネルがわたしの両手を握った。

 暖かい手だった。

「目を閉じて、イメージするんだ。今回はとりあえず蝶でやろう。……蝶が自分の手から出てくる姿を」

「う、うん」

 言われたとおりに目を閉じて、蝶が自分の手から出てくる姿をイメージする。ぽう、と手の中が温かくなった。それに、少しだけ手の辺りが明るくなったような感じがする。あくまで想像だけれど。

 けれど、それだけで蝶が手の中にいる感覚は無い。少し温かいと感じる程度だ。

「さあ、開けてみて」

 わたしの手を放してネルは言ったけど、わたしには蝶が出てくる気は一切しない。からかわれているように思えてきた。

「いいから。とりあえず開けてみなよ」

 言われるまま手を開いてみた。

 一匹の白い蝶が、手から出た。

 何回か羽ばたいて、光の泡となって消えた。

「で、できた!」

 できた。できた。できた。

 ほんの一瞬だけど、確かに蝶は飛んだ。

 わたしの初めての魔法だ。

 たぶん、ネルもこの魔法だ。

「凄いよ。ボクは羽ばたくこともしなかったのに」

 心底驚いた表情だ。

 けれど、それが嘘だとわたしにはすぐにわかった。どこか、そういう気がした。いわゆる、勘というやつだ。

 嘘だと思えても、褒めてもらったことが嬉しかった。

「『色彩』の魔法もこの調子でできるといいな」

「そうだね」

 エステア湖のほとりで、わたしたちは笑った。特に理由はない。自然と笑みがこぼれていた。

 ねえ、ネル。

わかる? わたし、幸せだよ。

とっても。

 ねえ、ネル。

 君は、幸せ?

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