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星降る森  作者: 人鳥
第四章 過去と現在の裏側
19/23

3

しばらくネット環境がない状況になるので、次回まで期間が開きます。

詳しいことはHPブログに書いています。


http://id1153.blog120.fc2.com/


新作の情報とかいろいろ書いていくつもりです。

 今日でもう何日になだろうか。早く起きてくれないだろうか。ネルとはもっともっと、話したいことがある。

 魔力が完全に無くなったネルの手を握り、わたしは眠りについた。そういえば、わたしはもう三日は寝ていないのだった。

 わたしが目覚めたとき、ネルも目覚めていたらいいのに……。

 わたしの視界は睡魔によって、暗く閉ざされた。


 こんなご都合主義がまかり通っていいのか。今のわたしの感想はこれに尽きる。

 嬉しさとか感動とか、そういったものが今頃遅れてやってきた。

 ああ、うれしい!

 隣に立つテトさんは、どこか曖昧な表情を浮かべている。

「ネル!」

 わたしは思わず飛びついた。

 ベッドには、ネルが上半身だけを起こして座っている。目を覚ましている。

 テトさんが、今まさに魔力を注ごうとしていた瞬間に、ネルは目を覚ましたのだ。

「ミナ……?」

「なかなか起きなくて心配したんだよ!」

 流れた涙を隠すために、わたしは抱きついたまま言った。

「……? どういうことですか?」

「少年の魔力を私が奪ったのは覚えているかね?」

 テトさんが静かな声で尋ねる。

「ええ」

「それが原因。君はあの日から三十三日と半日、ずっと眠っていたのだよ」

「冗談、でしょ?」

 信じられない、とネルが首を振ったのがわかる。わたしはまだ抱きついた姿勢のまま。

「冗談ではないよ」

「……」

 わたしはやっとの思いで顔を上げ、ネルに事情を説明した。

「なるほど。心配かけたんだね。ごめん」

 一回の説明で理解してくれたようだ。素晴らしい理解力。

「いいんだよ」

 ちょっといい雰囲気じゃない? なんて思ってたら、テトさんの声が割り込んだ。

「数日は安静にしているといい。どうせミナの部屋だ。私は迷惑しない。魔力の返還はとりあえず、今日の夜から開始する」

 気を利かせてくれたのか、テトさんは部屋を出た。

「話したいこと、一杯あるんだ」

「うん」

 ネルが眠っていたときのこと。

 ネルと会わないと言った後のこと。

 テトさんのこと。

 溜め込んだ全てを、吐き出した。

 ネルも、そうだったと思う。

 わたしと張り合うくらい沢山話してくれた。

「お互い、大変だわ」

「そうだね。大変だ」


 それから三日後、テトさんの安静命令が解除された翌日の朝。

 ネルはわたしたちの前から姿を消した。


 わたしがいつもよりも早く目を覚ますと、隣で眠っているはずのネルがいなくなっていた。近くにいるだろうと思い、家中を探し、外も探した。けれど、どこを探しても、ネルはいなかった。

 ねえ、聞える?

わたしはここにいるよ。

 ねえ、聞える?

 やっと話せるようになったのに、いなくならないでよ。

 ねえ。

 家に戻ると、テトさんが起きていた。念のためにネルのことを聞いてみても、

「私が起きたのはたった今だ。とりあえず、私も探してみよう。ミナも休んだらまた探してくれたまえ」

 と言って家から出て行き、特に収穫はなかった。少し水を飲んでまた外に出る。いつも歩きなれた道が、全然違うもののように感じられた。気持ち一つでこんなにも変化するものなのか……。

「あ、すいません」

 誰だかわからないが、『森の人』に会った。わたしは迷わずネルのことをその『森の人』に尋ねた。

「ネルっていう男の子知りませんか? 『森の人』なんですけど、耳がとても尖がってて身長はわたしよりもちょっと大きくて……」

 『森の人』はしばらく悩んだあとに首を横に振った。

「すまんが、見てないな。どうかしたのかい?」

「目を放した隙にどっかに行っちゃって」

「はっはっは。見かけたら教えるよ。そういうのに役立つ魔法を持ってるからね。君、名前は?」

「ミナです」

「あい、わかった。見かけたら連絡するよ」

「ありがとうございます。お願いします」

 『森の人』何度もお礼を言って、わたしは走り出した。いい人だ。ホントにいい人だ。見ず知らずのわたしのために。

 ちょっとした感動は胸の片隅に追いやり、ネル探しに集中した。

「見つけたかね?」

 テトサンの声が聞え、わたしは周囲を見回した。しかし、テトさんの姿はどこにもない。

「テトさん?」

「ああ、すまない。今魔法で話しかけているのだよ。口に出さずとも思えば聞える」

 なるほど。さっきの『森の人』の魔法もこの魔法なのだろう。たぶん。

「で、ネルは見つけたかね?」

「いえ、まだです。テトさんは何か収穫ありましたか?」

 ダメ元で聞いてみる。

「いや、なにもない。もしかしたらミナが何かを掴んでるかもしれないと思って通信してみたのだよ。いやはや。狭いように思っても広いものだな」

「暢気なこと言ってないで探してくださいよ」

 ちょっと強く念じる。

「いやいや、探しているともさ。これでも全速力で走っているのだよ?」

 テトさんの全速力ってどれくらいの速さだろう?

 それからずっと『会話』をしながらネルをさがしたけれど、何も収穫はなかった。


 ネルはいまだに帰ってくることはなく、すでに九日がたっていた。わたしにはすでに心当たりもなくなり、正直なところ、探すことができなくなっていた。わたしもテトさんもハギも、口には出さなくても諦めて待つことしかできないとわかってしまった。十五日を過ぎると、探すことすらなくなった。

 代わりに、寝る前に祈ることにした。

「ミナさん」

 わたしを呼ぶ声が聞え、声のしたほうに振り返る。

「アキじゃない。どうしたの?」

 アキは最近知り合った『森の人』だ。わたしと同期のはずなのにわたしを「さん」づけで呼ぶ。癖であり、たとえ年下でも同じらしい。

 嘘でもいいから「ミナさんを尊敬しているんですよ」なんて言って欲しかった。尊敬できるような部分なんてないと思うけど。

 アキは何度か声を発さずに口だけを動かし、やがて声に出して言った。

「あの、『小さな友達』を教えて欲しいんです」

「え?」

「ミナさんは『小さな友達』の技術があるそうじゃないですか」

 どこからそんな情報を……。困惑するわたしを置いてきぼりにして、アキは続ける。

「僕としては、『小さな友達』はとても応用の利く魔法だと思うんですよ」

 情報元はドズさんあたりだろうか。

「聞いてます?」

 わたしの顔を覗きこみ、怪訝な視線を向ける。

「えっ? ええ。わかった。教えてあげるわ」

 ネルに教えてもらったときのように、アキの手を取って簡単に説明する。ただ、あのときの説明はあくまで簡略化した方法だった。アキには正式な手順を教える。

「……なるほど。……この魔力の練り方を変えれば、もっと大きなものができそうですね」

 わたしなんかよりも才能があるのじゃないだろうか。アキはすぐに『小さな友達』をマスターした。

「いえいえ、そんな。ミナさんのものより完成度が落ちますよ。細かい模様とか、仕草とか。あなたのものは、もっと繊細です」

 アキは微笑し、わたしに一礼した。

 何となく気分がいい。

「ありがとうございます」

「いいのよ。わたしにできることなら手伝うわ」

「ありがたいです。では、また今度お願いできますか?」

「わたしにできることなら、ね」

 たぶん、もう何もないのだろうけど。

「はい」

 アキはまた小さくお辞儀をして、『飛翔』の魔法で空へと消えた。

 どうしてアキがわたしを慕うのかがわからない。『小さな友達』は本当にできなかったようだけど、明らかに彼のほうが技術はあるのに。

 わたしは疑問に思いながらも、散歩を再開した。もともと、アキに魔法を教えるために外に出たのではない。結果的には気分転換にはなったけれど。あ、今度、彼に『飛翔』の魔法教えてもらおうか。便利そうだ。最近ドズさんにも会ってないし、いい加減新しい魔法も覚えないとダメなヤツになりそうだ。

 考え事をしながらであっても、外を歩くというのはいいものだ。見慣れた場所に、思わぬ発見があったりする。そう思ったのは、まあ、今その発見があったからだが。

「こんなところにあったんだ」

 わたしが見つけたのは、とても懐かしいものだった


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