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星降る森  作者: 人鳥
第四章 過去と現在の裏側
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1

なんだか久しぶりのような気がします。

前回が29日でしたから、5日ぶりですか。


作者的にも終わりが見えてきたような気がします。

もうしばらくお付き合いくださいませ。

「事実、なんですか?」

 信じられない、と呟く。

「事実だよ。くれぐれもミナには内密にしていてくれたまえ」

 わたしの中で、何かが弾けた。

 もうこの際、邪魔だとかそんなことはどうでもいい。

 今すぐに確認しておきたいことがある。

「どうしてわたしには秘密なんですか!」

 突然現れたわたしを、二人が愕然とした目で見た。けれど、わたしは構わずに叫ぶ。

「どうして、テトさんはわたしに秘密ばかりなんですか!」

「そんなことはいいよ。ミナ。今は魔力を抑えてるけど、いつまた魔力が暴走するかわからないんだ。頼むから離れてくれよ」

 懇願するようなネルの声。いつもの優しく静かな声は、どこにもなかった。

 わかってる。わたしを心配しているんだ。

 けれど今に限っていえば、わずらわしい。

「大丈夫さ。今は私がキミの魔力を全て頂戴しているから」

 ネルがテトさんに向き直り、

「嘘でしょ?」

 と肩をすくめた。

 わたしも、信じられない気持ちでテトさんを見つめる。

「事実さ。適当な術を使ってみるがいいよ」

 うなずいて、人差し指を立てた。しかし、何の変化も起きない。ネルは不思議そうに自分の手を見つめている。

「わかったかね。キミは私がここに登場した時点で負けているのさ」

 今更気付いた。さっきまで森を焼いていた炎が、完全に消えている。火の雨もやんでいる。黒い炭に変わった木々が、ここで『破壊』の魔法が発動されたことを語っていた。

「平気なんですか?」

「何がかね?」

「魔力ですよ! ボクの元々の魔力に、その上、儀式で得た魔力全部だなんて!」

 考えてみれば、それは、かなりの負担ではないのだろうか。

「平気さ。少なくとも今は。ほとぼりが冷めれば、少しずく君に返していくつもりだよ。『森の守護者』の称号はそうだな、次の『星降りの夜』まで停止。魔力の完全返却は、八年後でどうだい? 実際、人手が足りないのが実情でね。少々軽い対応だが、不服かね?」

 ネルの表情が緩んだ。

「寛大な処置、ありがとうございます」

 こんな丁寧なネル、初めて見た。

「そうかそうか。それはよかった。では、今はゆっくりと休むがいい」

 テトさんがそう言った瞬間、ネルはその場で倒れた。

「どうしたのっ!」

 わたしがネルの体を抱き上げると、規則正しい呼吸が聞えた。

「眠ってる?」

「突然魔力が無くなったのだから、当然だろう。しばらく眠れば少しくらい回復するはずだ。ちょっとでも魔力ができれば目が覚めるはずさ。『森の子』以外にとって、魔力は命以外の何でもないからね。ま、さすがに死にはしないが、意識は落ちる。最悪、目を覚まさない」

 さも当然のように解説するテトさんが、無性に腹立たしく思った。

「わかってて全ての魔力を吸い取ったんですか!」

「その通りだよ、ミナ。わたし個人としては、ちょっとくらい魔力を残してもいいと思ったのだが、『森の王』という立場上、それはできない。現状ではあまり重い罰則を与えられないのでね、別のところで償ってもらうのさ。大丈夫。最悪の場合、私がじきじきに魔力を注ぐことになっている。無論、最悪の場合だがな。それになにより、『破壊』の魔法は術者が発動を止めない限り効果が残り続ける。最後の『訪れた災厄』など、放置していたら火が魔力から独立してしまうのだよ」

「独立?」

「火そのものとして存在するということさ。そうなれば魔法を解除しても火は消えない。森は完全に滅ぶよ」

「…………」

 何気なくネルの顔を覗きこんだ。

 ネルはすー、すー、と寝息を立て、それ以外の動きはまったくない。試しに顔をつねってみても、顔をしかめることすらなかった。

「ミナ、つのる話もあるだろうが、とりあえず帰ろうではないかね。ネルは一人暮らしだからな。しばらく我が家で預かっておいても構わぬよ。部屋は、ミナの部屋しか空いていないがね」

「……はい」


「どうして、わたしに秘密だったんですか?」

 聞くと、テトさんは言いにくそうに、苦笑した。その苦笑は、はにかんだようにも見える。

「理由は二つある。一つは至極簡単。私の地位を知ると、ミナとの関係がぎこちなくなると思ったのだよ。せっかく得た家族だ。どうせなら、重い空気よりも、軽い空気で生活したいだろう。最悪、私の前から姿を消すことも考えたのだよ。こういう一般的なスタイルの家で過ごすのも、そういう理由だよ。ま、豪邸など私の趣味じゃないがね」

「そんな……」

「まあ、いざバレたと思えば、君はまったく同じ態度で接してくれた。私の努力は無駄だったようだ」

 テトさんは笑う。

「ソト様に敬称も敬語も使わなかったのも――」

「そう、私が上官だからだ。もちろん、幼なじみでライバル。君たちと同じような関係、というあのくだりは事実だがね。そうでなければ、あんな態度のヤツは張り倒しているよ。ミナ以外はね」

 開き直ったらこういう人なのか……。ますますこの人がわからない。

「二つ目の理由は、こっちはもっとくだらない。私と初めて会った日を覚えているかね?」

 それなら今でもはっきりと覚えている。忘れもしない。

「酔ってたんですよね?」

「違うのだよ」

 しかし、テトさんは首を横に振った。

「はい?」

「違うのだよ。私と君は、もっともっと前に出会っている」

 …………。

 わたしにはまるっきり、まったく記憶にない。こんな変わった人に会っていたなら、絶対に覚えていると思う。

「忘れてしまったのかね。まあ、それは仕方がない。君はあの時、ずいぶんと小さかったのだから。では、こう言えばわかるかね」

 テトさんはそこで言葉を切った。

「『色彩』の魔法」

 その単語を口にされて、初めてわたしは気付くことができた。

 正直、まったく気付かなかった。よくよく思い出せば、この人以外にありえないのに。この口調。「そうかそうか」という口癖。名前は完全に忘れていたけれど、それでも気付く要素はいっぱいあったのに。

「じゃあ、わたしが名前を教えたときに、一瞬驚いてたのは」

 実際、『森の人』なってから二回自己紹介をしたのけれど、両方とも同じ反応だった。一瞬、驚いたような表情をしたのだ。

「ほう、アレに気付いていたのかね。素晴らしい観察眼だよ。そうさ。私は覚えていたのだよ。いつか、『色彩』の魔法を教えなければならないと思ってね」

「六年も待ってくれたんですね」

 テトさんは小さく笑った。

「六年など、私にとっては一瞬だよ。前にも言ったが、私は五百二十三歳だからね。まったく。職場はみな年上ばかりさ」

 あれ、そういえばソト様って考えてみれば、もうかなりのご老体じゃ……。

「やっと気付いたか。ヤツとは幼なじみだが、そういう気持ちを持っているのは私だけだ。年をとっても外見が中々変化しない我々に多くあるミスだよ。ソトは私のことをどう思っているのか、私には皆目想像もできんよ」

 笑えない冗談だ。

「あいつは『森の人』の仕事をサボって遊びに来ていた。それもいけない。誤解が誤解を事実に変えていたのだよ。ああ、脱線したな。……あのとき、年は離れていたが新しい友達ができた、とそう思ったのだよ。友達は多いほどいい」

 なんだ。怒るほどの理由でもない。むしろ、秘密にされていたことに怒ることが馬鹿馬鹿しく思うほど、どうしようもない理由だった。しょうもない理由というのは簡単だけれど、それは言ってはいけないと思う。どうしようもない理由だというのは認めるけれど、それはわたしとの関係を保ちたかったからだ。これを否定してしまえば、それはテトさんに対する侮辱でしかない。

 テトさんは小さく嘆息した。

「結局、私は失うことが怖かったのだよ――君という存在を」

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