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八部です。
これで第二章は終了します。
次回から第三章……お楽しみに。
久しぶりの、我が家。いくら引越したといっても、コズとハギがいるこの場所が我が家であることに変わりはない。もちろん、テトさんと暮らす今の家も好きだ。
恵まれている。
二つも帰る場所があるのだから。
コズは本格的にネルに懐いてしまい、ネルは照れたように笑っている。
ハギは楽しそうにはしゃぐコズを見て微笑んでいる。
わたしは、そんなみんなを見て笑う。
こんな日々が続けばいいと思う。特に何かが起きるわけじゃないけど、けれど、こういう時間が幸せなんだと思う。
「見てなよ」
ネルがコズの頭を撫でながら笑う。
「ほら」
ネルが広げた両手の中から、一匹の森ネズミが現れた。小さな耳に、フサフサの毛。長い尻尾。愛くるしい姿だ。『小さな友達』だ。
「かわいい~!」
滅多に見れない森ネズミの姿に、コズは大喜びだ。手の上に乗せて、そのフサフサの毛を撫でている。
「変わったな」
ぽつり、とハギが呟いた。それは、わたしに向けられた呟きだった。なんとなく言いたいことはわかった。
「ネルのこと?」
「ああ。前はあんなにしゃべらなかった」
「『森の人』になってからね、口数が増えたのよ」
「そうか」
そう言って、森ネズミで遊ぶコズを微笑みながら見つめるネルを見る。しばらくして、ハギが呟くように言った。
「ちょっと見ないうちに……立派になったんだな」
「人は成長するの。遅かれ早かれ、ね」
「ミナにそれを言われるとはな」
クスクスと笑う。
わたしもつられて笑う。
そこへ、ネルがやってきた。コズは森ネズミと遊んでいる。たぶん、たくさんの魔力がこめられているのだろう。
「ミナ」
「うん?」
自然と、わたしたちの視線がネルに集中する。コズは気付いていない。
ネルは何かを決意した、そういう表情でわたしたちの前に立っている。
「どうしたの?」
「出よう」
「へ? もう帰るの?」
どうやらわたしの見当違いだったようで、ネルは頭をかきながら苦笑した。ハギは怪訝そうな目でネルを見る。
「違うよ」
「えっ? じゃあ……なに?」
「うん。ボク、『星降りの夜』の儀式に出るよ」
「えっ? あ、うん!がんばろうねっ」
自然とその言葉が出てきた。けれど、今回に限っては、わたしたちはライバル。『星昇る夜』のように、自分のがんばり次第ではどうにもならないからだ。
「今日でよくわかったよ。ボクには力が足りない」
ネルは、思わず見とれてしまいそうな表情で続ける。
「ボクは力が欲しい。もっと、もっともっと」
そして、わたしたちを交互に見た。
森ネズミと遊ぶコズを見て微笑む。
「みんなを、守りたいんだ」