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星降る森  作者: 人鳥
第二章 空で星が光る日々
10/23

7

第二章第七部です。

そろそろ第二章も終わる気がします。

「嘘だ! 嘘だ!」

 わたしは自分の予感を振り払うように叫んだ。

 けれど、無駄な努力だった。

 目の前に広がる光景が、わたしの心を絶望に染めていく。

「嘘だああぁぁぁぁ!」

 わたしの視線の先、廃れた巨木。

 ――――わたしの家。

 元は穴が開いていた部分に飛びあがる。枝やらなにやらが上から落ちてきたらしいく、その穴は埋まっていた。両手を使って枝をどけていく。手にささくれが刺さる。血が出た。けれど、手は止まらない。止めない。

「××××!」

 何を叫んだのかは、自分でもわからない。気付けばわたしは両手で枝を押さえつけ、魔力を込めていた。

「――――ッ!」

 今度は何も言っていなかったと思う。ただ声にならなかっただけかもしれない。枝が吹き飛び、穴の中や外にはじけ飛ぶ。

「コズ! ハギ!」

 穴に飛び込み、いるはずの二人を探す。けれど、返事は無かった。中を探してもいなかった。

「どこよ」

 わたしは外に出て、地面へ飛び降りた。

「ミナ!」

 やっと追いついたネルがわたしを呼んだ。

「二人がいない!」

 それだけ言って、わたしは駆け出した。

 どこ? どこ? どこ? どこ? どこどこどこどこどこどこ!

 最悪の状況が頭に浮かぶ。

 ざわり。

 異質な魔力の流れを感じた。流れ、というよりも、波動と言ったほうが適切かもしれない。とにかく、異質な魔力を感じてわたしは方向転換をした。

 異変を見つけるため周囲を見回しながら走る。少し離れた場所で寝るが走っていくのが見えた。と、ネルが飛び上がり、木の枝に乗った。そして次々と飛び移りだした。わたしは構わずそのまま走り続けた。

 うれしいことにわたしたちの向かう先に、ハギとコズはいた。けれど、状況がうれしくなかった。

 泣くコズを抱いて、太い枝を持ってゴアビーストと対峙するハギ。体のあちこちに怪我をしている。

「はあ……はあ……」

 ハギの乱れた息が聞える。けれど、わたしはその場から声を出すのはもちろん、魔法で助けることすらできない。声を出せばコズとハギが、魔法を使えばわたしが、確実にヤツの攻撃を受ける。最悪、死んでしまうだろう。それほどに、拮抗した状態だ。

「拘束の魔法『光子の環』」

 わたしの頭上から、あの冷めた声が聞えた。いや、さっきよりはまだ熱がこもっている。……あってないようなものだけれど。

 突如として現れた光に、ゴアビーストは反応できなかった。あっさりと拘束される。

「ハギ! こっちに早く!」

 目の前の状況に驚いていたハギがこちらに気付き、走ってきた。コズはハギの服をぎゅうっと握り、声を上げずに泣いている。

「再会を喜びたいトコだけど、そういう雰囲気じゃないな」

「そうみたい」

 コズは微笑み、わたしは笑った。

「ネル!」

 わたしはそれだけを叫んだ。こくり、とネルが頷いたのを確認して、手当てをするために離れた場所へ移動を始めた。

 後ろから、「おおおおおっ!」という、ネルの雄たけびが聞えた。

 わたしたちは振り返らずに進む。大きな木があり、そのしたまで歩いたところで、ハギはコズをおろして、ドサッと崩れるように座り込んだ。

「ミナ? ハギは大丈夫なの? ねえねえ!」

 コズが泣きながらわたしに訴える。

「大丈夫だよ。コズ、ちょっとここでハギと待っててね」

 コズの頭を撫でながら、出来る限り穏やかな声で言う。

「……うん。わかった」

 わたしはその場を離れ、地面に生えた草を探る。薬草を探すためだ。この森には薬草になる草は多いし、そういう木も多くある。

 地面を四つんばいで進み、一本も逃さないように探す。

 雑草。雑草。花。花。石。雑草。雑草。

 花。雑草。石。木。木。木。木。

 木!

 わたしは目の前の木を見上げた。

 天高く上るその木は、なんと好都合なのだろう。薬木だった。思いっきり飛び上がり、木の枝に乗る。枝は太くしっかりしている。手を伸ばし、手近な葉を十枚取った。

「急がなきゃ」

 枝から飛び降りて、コズとハギの待つ場所へと走る。

 結構離れてしまったと思っていたのに、案外近かった。四つんばいで進んでいたから、勘違いをしたんだろう。多分。

「あった?」

 すでに戦闘を終えたネルがコズを抱いていた。

「うん。先にハギの手当てやっちゃうね」

「うん」

 わたしはハギの前にしゃがみ、葉を一枚手ですりつぶし始めた。

「ありがとう」

 笑顔でハギが言う。わたしもつられて笑顔になる。服を脱いで、上半身をわたしに晒す。胸や腹には特に目立った外傷は無かった。けれど、あざはいっぱいあった。

 背中をわたしに晒す。傷は無かった。けれど、あざはいっぱいあった。

 怪我をしていたのは、皮膚が露出しているところだけだった。わたしは小さく息をついて葉を手ですりつぶした。

「腕だして」

 ハギは右腕をわたしに差し出した。その傷だらけの腕にすりつぶした葉を塗りこんでいく。

「つぅ……」

「はいはい。がまん、がまん」

 続けて左手も同様に塗りこむ。足も傷がたくさんあった。よく大きな怪我をしなかったのもだと思う。

「よく怪我しなかったわね」

 思ったことをそのまま口に出した。ハギは小さく笑う。

「怪我はしてるさ」

「大きな怪我、だよ」

「まあね。ミナやネルが着てくれるまでは、ずっと逃げてたから」

 自嘲気味にハギが笑う。

「ハギさん」

 不意に、今まで黙っていたネルが言った。ネルは昔から「ハギさん」と呼んでいた。

「なんだい?」

「どうしてヤツらが攻め込んできたのかわかりますか?」

 ハギは悩みこむようにうつむいた。

「……よくわからない。気付いた時にはヤツらは僕の家に入り込んでいたよ。それからすぐにコズを担いで逃げてきたんだ。……そろそろヤバイなって思ってたら君達が助けてくれたってわけ」

「そうですか」

 ネルは再びコズを頭上に持ち上げて、クルクルと回りだした。案外子供好きなのかもしれない。

「……あ、ほらハギ、足出して」

「あ、ああ」

 伸ばした足にすりつぶした葉を塗りこんでいく。

「それにしても、この程度の傷なら魔法でどうにかできそうだけど……そういうのはないのか?」

 不思議そうにハギがわたしに聞く。

「あるよ」

「え? じゃあ……」

「でも、使っちゃいけないんだって。禁術ってやつらしいわ」

 ハギは一瞬うれしそうな顔をして、すぐに表情を曇らせた。

「残念。でも、何で使っちゃいけないんだ?」

「さあ? 色々あるのよ、きっと」

 自分でもわからないことは他人には説明できない。わたしは適当に説明にもならない説明をした。

「ふぅん」

 それ以上の追求は無く、わたしはそっと胸を撫で下ろした。

「コズ、おいで」

 ネルにグルグルまわされているコズを呼ぶ。

「うん」

 ネルは回すのを止め、コズを下ろす。

「あれぇ? 目の前がぐるぐるしてるぅ」

 足取りはフラフラしていて、それでもこちらに歩いてくる。ネルはそっと後ろから付いて歩く。

 まあ、転んだ。しかも前に倒れたため、ネルも支えることはできなかった。服を掴むことも、腕を掴むことも、どちらもできなかった。まさか、後ろに流れた髪をつかむことなんてできないし。

「いったぁい」

 コズ以外のわたしたち三人が笑う。コズはすっと立ち上がって、体についた枯葉や土を払い落とした。

「で?なに?」

 さっき転んだことなど無かったというように、何食わぬ顔で言う。そういうところがまた面白い。

「怪我してない?」

「うん。全然してないよ」

 念のためにさっとコズの体を見てみるが、たしかに怪我はしていなかった。ハギのおかげであることは考えなくてもわかる。

「さて、ゴアビーストのヤツが家の入り口潰したからな。コズ、帰って入れるようにしようか」

 いつの間にかハギは立ち上がっていた。

「あ、それ、もうわたしが入れるようにしてるよ」

 二人を探すときになんだかよくわからない魔法で。

「本当?」

「うん」

「そっか。ありがとう」

「いいのよ」

 それから、どちらも何も言わず、気まずい沈黙に包まれた。

 あ、コズの身長伸びてる。

「さて、コズ帰ろうか」

「うん」

「わたしたちも帰ろっか」

「そうだね」

 と、コズがすこし寂しそうな顔をした。

「うちに寄っていかないの?」

 コズにそう聞かれ、わたしとネルは顔を見合わせた。くすり、とどちらともなく笑い、コズにうなずいて答えた。

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