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SF作家のアキバ事件簿219 妄想ドミノ PART1

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第219話「妄想ドミノTheory PART1」。さて、今回は秋葉原の路地裏でスーパーヒロインが争いの果てに墜落死します。


懸命の捜査を嘲笑うかのように事件の容疑者、証拠が次々と消えて逝きます。そして、捜査線上に浮上したのは、第2.5次世界大戦に続く"妄想ドミノ"…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 妄想の始まり

深夜の裏アキバ。寝静まった雑居ビル街。突然カン高い音波銃の銃声が響き激しく争う物音。そして…


「きゃあああ」


窓ガラスを割り絶叫しながら地面に落下する人影。停車中の車の屋根に激突。防犯ブザーが鳴り響く。


「手こずらせてくれたわね」


割れた窓から女が姿を現す。彼女もまた脚を引きずっている。車の屋根を人型に凹ませた死体を見下ろす。


死体は血に塗れている。青い血に。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをUFOカフェ風に改装しようと思うが常連が宇宙人コスプレで居座るようになったら困るなと心配はつきない。


「テリィ様。今宵のメイドミュージカルのリハ、これ以上ない出来でした!」


青のメイド服に紫のショール。僕の推しミユリさんの御帰宅だ。彼女は御屋敷(メイドバー)のメイド長。


「"インフルA型ナンか怖くない"のリハで、私は患者の役だったんです。ゴホゴホ」

「御屋敷じゃなくて稽古場でやってくれてホントによかったよ」

「あら。私のために御自慢の"絶品カルボナーラ"を作ってくださってるの?ありがとうございます」


御屋敷のキッチンを覗き込む。


「悪くないさ。だって、コレはスピアのためだから。最近大忙しの僕は元カノとの団欒を大切にしたいと思ってルンだ。だから、御馳走の後は2人で"謎の円盤UAP"を見ようと思ってる」

「え。でも、スピアは今宵は夕食は不要のハズですけど」

「え?何で?」


せっかくの"絶品カルボ"がw


「またインターンを始めたみたいです」

「また?今度は何の仕事かな」

「ハッカー以外にも色々試して興味を見極めたいと逝っていましたが」


僕は"第3新東京電力"退職記念の腕時計を見る。


「でも、もう21時だぜ?こんな時間まで、どんな興味深いコトがアルのかな。ミユリさん、何か聞いてる?」


微笑み視線をそらすミユリさん。スマホが鳴る。


「テリィ様。別の元カノがお呼びですょ」

「ちょっとちょっと、ミユリさん。ちゃんと答えてくれよ。スピアは何のインターンをしてるの?」

「秘密にする約束です。テリィ様、スマホ」


カウンターに置いたスマホは鳴り続ける。


「ミユリさん。僕は彼女の元カレだぞ」

「ダメ。申せません。口にチャックです」

「チャックしたのなら、もう食べられないな。この"絶品カルボナーラ"」


スキレットの蓋で、ほぼ出来上がった"絶品カルボナーラ"の匂いをミユリさんの方へと(あお)ぐ。


「さぁ出来上がったぞ」

「テリィ様。コレだけは申し上げられます。私は、今回のインターンには大賛成してます」

「ソレで安心出来ると思うかい…あ、もしもし。ラギィ、またスーパーヒロイン殺しか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


既に現場には黄色い規制線テープが張られている。万世橋(アキバポリス)のラギィ警部と合流、規制線を(くぐ)る。


「3つもインターンを掛け持ちスルなんて」

「わからないわよ。今回ので元カノとの絆が強まるかもしれないわ」

「そんなワケない。追い込み過ぎだょ。少しは自分を甘やかすコトを覚えて欲しいんだ」


お。我ながら良いコトを逝うな。


「そうよね。良いお手本もいるしクスクス」

「何だょその視線は。僕は…」

「ラギィ警部。派手な喧嘩の音と共に4階の窓から突き落とされて転落死したみたい。被害者は"blood type BLUE"」


先行してたヲタッキーズのマリレ。因みに、彼女はメイド服だ。なにしろ、ココはアキバだからね。


「派手な喧嘩って…被害者の部屋だったの?」

「調査中。でも隣人は見覚えがないと言ってるわ」

「お顔を拝見」


マリレが、車の屋根に大の字にめり込んでるスーパーヒロインの死体に被せられてた黄色い布をとる。


「IDは無いけど、死因ならドッサリあるわ」

「え。転落死じゃないの?」

「見て。先ず銃槍がアルでしょ?」


ペンライトで照らすマリレ。


「音波銃で撃たれたの?」

「YES。あと刺されてる。刺傷がアルわ」

「撃たれて刺されたの?」


その答えは僕のタブレットから。ラボにいる超天才のルイナが"リモート鑑識"で答えてくれる。


「あと窒息もしていて、御覧のとおり首にはボールペンが刺さってるわ」

「エラい念入り殺されたのね。いかにスーパーヒロインだからってヤリ過ぎだわ。コレだけ騒いでるのに犯人を見た人はいないの?」

「騒ぎに乗じてマンマと逃げたようね」


ソコヘ鑑識のジャケットを着た女子が通り過ぎる。


「やぁスピア」

「Hiテリィたん」

「…え。ちょっ、ちょっ、ちょっ!スピア?何でこんなトコロにいるんだ?ま、まさか新しいインターンってコレか?」


いつもはルーズ系のスピアが、折目正しく鑑識のジャケットを着込んでる。彼女はハッカーなんだが…


「テリィたん。もし私が医学部に進むなら、法医学の勉強も必要だと思うの」

「法医学?ってか医学部?何で…でも、何でソレをみんな、というか僕に言わなかった?」

「反対されると思った。だって、スーパーヒロイン殺しって、ミユリ姉様やラギィやルイナやエアリやマリレやテリィたんの世界でしょ?縄張りを犯されるのを嫌がるだろうと思って」


どーでも良いけど名前を呼ぶ順が逆だな。


「何で?バカ逝うなょ僕がそんな風に思うハズがナイだろ?むしろ、とても良いコトだ。でも、死体を見るのは心配だな。ウナされるぞ」

「大丈夫、もう慣れたわ。気味は悪いけど、結構楽しいし」

「私も全く同感だわ」


タブレットから超天才の声がスル。人のタブレットを勝手にハッキングして余計なコトを逝うな!


「テリィたんが夢中になるワケがわかったわ。私も夢中だもん」

「ソレは良かったな。頑張れ」

「OK。じゃね」


スピアは投げキス。殺人現場ナンだが。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


黄色い規制線テープを潜り抜けながら、僕は口をへの字に曲げてる。立哨の婦警にクスクス笑われる。


「想定外の事象発生だ」

「スピアのコト?」

「おい!知ってたのか?!」


這うようにして地面をライトで照らしてるラギィ。僕の憤怒に顔を上げもしない。完全ナメられてる。


「いつも言ってたじゃない?元カノと一緒に過ごす時間が欲しいって」

「でも、こんな時間なら要らない。コレは、僕とラギィの時間だぞ。互いの領域には踏み入らないモノだ。僕だって、スピアのハッカー仲間と会ったりはしない」

「論理の飛躍(ワープ)ね」


アッサリ斬り捨てるラギィ。


「飛躍なモノか。僕とラギィの"調和(シナジー)"の乱れは南秋葉原条約機構(SATO)と警察当局の乱れに直結スル。ワカルだろ?」

「全然ワカラナイ。それより見て」

「何?」


縁石に青い血痕だ。


「スーパーヒロインの血だわ。脚を引きずった女が建物から出るのが目撃されてるの」

「犯人もスーパーヒロインで怪我をしてるのか?」

「そのようね。血の痕はあっちに続いてる」


ライト片手に血痕を追うラギィ。


「冷血な殺人鬼の逃走を阻むのは、己が流した青い血ってワケか」

「コッチに来て。ココで終わってる。ココだけ血が多いのは、立ち止まったせいね」

「恐らく車に乗ったんだ」


ラギィは頭上の街頭カメラを照らす。


「もしかしたら画像がアルかな」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)に捜査本部が立ち上がる。ラギィのデスクのPCを全員で覗き込む。


「最初の通報は20時42分。被害者の転落直後ね。犯人がその角に来るのはその数分後…いたわ。彼でしょ?」


セダンのドアを開ける男。背後から擦り寄る女。


「うん。彼女も負傷してる。警察に追われ、逃げ場所を探してルンだ」


そのママ男を乱暴に車へ押し込む。


「人質を取ったわ。あのタクシー会社に連絡して」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ドアを蹴破り、特殊部隊が突入。


万世橋警察署(アキバP.D.)万世橋警察署(アキバP.D.)!」


サイレンサー付きの短機関銃を構え、防弾ベストにヘルメットで完全武装した特殊部隊が次々と突入。


「手を挙げろ!お前だ!早くしろ」

「うわああっ!何なんだ!撃つな!」

「いや。貴方ではありません」


悲鳴を上げたのは人質の男だ。その女はソファに腰掛け、皿を片手にパンをムシャムシャ食べている。


「アキバP.D.よ!手を挙げて」


バッチを突きつけるラギィ。


「手を挙げなさい。立って!」

「おい、さっさと立て」

「手は頭の後ろ!」


大人しく手を挙げ、口をモグモグさせて、立ち上がる女。ゆっくりと手を頭の後ろに持って逝く。


(ひざまず)け!」


最後のパンをひと口放り込んでから片脚ずつ跪く。手を頭の後ろに回す。しかし、決して組まない。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室。


「トマナ・ゲージね?権利については聞いてる?」

「聞いてるわ」

「弁護士を呼ぶ権利があるけど」


ショートボブ前髪あり。感情のない大きな瞳。ユニ白の広告から抜け出たような特徴のない白白コーデ。


「弁護士?必要ないわ」

「彼女に見覚えアル?」

「落ちたの?お気の毒」


墜落死体の画像に顔色1つ変えない。


「彼女が転落した窓に貴女の指紋が残ってた。貴女が突き落としたのでしょ?。その後ティル・ナッシを誘拐する姿も目撃されてる」

「殺人と誘拐。蔵前橋(けいむしょ)暮らしで人生終わるな」

「私達の捜査に協力しなければね」


僕とラギィでワンツーパンチを繰り出す。すると、トマナ・ゲージは身を乗り出す。


「犯罪の証拠が何であろうと、全ての証拠は消滅スルわ。話は以上ょ」


女はイスの背にもたれ、僕達は目を丸くスル。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


取調室をマジックミラー越しに見る隣室で、ヲタッキーズのエアリ&マリレ(メイド2人)の目も真ん丸だ。


「どうしてあんなに冷静でいられるの。余裕アリ過ぎで明らかに妙だわ」

「きっと何か裏がアルのょイヤーね」

「ヲタッキーズ、彼女を徹底的に調べて」


取調室から出て来たラギィから指示が飛ぶ。


「ラギィ、ソレが難しいの。トマナ・ゲージは謎。免許証は偽造でI.D.もナシ」

「指紋データベースにもヒットなしで、正体を知る術は皆無ょ」

「マジ?」


女はマジックミラーの向こうで警官に促され席を立つ。ミラー越しに僕達にガンを飛ばして留置所へ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


謎の女に誘拐された男ティル・ナッシから事情聴取。コチラは会議室で紙コップのコーヒー付きだ。


「あの女は、常に落ち着いていて無口だった。唯一話したのは"車に乗らなければ殺す"と言った位かな」

「部屋では何を話しましたか?」

「"貴方を殺しはしないから、脚の手当てをして"と言われた」


ティルは、コーヒーを1口飲む。


「どうして怪我をしたかは聞きましたか?」

「ナイフで斬られたと言ってた…スーパーヒロインを殺してる最中に」

「え。殺したって認めてるの?」


思わズ声が大きくなるラギィ。


「YES。ソレも何気なく言ってたな」

「ソレで…誰が誰を殺したとか、なぜ殺したとかは言ってなかった?」

「コレだけは言ってた。そのスーパーヒロインは存在しないンだと」


僕とラギィは、顔を見合わせる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「確かに存在しないわ」


タブレットから超天才の声がスル。万世橋(アキバポリス)の検視局は地下なので、今から遺体を見ながら検視結果を聞きに逝くトコロだ。ルイナ自身はラボからの"リモート鑑識"。


「指紋がデータベースにナイのよ。絶対に何か前歴があると思うのに」

「ルイナ、何で?」

「だって、全身古い銃槍や武術訓練によるタコやらが一杯なの。骨折の痕だって何回分もアルわ。ラギィ達も、きっと死体を見たら驚くわょ」


検視局に入る。ところが…ストレッチャーの上には何も載っていない。カラだw


「遺体は…どこ?」

「もしかして、なくなってる?」

「え。さっきまであったのに」


慌てるルイナ。


「絶対に検視局にあったの!助手達に解剖してもらうトコロだったのに!」

「なぜ遺体が消えるの?」

「また証拠が消えた」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ゲージが証拠が消えるって言ったのは、このコトだったのね!ヲタッキーズ。ゲージは未だ移送されてない?」

「未だょ」

「じゃ説明してもらわなきゃ」


同じ地下にアル留置場に回る。


「ゲージはどこ?」

「奥の2A」

「ああっ!」


いない。何と鉄格子に手錠が掛けてアル。


「…また消えた?」

「署を閉鎖して!」

「ROG」


第2章 CIAにようこそ


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。カウンターでエラい勢いで打ち込みしてたらスピアが現れる。


「テリィたん。昨日は遅かったの?」

「あぁ大変だったさ。スピアが帰った後で容疑者が脱走して万世橋(アキバポリス)が閉鎖されたんだ。

ところが、トマナ・ゲージを名乗る冷酷な女殺人鬼は、とっくに電気街の闇へと消えていた…次の小説のネタになるかと思ってデータを打ち込んでるトコロさ」

「待って!ソレって、例のスーパーヒロイン転落死事件の犯人?」


スゴい悲しそうな顔になるスピア。珍しい。


「うん。しかも、逃げる前に検視局の遺体まで消して見せたんだ。マジかっこ良いな」

「でも、遺体を盗まれた鑑識の方は最悪ね」

「え。インターンのスピアが責任を感じるコトはナイさ。ナイどころか、その場にいなくてマジ良かった。遺体を消した奴と遭遇したら、何の躊躇いもなく殺されてたぜ?」


何か責任を感じてるらしいスピア。コレも珍しい。


「なぁスピア。もし、このインターンが合わないようなら、ラギィにそう言えばわかってくれるけど」

「いいえ。せっかくの機会だから最後までやり遂げたい。超天才のルイナがチャンスをくれたんだよ?だから、最後までやり通す」

「ROG」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


南秋葉原条約機構(SATO)は、アキバに開いた"リアルの裂け目"由来の全事象からヲタクを護る防衛組織だ。

"裂け目"の影響で覚醒したスーパーヒロイン絡みの事件の多くは所轄の万世橋(アキバポリス)との合同捜査となる。


「それで?」


熱血司令官パツア・ゲイツのデスクの前にメイドが2人、立たされている。ヲタッキーズのエアリ&マリレ。


「ソレが…ゲージは殺害現場を不法占拠していたらしくて」

「私が知りたいのは、彼女は今どこにいるかよ。同じスーパーヒロインである貴女達がいるのに、留置場からどうやって逃げたのか、その経緯もゼヒ知りたいわ」

「どうやって外に出たかはわかっています」


ボソボソ答えるエアリ。


「どーせ裏口からコッソリ出たんでしょ?」

「いいえ。正面玄関から堂々と出て行きました。コレが画像です」

「え。コスプレ?」


エアリが示す画像には、ミニスカポリス、じゃなかった、婦警姿?のゲージが映っている。紙一重だw


「どこでコスプレを手に入れたの?」

「量販店"ノンキ・ホーテ"のコスプレ売場から万引されてました」

「さすが東日本随一の品揃えね。とにかく!署内の監視カメラの映像を調べてゲージの全行動を洗い出して頂戴!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ミユリさん率いるスーパーヒロイン集団"ヲタッキーズ"はSATO傘下の民間軍事会社(PMC)で僕がCEOだ。


「犯人は常に警察の一歩先を行っていて、私達は振り回されっ放しね」

「ソレに仲間もいるハズだ。遺体を盗んだ連中だ」

「なぜ制服に着替えたのかしら。わざわざコスプレしなくても、そのママ出て行けたのに」

「ラギィ。ソレはね、彼女はデータベースを見たかったからょ」


エアリが割り込む。データベースの端末を操作しているミニスカポリスの画像だが無駄にセクシーだ。


「なぜデータベース?」

「何じゃなくて誰だ。誰かを探してた。トレシ・マグラ。彼女の住所を調べてた。電話帳には載ってないわ」

「彼女の住所を調べるためにワザと捕まったの?トレシの住所を調べるために?」


僕の含蓄溢れる指摘。ラギィから指示が飛ぶ。


「ヲタッキーズはトレシを調べて。私はテリィたんと一緒にトレシの家に行ってくるわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ダメだ。トレシと電話がつながらない」


神田山本町にある古い雑居ビルの狭い階段を登りながら僕はスマホを切る。目の前にラギィのヒップ。


「しかし、ゲージは彼女に何の用がアルのかな?」

「ソレも含めて彼女から何か聞き出せると良いわ」

「あれ。ドアが開いてる」


ラギィが呼び鈴を鳴らそうとスルとドアが薄く開いてる。ラギィは僕と顔を見合わせ、音波銃を抜く。


「トレシさん!トレシ・マグラ!万世橋(アキバP.D.!です!誰かいますか?」


キッチンシンクの向こうに誰かの脚が飛び出てる。


「テリィたん、いたわ…もしもし、エアリ?来るのが遅すぎたわ」

「後頭部を1発撃たれてる」

「ルイナに連絡してくれる?鑑識も呼んで」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「わかったわ、ラギィ…パツア司令官!トレシが殺されました」


マグカップを手に歩いていたパツアを呼び止める。


「トレシ・マグラ。彼女は何者?」

「33才、独身。研究所勤務の科学者です」

「研究所の同僚に話を聞いて来て。ゲージが殺した理由を調べて」


ヲタッキーズが飛び出して逝く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田山本町の雑居ビル。殺人現場だ。


「トレシは、死後かなり時間が経ってそうね。10時間位かしら。ゲージが逃げたのは昨夜だから不思議はないわ。きっと会って直ぐ殺したンだわ…私、他の部屋も見て来る」


音波銃を構えたママ立ち上がるラギィ。シンクに置かれたコーヒーカップに手を当てる。まだ暖かい。


さらに奥へと進んで、フト振り向くと目の前に黒い頭巾を被せられてる僕がいるw


「テリィたん?」


その瞬間、ラギィの側頭葉に銃口の冷たい感触。見知らぬ男が黒い頭巾を左右の手に持って立っている。


拳銃を取り上げられラギィも黒い頭巾を被らされる。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田山本町の雑居ビル。パトカーやら救急車やら鑑識の車やら殺到してる。スピアにも召集がかかる。


「他の人はどこ?」

「いつも鑑識が1番乗りょ。警官は急いでやって来ても大してやるコトは無いの」

「今回は、私がいる限り遺体からは絶対に目を離さないわ」


今回はスピアのタブレットから声がスル。超天才ルイナがラボから"リモート鑑識"で手伝ってくれてる。


「信じられないわ」

「何が?」

「こんなに責任感の強い子がテリィたんの元カノだナンて。ソレから、遺体の紛失はスピアのせいじゃないから」


ルイナはマジで呆れてるw


「でも…遺体の消滅って、今までにもあった?」

「あのね。遺体が消えるなんてありえないわ…ラギィ、来たわょ。現場助手はスピア」

「…誰もいない?」


ルイナから話が通っているのか、立哨の警官達は鑑識バッグを持ったスピアを現場に入れてくれる。


「ルイナ。キッチンに血痕を見つけたわ…でも、遺体はどこ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


いきなりステーキ、じゃなかった、イキナリ黒い頭巾を取られる。同様のラギィと顔を見合わせる。


「大丈夫か?」

「ええ。テリィたんは?」

「大丈夫だ。しかし…誰なんだ?」


狭いエレベーターのような箱だ。振り向くとイヤホンをつけた黒スーツ女子。


「貴女、どこに連れて行く気?」

「…」

「どこにしろ相当地下深くだな」


"レベル800"でエレベーター?のドアが開く。パンツスーツの女子が僕とラギィの背中を推す。

地下室だ。かなり広い。人々が行き交う。目の前を別のスーツ女子がファイルを開きながら歩く。


「ココは何なの?」


無理もない。タイムトンネルこそナイが、正面には巨大なモニタースクリーン。

それに向かって多くのオペレーターがPCを操作している。常に電話の声がスル。


「アリゾナ砂漠の科学センター?宇宙ロケットの発射司令室か何か?」

「うーんゴメン。何も浮かばないょ」

「テリィたんが言葉を失うなんて、そんなコト初めてじゃない?クスクス」


奥の扉が開き満面の笑顔を浮かべて歩み寄る女子。

どストライクの委員長タイプ巨乳。胸元チラ見せw


「らしくないわね。どーしちゃったの?」

「き、君は… ソフィ・アタナ?」

「ヲ久しぶりね、テリィたん。CIAにようこそ」


微笑むソフィ&ガンを飛ばすラギィ。


第3章 CIAとヲ茶の水財団


秋葉原ヒルズ。ビジネスB棟26Fにある"ヲ茶の水財団"はシンクタンクだ。初老の所長が応対。


「ソフィ・アタナ?はい、私の部下ですょメイドさん。お茶の水財団で5年働いてる。昨日もシボレーのコルベアについて雑談しました。クラシックカーのマニアだった、と言うか、かなり好きだったようです」

「具体的に彼女の仕事の内容は?」

「危ない仕事じゃないコトは確かです。応用数学の博士号を持っていて、気候変動の影響予測モデルを開発していました」


ヲタッキーズのメイド2人は顔を見合わせる。


「彼女に敵はいませんでしたか?誰かの恨みを買っていたとか?」

「そうですねぇ昨日の3時頃、彼女は突然オフィスを出て、私に何も言わず2時間後に何食わぬ顔で戻ってきました。今までそんなコトなかったのに」

「行き先は?」


所長は首を振る。


「いいえ。聞いたんですけど、はぐらかされてしまったのです」

「彼女のPCを見せてください。メールもファイルも全部です」

「サーバーにあります。私のPCからでもログイン出来ますが」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕は、心の底から感動している。


「秘密の地下本部だなんて。まるでNERVだ」

「テリィたん!そんなコト言って誤魔化さないで。ソフィ・アタナって誰よっ?まさか、また元カノ?」

「いや。ちょっちヤヤこしいンだ」


何なンだ?この女房気取りの質問は。


「じゃ簡潔に話して」


時間稼ぎにしかならない。ソコにスタボのグランデカップ2つを持って現れるソフィ・アタナ。女神w


「私が説明するわ。何年ぶり?12年ぶりかしら?」

「11年と…半年だ」

「毎日数えてるの?」


ソフィからカップを受け取る。おい!もう1つは頭から湯気を噴き出してるラギィに渡せょ。頼む。


「テリィたんは、デビュー作"科学女忍者隊ガッチャウーマン"の調査(リサーチ)をしていてね。私と出会ったのよ」

「そうだ!アレは単なるリサーチだった!」

「(何を言ってるの?バカね)女性のCIA情報員の生活に密着してみたいと言われてね。付き合ってあげたわ」


付き合う?慌てて明後日の方を向く僕。メッチャ胡散臭そうな目で僕を見る元"新橋鮫"ラギィ警部。


「そーなの?じゃ貴女があのシリーズの(パンチラで有名なw)ヲトリ・ジュンなの?」

「(アレはレオタードょ)私がヲトリ・ジュンってワケじゃないけど、私の影響を少しでも受けて描いてくれたのならウレしいかな」

「そう。ヲ2人に関する、とても興味深い話を聞くコトが出来たわ」


ラギィ的には精一杯の皮肉を放ったつもりらしいが僕とソフィは見つめ合ったママで聞こえていないw


「元気そうね、テリィたん」

「君もな、ソフィ」

「あのね!お取り込み中悪いけど、私達を拘束スルのは不当よっ!少なくとも警官である私は!」


ソフィに僕に微笑みかけたママでスマホを差し出す。 


「コレは拘束じゃなくて意見交換。桜田門(けいしちょう)も了解済みょ。ケンマ・クインに確認スル?」

「え。刑事総監の?」

「貴女に全面協力させると言ってたわ。とりあえずゲージについてわかっているコトを歌って」


完全に理性を失うラギィ。


「先ず貴女が状況を説明してからでしょ!貴女、マジでCentral intelligence of Akibaなの?」


やっとラギィをチラ見するソフィ。


「良いわ。ソレでこそテリィたんの元カノ。でも、そうすると貴女達に秋葉原特別区(アキバD.A.)の安全に関わる極秘情報を話すコトになる。もし万が一この情報を誰かに漏らせば、特別区への反逆罪とみなされ死刑になるわ。それでも知りたいと思う?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


プロフィール画像がモニターに出る。


「トマナ・ゲージは1997年に特殊部隊からCIAにリクルートされました。彼女はとてもスキルが高く、11カ国語に堪能でトップクラスの情報員となりました。世界各地の紛争地帯に派遣され、どこに行っても、どんな案件でも巧みに処理しました。だが、残念ながら彼女は裏切った」


レクを行う黒背広女子。恐らくソフィの副官だ。


「テリィたん。D.A.の安全保障委員会がゲージが第三次世界大戦を引き起こそうとしているとの情報を傍受した。アキバ特別区発で世界に脅威が差し迫ってる」

「つまり…ゲージに突き落とされたスーパーヒロインはCIAなのか?」

「YES。ゲリハ・クーパよ。ゲージをココに連行するハズだった。でも、彼女は任務に失敗した」


僕は"副官"にくってかかる。


「彼女の遺体を盗んだのもCIAか?」

「答える義務はありません。コレは緊急事態です。アキバP.D.に邪魔する余地はナイ」

「邪魔?ソレはどうも。どーせトレシ・マグラの情報もゲットしてルンでしょ?」


"副官"は顔色1つ変えない。


「貴官らの通信は全て傍受しています。だが、我々が行った時には、既に彼女は殺されていた」

「どうしてゲージが彼女を殺すんだ?」

「テリィたん。ソレは私が聞きたいわ」


ラギィのスマホが鳴動。


「出てもらっても構わないけど」

「許可されなくても出るし」

「スピーカーにしてくれる?」


ひと睨みしてからスマホに出るラギィ。


「スピーカーにしてるから」

桜田門(けいしちょう)からお達しがあったわ。ラギィに勅命が下ったって話だけど何のコト?」

「エアリ。ちょっと色々と複雑なのよ。トレシについての情報は?」


CIA本部の全員が聞き耳を立ててる。


「特にナイわ。でも、昨日勤務中に2時間仕事を抜けてる。その時間の予定表には一言"玉手箱"と描いてアルわ」


顔を見合わせるソフィと"副官"。


「エアリ、ごめん。かけ直すわ…ねぇ"玉手箱"って何ょ?ヲタクのエージェントは、おばあちゃんになる前に死んじゃったンだけど」

「…構わないわ。モトン、話して」

「傍受した情報に拠れば、ゲージの作戦の暗号名と推察されます。つまり、ゲージの作戦にトレシも関わっていたというコトになる」


"副官"の名前はモトン。


「ありがとう、モトン。コレで情報は共有出来たわね。ココまでホントに良く捜査してくれたわ。ココから先もゲージの捜査を主導して」


モトンはソフィを咎めるように見る。


「マテン。この状況を考えなさい。CIAは国内(D.A.内)では捜査は出来ないの」


"副官"の名前はモトン・マテンらしい。


「YES。だって、ソレは警察の仕事だモノ」

「…トマナ・ゲージは、誰かに雇われてる。でも、その雇い主も問題の根深さも全てが不明。だから、テリィたん達には引き続きゲージの捜査を続けて欲しいの。そして、彼女について何か情報があれば、直ちに私に報告して」

「待って。警察の捜査状況を全て報告しろって?」


ソフィに見つめられた僕は、ホトンドうなずきかけてたがラギィは憤然と反発し、ソフィは鼻で笑う。


「テリィたんと"新橋鮫"さんのスマホに、私直通のアイコンをアップロードしておいた。ゲージの怖さは知ってるでしょ?CIAの中でも超危険。陰謀を企み、ソレを実行スル超能力がある。テリィたんを危険に巻き込みたくなかった…でも、ゲージを止めなきゃ。協力してもらえるわね?」


必殺技が出る。巨乳の谷間チラ見せ&上目遣いw


「モチロンさ」


即答の僕。微笑むソフィ。仏頂面のラギィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


真昼の中央通り。ラギィ運転の覆面パトカー(FPC)万世橋(アキバポリス)に帰る。


「コレがどーゆーコトだかわかってるか?僕達はスパイだ。ジェイソン・ボーンの世界。ただし今回はCIAは良い奴だ」

「モノホンとは違うからね。でも、秋葉原CIAだって味方かどうかわからないわ」

「あ、そうだ。スマホのアイコンってどんなのかな…なーんだ。僕のは単なる非常ボタンだ」


イソイソとスマホを出した僕は露骨にガッカリする。僕のアイコンは画面一杯の大きなボタンだ。


「貴方をよく知ってるわ。さすが元カノ」

「なんだ。怒ってる?」

「怒ってないわ」


明らかに怒ってるラギィ。


「じゃあなんだよ」

「突然CIAの指揮系統に組み込まれてウンザリしてるだけょ。しかも、万世橋(アキバポリス)の仲間に黙ってるなんて嫌だわ」

「じゃソフィアの件は関係ないんだな?」


キッパリ応えるラギィ。


「モチロン関係ないわ」

「…ラギィ以外にも僕のSFのモデルにした女子がいるとわかって怒ってるんじゃないんだな?」

「うぬぼれないでよ。そんなの大したコトじゃないわ。全然気にしてませんから」


キッパリ逝い切るラギィ。


「良かった。ソフィは重要な仕事仲間だからな」

「…ねぇソフィに私達の絶妙な関係を乱されないか心配なんじゃないの?心配してないの?」

「国家の安全がかかってルンだぞ。そんな場合じゃないだろ?」

「そんなのわかってるわ」


探るような目つきのラギィは答えを聞いて軽く(にら)む。


「確かに知らなかったんだからビックリしたのは認める。私以外の他の誰かにもピッタリくっついてリサーチしてたなんて」

「待て待て。ソフィのコトをリサーチしたのは、登場人物に真実味を出すために一緒にいただけさ。"科学女忍者隊ガッチャウーマン"のキャラクターにリアリティを出すためにね。そもそもホンの短期間だし大昔のコトさ。そもそも、"ガッチャウーマン"に比べて、ラギィがモデルの"宇宙女刑事ギャバ子"の方がずっと複雑で繊細なキャラクターだしな」

「そーなの?」


笑顔を見せるラギィ。


「マジだ。僕自身も作家としての腕を上げたし、大人として成長もしている」

「え。」

「後半の大人の部分はウソでした」


アイスブレイク。


「ねぇソフィとはどのくらい一緒にいたの?」


え。僕は明後日の方を向く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「1年?1年も一緒にいたの!」


捜査本部のエレベーターの中で大声を出すラギィ。

扉が開き口をつぐむが僕を睨みスタスタ歩き出す。


「え。ほら、僕も若かったからソフィからはたくさん手ほどきを受けたワケだょ」

「たくさん?まぁそうでしょうね」

「いやスパイについてだよ」


突然振り返る。


「コレだけ教えて。今までリサーチ名目で何人の女性をつけ回したの?」

「ははぁ引っかけ問題だな?」

「やっぱ答えは聞きたくない」


再びスタスタ先を歩くラギィ。突然モニター画面に真っ赤なスーツを着たパツアSATO司令官が映る。


「ラギィ警部、テリィたん。やっと捕まったわ。それで特命って何なの?」

「パツア司令官。ソレは言えないんです」

「何ですって?」


ラギィの答えに瞬間湯沸かし器が沸騰。


「パツア。必要な人にしか話せナイんだ。大統領府も了解してる」

「テリィたん。ヲタッキーズはPMC。私は貴方の雇い主なのょ?」

「ごめん、パツア。大統領府を通してくれ」


目を見開くパツア・ゲイツSATO司令官。


「ソレはどうかしらね!」


唐突に画面は消える。


「あらあら。"鉄の女"がカンカンに怒って真っ赤な鉄になっちゃった?」

「最高に良い気分だ」

「ラギィ、テリィたん。マジどーなってんの?」


クスクス笑ってたらエアリに突っ込まれる。


「悪いけど言えないの」

「え。私達にも言えないの?」

「マジ?」


ヲタッキーズが一斉に僕を見る。


「僕を見るな。トップシークレットでマジ口外出来ない。もし教えたら君達を殺さなきゃいけない」

「ミユリ姉様にも言えないの?」

「ラギィとテリィたんの2人だけの秘密なのね?姉様にも言えない秘密」


無茶苦茶人聞き悪いw


「おいおい、風評被害を出すな」

「だって、こんなの最低ょクソだわ」

「クソね」


ラギィがブレイク。


「わかったから。で、トレシの件は?気候変動モデラーの彼女は仕事を抜けて何をしてたの?」

「何と彼女は業平橋ターンパイクを通って神田リバー水上空港付近に行ってた。搭乗便は現在、空港当局に照会中ょ」

「ラギィ。僕達は彼女の家に逝ってみよう」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


彼女の家は神田練塀町にある。


「無理に押し入ったり、玄関で争ったような形跡は無いわ。ゲージはトレシの顔見知りなのね。そして、彼女の背後に周り後頭部を撃った?」

「トレシはゲージを知ってたってコトか」

「気候変動の科学者と元CIA諜報員にどんな関係がアルのかしら。"玉手箱"とのつながりもワカラナイわ」


ラギィは溜め息をつく。僕はサイドテーブルの上に青い冊子を見つける。

 

「車の趣味が良いな。ホルヒKfz.15の修理マニュアルだ。変だな。昨日の郵便物の上に車の鍵が置いてある。死ぬ前に運転したんだ」

「でも、ガレージにホルヒKfz.15はなかったわ」

「家にないってコトはどこにあるんだ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部のマリレから入電。


「トレシのカード履歴を調べたら、彼女は駐車場に毎月1万円を払ってるわ」

「1万円?ヒルズ界隈じゃ電動キックボードも止められないぜ」

「当たり。池袋の乙女ロードょ」


勤務中に出かけた先は…池袋の駐車場?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


池袋。乙女ロード裏のとある駐車場。


「あったあった。見事なダークイエロー塗装のアフリカ軍団仕様のホルヒKfz.15だ」

「バルーンタイヤなのね。4輪駆動の独立懸架、最大出力85馬力、水冷8気筒。サイドカーとセットでドイツ版ラットパトロールが出来そう」

「お?ミリタリーヲタク感涙のデータ女子だな。ご専門は北アフリカ戦線?」


驚く僕。


「たしなむ程度ょ今度サバゲーしましょ?ラッツ…ソレより、トレシはなぜ仕事中にココへ来たのかしら?」

「モチロンこのホルヒKfz.15で玉手箱に関する秘密の会合へ逝くためさ」

「でも、このホコリじゃ最近走ってないわ…テリィたん、コレを見て。トランクを開けた痕がアル」


腰の拳銃に手を回すラギィ。


「このトランクに誰かが何かを隠したンだ。最近誰かが開け閉めした痕がアル」

「そのようね。開けるわょ…死体じゃなかったわ」

「おいおい。驚かすなょ」


ラギィが手袋をしてトランクを開けると中には黒いアタッシュケース。アッサリ開けようとするラギィ。


「おいおいおい。ちょっと待てよ。中身はわからないンだぞ」

「だから、開けるのよ」

「コレは玉手箱だ。開けると全員おばあちゃん…」


ラギィはニコリともしない。


「ソレは日本むかし話でしょ」

「比喩的な意味だよ。ゲージは大惨事を引き起こす気だ。もし、このカバンに仕掛けがしてあってケースを開けたら全てが起動する仕組みになっているとしたら…」

「乙女ロード裏のこんな駐車場が大惨事世界大戦を引き起こす発振源とはとても思えないわ」


あっさりアッシュケースを開けるラギィ。中には衛星電話システム?


「ミリタリー仕様の携帯と盗聴防止装置のセットね。恐らく衛星回線。トレシは、電話をかけるためにココに来たんだわ。最後にかけた番号が残ってるかもしれない」


システムを操作するラギィ。その時…


「手を挙げてコッチを向いて」


両手を挙げ振り返る僕達。やや?


「トマナ・ゲージ!」

「銃とスマホを出して」

「貴女こそ手を挙げたらどうなの?」


トマナは…丸腰だ。


右手はポケットに突っ込んだナイフみたいなモノに手をかけているが、拳銃自体は抜いていない。

が、次の瞬間ラギィの手から拳銃を奪い取ってラギィの鼻面に突きつけている。秒の速さ。手品?


「スマホを出して」

「悪いが買ったばかりの最新型なんだ」

「ソレは悪いわね」


僕のスマホを取り上げて、靴底で踏み潰すゲージ。たちまち中がバラけて、それをさらに踏みつける。


「悪いけど、ちょっと辛抱してもらうわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕とラギィは、ホルヒKfz.15のトランクの中だ。


「テリィたん?」


ペンライトを向けられる。


「テリィたん。何してるの」

「いや。君を守ろうと身を呈してるトコロだ」

「ありがとう。でも、ゲージならもう逃げたわ」


てっきりトランクごとマシンガンで蜂の巣にされるかと思って、ラギィに覆い被さっていたのだが…


「そうか。てっきり、まるで今までの人生が走馬灯のように流れたので…」

「ソレ、どーでも良いからラッチを見て」

「残念な知らせだが、このトランクは内側からは開けられないタイプだ」


ラギィは溜め息。


「何か良い知らせは?」

「今回は前みたいに手錠されてない。トランクって意外に快適だし」

「直ぐ酸素がなくなるわ。何とか脱出しなきゃ」


酸素?そんな密封性が高いのか?


「助けが来るかもしれない」

「長期駐車場の車のトランクの中ょ?私達の失踪に気づくのに時間がかかるのに誰が助けてくれるの?」

「こーゆー事態には希望を持つことが何より大事だ」


僕は…2台目のスマホを取り出す。ゲージには内緒にして隠し持ってた奴だ。


「ソフィを呼んだの?」

「だって、非常ボタンがぴったりの状況だろ?今、推さなくていつ推すンだよ?」

「どうして推すの?」


どーして?何?


「だって…感謝しろよ」

「しないわよ。テリィたんの元カノに助けられたくないわ。私だって同じ元カノなの。私の立場はどーなるの?勘弁してよ。とにかくどいて」

「なんだ?」


狭いトランクの中で無理やり体勢を変えるラギィ。


「邪魔よ」

「何してるの?前戯?」

「バカ…あったわ。ほらコレ。はい、もっと左。ええ、ソコょグっと入れて!」


前戯じゃナイのか?


「どいて」

「やったぞ…トランクが開いた!」

「空気が…最悪ね」


バール片手にトランクをこじ開けたら何とCIAのモトン副官が左右両手に黒頭巾を持って立っている。


「お待ちしてました。本部でソフィ捜査官がお待ちです。この黒頭巾をお被りください」


ウンザリした顔を見合わせる僕とラギィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


CIA本部。ヒールを響かせソフィが歩いて来る。


「ラギィ。貴女の音波銃ょ。駐車場にあったらしいわ…テリィたん。よくゲージのホルヒを見つけたわね。お手柄よ」


ウットリした目で僕を見る。


「いやあ。僕だけの手柄じゃナイんだ」

「そうよっ!見つけたのはエアリだもの!」

「…とにかく、ゲージが現れたってコトは、あのスマホが重要なものである証ね」


キャンキャン吠えるラギィを横目に話を進める。


「トレシが事件当日にスマホした相手は玉手箱の関係者かもしれないな」

「ゲージはスマホを回収しトレシを殺害?」

「恐らくYES。しかし、ゲージの行方もスマホの相手も不明か。くそっ」


舌打ちスル僕にソフィが微笑みかける。


「テリィたん。通話は追跡すれば調べられるわ」

「スマホはゲージが持ってるンだ。発信元の番号もわからナイんだぜ?追跡出来るのか?」

「あのね。ココはCIAょ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


本部のメインコンソールに男女2名のオペレーターが控えている。彼と彼女に話しかけるソフィ。


「トレシは会社を昨日15時に出たら、あの長期利用の駐車場までターンパイクを通ってかかる所要時間は?」

「41分です」

「昨日は昌平橋で事故渋滞がありましたから」


メインモニターに渋滞地図が次々とUPされる。


「車に乗るまでの時間を足して到着は15時45分頃ってトコロかしら。その後15分間の通話数は?」

「最寄りの通信基地局は、神田リバー水上空港の南にあり、そこで処理された通話件数は15分間で5429件です」

「秋葉原と乙女ロード間の通話に絞って」


モニターのカウンターが目まぐるしく動く。


「2147件に減りました」

「未登録スマホと公衆電話に絞って」

「712件」


公衆電話?ま、いいや。ソフィのペースだ。


「恐らく1分も話さない。通話時間1分以内に絞って」

「42件です」

「三角測量で発信元が駐車場に1番近いのを出して」


ソンなコトが出来るのか?


「出ました。昨日15時56分に昭和橋架道橋下の公衆電話から発信しています」

「スゲぇ。確かに古い公衆電話がアルな」

「その公衆電話の画像を出して。昨日の15時56分だけど」


ココで初めて数mmマウスを動かすオペレーター。


「特別区の防犯カメラを見つけました。接続します。15時56分の映像です。ダウンロード」

「マフラーにベレー帽の女子?」

「ズームして」


周囲をキョロキョロしながら受話器を掴む女子。


「盗聴防止装置を所持」

「音声、入ります」

「止めて…この顔、見覚えがあるわ」


静止画像を指差すソフィ。


「マジ?信じられない。死んだハズなのに…」

「誰なんだ?」

「ネルソ・ブレラ博士。天才的頭脳の数学者です。CIAの元顧問でした。2022年に死亡した…今まで、そう思われていました」


絶句するソフィに代わりモトン副官が答える。


「死の偽装か。ますます面白いな」

「テリィたん。博士の能力を知れば、そんなコトも言ってられないわ。彼女は、CIAの依頼を受け地政学的変化を引き起こすメカニズムを解明、予測モデルを作ったの」

「地政学的な変化の予想モデル?何それ?美味しいの?」


ニコリともせずに解説するモトン。


「彼女に課題を出します。例えば、A国の核武装化を食い止めようとしたり、B国の政権交代を実現スルには何をすべきかとか。すると、博士はリンチピン理論を使って答えを導き出し、実現するための方法を示してくれる。つまり、博士は大事件を引き起こすための妄想を見つけ出すコトが出来るのです」

「例えば、太平洋戦争で日本を焦土とし無条件降伏に追い込むためには、北京の北西にある橋(盧溝橋)で事件を起こす妄想が必要だとか?」

「その通りょテリィたん。彼女は、正しい妄想を選べば、どんな大国でも滅ぼすコトが出来ると断言してた。YES。たった1つ、正しい妄想さえすれば、後はドミノ倒しで第2.5次世界大戦さえ引き起こし、世界を破滅させるコトが出来るのょ!」


うなずくモトン。ソフィは溜め息をつく。


「玉手箱は予想以上に深刻なの」

「ゲージと同じく、コレはきっとブレラ博士の独断ではありません」

「黒幕がいるわね」


ソフィとモトンの会話。オペレーターが割り込む。


「エージェントソフィ。博士の唇のクローズアップ映像が出ました。コレで唇が読めます」

「なんて言ってるの?」

「"木曜に会おう。3五飛、3二銀不成、同角"」


画像と連動した自動音声が流れる。


「将棋?」

「博士は世界的な将棋プレイヤーでした。きっと何かの暗号でしょう…あらゆる暗号化パターンを試し解読して」

「ROG」


一斉に取り掛かるオペレーター。


「テリィたん。ココからは遠慮してもらえる?」

「部外秘って奴か」

「協力してくれてありがとう」


立ち上がるとソフィが女房気取りで襟を正してくれる。イライラとガンを飛ばすラギィ。


「出口まで案内するわ」

「待って。ゲージの件はどうなるの?」

「CIAは、ブレラ博士に専念するわ。何としても彼女を止めないと」


釘を刺すラギィ。


「ゲージの情報は必ず連絡して」

「もちろんょ仲間だモノ」

「頼むわょ」


クルリと踵を返しながら小声でつぶやく。


「全く信用出来ないわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


エレベーター表示は"レベルB12"。


「ラギィ。僕達でチェスの暗号を解こう」

「ソレはCIAに任せましょ」

「連中だけじゃマジ不安だ。任せられないょ」


振り向くとCIAのお目付け役と目が合う。


「なんちゃって!暗号を解けば、僕達がこの国を破滅から救えルンだ」

「ブレラ博士を追いたいなら好きにすれば良いけど、私は万世橋警察署の警部なの。ソフィのコトを気にしてたらゲージに集中出来ない」

「どういう意味だ?」


眉間にシワを寄せるラギィ。


「ゲージは2人も殺してるのに、ソフィアの関心は別のトコロにアルし」

「国の安全保障だ。僕達は仲間だぞ?」

「いいえ。テリィたんは彼女のチームょ。テリィたんがソフィを見る目を見ればわかるわ」


エレベーター内で痴話喧嘩が勃発。振り向くとCIAが黒い頭巾を持って立っている。また被るのか?


「セキュリティのためです。ご協力ください」


観念して黒い頭巾を被る。


第4章 神田リバー心中


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したら常連が沈殿するようになって経営を圧迫中だ。


もちろんメイド長(ミユリさん)はヲカンムリw


「テリィ様。思い切ってUFOカフェに改装したらどうかなと思うのですが。何なら私、宇宙人のコスプレしますけど…ところで、スピアのインターンの件、賛成してくださって良かったです」

「仕方なくだ。半分はミユリさんのせいだぜ?」

「ラギィとモメたからって私に当たらないで」


え?


「ソンなコトないよ…って、どうして知ってルンだ?…あ。待て、わかったぞ。ルイナからスピア経由でミユリさんのルートだな?ホラ、やっぱりだ。こういうのが嫌なんだ。因みにモメてない。今日はミユリさんのメイド姿を見ていたいだけだ」

「光栄です。で、今は遺体が消えた上に官邸からは特命が下されちゃったのですね?」

「全く筒抜けだな。大和撫子としての慎みとかはナイのかな」


ゆっくり微笑むミユリさん。萌え。


「ありません」

「僕のプライバシーは?」

「皆無カモ」


やれやれ。推しには勝てないな。


「ミユリさん。とにかく、国家機密だから話すのは禁止なんだ。少なくとも僕の口からは」

「ROG。でも、モニターさせていただいてます。コレでもヲタッキーズのリーダーなので。しかし…テリィ様が秘密厳守だなんて。今までだって秘密を守ったコトがナイのにクスクス」

「OK。コレは僕の問題だ。縄張りは死守スル」


ミユリさんはカウンターの中でフランス人みたいに肩をスボめ掌を上に。もうタマらない。超萌えだ。


「とにかく、コレだけは話せる。この3つの将棋の駒が暗号ナンだ。この暗号が解ければ国家の、多分世界の大惨事を防げる」

「桂馬2つに歩?どういう意味でしょう?」

「わからない。定番の戦術や有名な試合の手を調べてみたけど、こんなシチュエーションは該当しないんだ」


ミユリさんは少し考える。このポーズが超(以下略)


「テリィ様。将棋とは無関係では?うーん。そうだわ。あり得るし」


僕は口をポカンと開ける。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。ホワイトボードの前でデスクに腰掛けゲージの写真を見ているラギィ。


ヲタッキーズのマリレが飛び込んで来る。


「ゲージについての進展はナイけど、トレシとブレラの接点を調べてたら10年前の記録があった。トレシら院生が、当時の指導教授だったブレラと大江戸ディズニーシー(ODS)で川下りをした時に、ニセモノのワニに噛まれた博士はショックで心臓発作を起こして死んだの」


モニターに"ODS accident report"の画像。


「やっぱりトレシが博士の死の偽装に協力をしたってコト?」

「え。ブレラ博士は死んでないの?」

「あ。ごめんなさい、言えないの。コレ以上は」


目をひん剥くマリレ。


「メイドにだって我慢の限界がアルのょ!」


プイと出て逝くマリレ。入れ替わりに僕。


「テリィたん、どうしたの?」

「ブレラの件で発見があった。聞いてくれ」

「ソレならソフィに言えばどう?」


おいおいおい。女って面倒くさいな。


「僕のパートナーは、彼女じゃなくて君だ」


ラギィの顔がパッと輝く。女って(以下略)


「桂馬、桂馬、歩。ブレラ博士は世界的な将棋プレイヤーだ。トレシも将棋を指すが、この駒には戦術的な意味はない」

「では、どんな意味があるの?」

「きっと、ブレラ博士はトレシに暗号で待ち合わせ場所を示したんだと思う。ソレは、もしかしたら都内で大人が将棋を差しても奇妙に思われない場所だ」


たちまちピンと来るラギィ。


「大の大人が公衆の面前で将棋を指す場所と言えば、新橋駅前の汽車広場てやってる大盤将棋が有名ょね?」

「YES。ソレに新橋駅前ならクタびれた男女が人目を引かずに会うコトが出来る。で、ラギィ。3つの駒の位置、3五飛、3二銀不成、同角は何を表してると思う?」

「3五飛、3二銀不成で残り7マスだから…7時間後?同角は電話を受けた時刻だから…待ち合わせまであと30分?」


頭の回転が早い。大好きだょラギィ。


「もし、ブレラ博士が現れたら玉手箱が何を意味するのか聞けるぞ」

「殺人犯ゲージの居場所についてもワカルわ」

「逝くか?ラギィの古巣に」


微笑むラギィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕とラギィは彼女が"新橋鮫"と呼ばれてた頃からのつきあい。SL広場は刑事時代の彼女の仕事場だ。


「鮫の姐さんじゃナイか!久しぶりだな。ヲタクどもの相手はどうだ?」

「今はインバウンドばかりょヲタクは絶滅危惧種」

「おや?コイツ、鮫姐さんの(イロ)か?」


余計なお世話だw


新橋駅前のSL広場は都内有数の大盤将棋のメッカだが、ラギィを見た常連がワラワラと集まって来る。


「ちょっと将棋を指しに来ただけ。みんな、向こうに行って。私に声かけたら全員逮捕ょ…もう来てるハズなのに」

「トレシがゲージに殺されたと知って、逃げたのカモな。でも、どうせなら希望を持ってた方が良い。博士はきっと来るさ」

「ソフィに連絡してないの?」


ミユリさんなら絶対ソンなコト聞かないだろうな。


「してないさ。だって、間違ってたら恥ずかしいじゃん?」

「なぜ今まで彼女のコト隠していたの?」

「逝えなかったんだよ。彼女はCIAだぜ?」


そっか。納得するラギィ。チョロいな。


「この際だから、彼女に関して質問があれば何でも答えるよ。さぁ聞いてくれ」

「いいえ、結構ょ。だって私には、ぜーんぜん関係がないモノ」

「そっか。なら、この話はもうヤメよう」


プイと横を向くラギィ。僕は、心の中でラテン語の格変化を第1からゆっくりと暗唱して逝く…


「ソレで!ソフィとはどれくらい親しかったの?」

「来たぞ」

「何ょソレ?何でも答えるって言ったじゃない!」


僕は両手で制する。


「大声出すな。博士が来たんだ」


100均で売ってそうな安い将棋盤を小脇に抱えた髪ボサボサの女だ。シーズン落ちのUNIQLOW着用。


「ネルソ・ブレラ博士ですね?」

「違うわ。誰かと間違えてるんじゃないの?」

「いいえ。間違えてはいないわ」


バッチを示すラギィ。目を瞑るブレラ博士。


「どうしてわかったの?」

「トレシょ。死んだわ、彼女」

「次は、私が殺される番だわ。ココを離れましょう。早く!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ラギィが運転スル覆面パトカー(FPC)。僕は助手席。バックシートにネルソ・ブレラ元CIA顧問。


「いつかこの日が来ると覚悟はしていたが、まさかトレシまで殺すとは…」

「ブレラ博士、説明して。玉手箱って何なの?」

「警部さん。神田リバーの32号埠頭へ行って」


ウンザリするラギィ。


「博士、タクシーじゃナイの。自分の立場はわかってる?要求しないで」

「私は、自主的にFPCに乗ったんだ。降りて欲しくなければ、そこに連れて行って」

「32号埠頭には何があるんだ?」


助手席から振り返って見れば…博士は熟年AVに出て来そうな美人だ。髪も服装もボロボロにしてるが。


「その質問には、埠頭についから答えるわ…貴方、国民的SF作家のテリィたん?」

「良く間違えられるけど、ソレこそ人違いだ。ソレより、第一線で活躍してた貴女がなぜ死の偽装をしたんだ?輝かしい功績を残しCIAの顧問までしていたのに」

「CIAに命じられるママ、妄想ドミノ理論で神をも恐れぬ所業を重ねて来た。世界の様々な国々を破滅させ、何千何万もの死者を出して来たが、辞めるコトは許されなかった。だから、死ぬコトにしたの。そして、私は生まれ変わった…ねぇ貴方、テリィたんょね?"科学女忍者隊ガッチャウーマン"の最終回ナンだけど…」


アレはスポンサーの都合だ。僕は悪くないw


「トレシは知っていたのか?」

「YES。彼女だけが頼みの綱だった。彼女とは、正しい妄想ドミノ理論の使い道、例えば、アフリカから飢餓を削減するプロジェクトや、小さな暴動からアラブ世界に"春"を起こす予測とか、人のためになるコトをしてきたわ…誰がトレシを殺したの?」

「玉手箱を実行しようとしている人物よ」


ラギィの言葉に目を剥く博士。


「奴等は玉手箱を開けようとしているの?思った以上に事態は深刻ね…あ、ココで停めて」


32号埠頭だ。ラギィはFPCを停める。


「さぁ説明して」

「倉庫に入ってからょ」

「先ず玉手箱が何かを話して。それまでは、何処にも行かせないわ」


ブレラ博士は、長い長い長い溜め息をつく。


「玉手箱は、私が描いた報告書のコトょ」

「誰宛に?」

「あるシンクタンクのリクエストで、秋葉原経済の脆弱性を調べたの。あくまで、インバウンド対応の観光強化が目的だった。すると、重要な妄想ドミノ、つまり世界経済を破滅させる妄想が見つかった。秋葉原経済の崩壊は、この国の経済、そして世界経済に直結してた。その妄想は、果てしないドミノ倒しの末に第2.5次世界大戦を引き起こす。結果として、東京は核の焔で焼かれ、再び焼け野原になる。ところが…私に調査をリクエストしたシンクタンクは存在していなかった。つまり、世界経済崩壊の青写真を、私は謎の地下組織の手に渡してしまったの!」


圧倒される僕とラギィ。


「ブレラ博士、具体的にその妄想とは?」

「鳩の群れだわ。鳩が飛んでいる」

「ねぇ博士!妄想って何のコトですか?」


ところが、博士の視線は空を彷徨い焦点を失う。


「鳩が群れて飛ぶのは、捕食者から逃れようとしてる時だけなのに…奴等が来たの?私を殺しに」


ブレラ博士は、突然ドアを開けて外に飛び出す。


「待って!」


銃声。両手で天を仰ぎ1発で撃ち倒される博士。


「ブレラ博士!」


突然黒いSUVが飛び出し僕達のFPCに追突、パワー任せに河岸から川面に落とそうとスル。思い切りブレーキを踏むラギィ。ハンドブレーキも全引きだ。


「テリィたん、掴まって!しっかり!」


FPCは、ヘッドライトをつけたママ川面に落ちるw



おしまい(後編に続く)

今回は、海外ドラマによく登場する"裏切者"をテーマに、日本に古来からある"風が吹けば桶屋が儲かる"を"妄想ドミノ理論"と名付けて、組織に潜入した裏切者の追跡劇を描いてみました。裏切りに次ぐ裏切りで犯人が次々と変わるミステリー仕立て。能天気なレトロフューチャーSFに憧れる身としては、ハッキリ言って苦手な分野です。とりあえずPART2に繋げられ安堵、良い日曜日の暮れになりました。


去年1年は"売れっ子作家気分を味わおう"と毎週1作UPを自らに課していましたが、振り返るに乱作気味であったので、今年は1作ごとにもう少し時間をかけて、丁寧に描いてみようと思っています(単に会社が忙しくなっただけかも笑)。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかり海外"家族"旅行のメッカとなり、夜遅くまでインバウンドでにぎわう秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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