92話(終) あたし/私/わたしの銀藤明乃/人生のすべてと僕のヤンデレハーレム
「むへへ……」
「……ほんと、寝てるときはかわいいんだから」
明け方。
少し早い朝日がまぶたに当たったのか、あたしは目を覚ました。
隣で寝ている、アキノちゃん/明乃ちゃん/銀藤ちゃん。
お義母さま譲りの顔つき――いや、「アキノちゃん」は生まれつきの美形にあぐらをかかず、ずっと努力をしてきたんだ。
それは、「家族になった」みんなが知っているところ。
布団に隠れているけど毎晩見て触って舐めて擦って揉んで嗅いでいる彼女の体は、あたしたちの誰よりも均整の取れたプロポーション。
どこにも余分な肉はなくって、腹筋も割れていて、二の腕もふともももしまっていて弾力があって。
けれどもその筋肉は毎日時間を掛けての柔軟のおかげで柔らかくて、だからあたしたちでもほぐしてあげられるんだ。
「……アキノちゃん」
本当は、あたしが1人で独占したかった。
お義母さんたちにも、あたしが妻だって思われたかった。
けど――あんなことがあったら、もうしょうがないよね。
……それに。
「……んっ……」
昨日の夜を思い出して、体だけが目を覚ます。
――明乃ちゃんの相手は……夜の相手は、あたし1人じゃ満足させるどころか返り討ち。
その上、1人にさせたら抜け出して――別の子をひっかけてワンナイトとかキープとか都合の良い女にしちゃう。
そしてきっと、あたしたちみたいなのを毎月とか毎週とかで増やして行っちゃう。
だから、それは無理。
だから、2人も誘った。
健康的に締まった美しさな銀藤ちゃん――毎朝走り込みしてる揉んだから、顔以外は適度に焼けてる肌もまた綺麗なの――とは対称的に、お胸もおしりも豊満なくせに二の腕とかウェストはきゅっとしまっている、白鳥優花ちゃん。
特に運動もしていないはずなのに、多少はしているあたしよりも締まっている場所が憎らしい。
揉むとマシュマロみたいで、あたしたちの胸の中でいちばん明乃ちゃんに気に入られてるその豊満な胸が憎い。
背も低ければ体重もびっくりするくらい軽くって、脱ぐと小学生とまちがうくらいの童顔な黒木美緒ちゃん。
肉付きとかそれ以前の体と、幼い顔つき――普段は長すぎる前髪と厚すぎるメガネで隠れているけど、アキノちゃんを責めているときだけは年齢相応になっている彼女。
体力のなさとコミュ力のなさととにかく怖がりで未だにあたしは怖がられてて、だけどあたしたちが好きな小説とか映画とかを的確に教えてくれる、すごい子。
こんな2人と比べたら、あたしには「ギャル」っていう属性しか存在しないも同然。
だけど……良いよね。
こんなあたしでも、「かわいい」って言ってくれるんだもん。
――もう、ゼッタイに離さないからね?
ヤクソク、してくれたもんね?
もし次にウワキしたら――あ、いけないいけない、また世界が真っ暗になっちゃう。
◇
「むぇぇ……」
「くすっ……学校にいるときの夢なのかしら」
朝日の差し込むカーテンから身をよじった先に彼女の顔があって、私は目を覚ました。
銀藤さん。
明乃さん。
お姉さん。
私の、生きる意味。
生きる目的そのもの。
だって、あなたが居たから私はやりたいことが見つかったんだもの。
あなたと、添い遂げる。
浮気は――紅林さんとか黒木さんがすっごく怒るから私はちょっとだけで、どっちかっていうと2人をなだめて銀藤さんを慰めるので満足しちゃう。
私って、ちょろいよね。
惚れた弱みだから、しょうがないよね。
聞けば、中学までは運動部とか掛け持ちしてたし、自主的にジムとかにも通っていたらしい明乃さんは、実はすっごい力持ちで足も速くって――学校での謎の演技さえやめれば、きっとたちまちに学校中の人気者になれる。
だって、追われていたときも息も絶え絶えだった私たちに比べて軽い息と汗程度で済んでたもの。
あと、重いバッグとか……私たちの誰かを抱っこしてても平気で走れるんだもの。
毎朝のランニングだって、やっぱりすごい。
それも、たぶん何年も続けてるからこそなんだって思う。
この人はなにもしてない顔して――涼しい顔して努力する人なんだって、初めて知ったの。
毎晩私たちで徹底的においたをする悪ーい体と心を徹底的に責めあげて――ま、まぁ、後半からは毎回逆転されて、結局私たちも気絶するように寝ちゃうんだけど――それでようやく相打ちにできてるんだけど――こほん。
それでもきっともうすぐ、目覚まし時計が鳴る前にぱちりと起きて、私たちを起こさないようにジャージに着替えようとするの。
まぁもちろん、3人とも起きるんだけどね。
だってお姉さんだもの、毎晩好きなだけさせてあげてても平気で朝早くに運動するついでで呼び出した女の子と――ってのは想像できすぎるもの。
……私よりも先に彼女を好きだった紅林さん、……正直彼女が居なければ生きるのに苦労しそうだし、ちょっと怖い一面を抑えられるのは彼女しか居ない黒木さんなら、しょうがない。
本当は、好きな人を独り占めしたい。
けど……明乃さんは、私1人で満足できる人じゃないもの。
性格的にも、才能的にも――性癖的にも。
生まれつき、すごい人なの。
だから、私たち3人はしぶしぶお互いを許して、仲間にした。
けど――他の人は、絶対ダメ。
……銀藤さんなら、たとえ20人30人抱えてても私たちを満足させちゃいそうだから怖いんだけど、だからこそ、ダメ。
絶対……ぜーったい、また無茶しちゃうもの。
悪いけど、私たちは3人居ても彼女は1人だけ――彼女を失ったら、私たちに生きる希望はなくなって、たぶん、復讐だけして後追いする。
……はぁ、どうしてこんな人を好きになっちゃったんだろ。
そうは思うけど、でも、こんなにも好きになっちゃったら――救われちゃったら、もう、しょうがないものね。
だから、私たちを満足させ続けてね?
そうじゃなかったら――あなたがいちばん嫌がる、病院でのあのときみたいにぜーんぶを私たちで管理してお世話しちゃうから。
……あ、そういえば。
「むぇぇっていうの、やめないの?」って聞いたら「なんか楽しいんだ」だって。
あれ、おかしくて笑っちゃったな。
私、あれが好きだけどね。
◇
「うぅ……嗅がないでぇ……」
「ああ……嫌がってる銀藤さん……じゅる……」
もうすぐ目覚まし時計が鳴る。
そんな刹那に、わたしは目を覚ました。
銀藤さん。
明乃ちゃん。
わたしのすべて。
演技ではあるけども同時に彼女の内面のひとつな、学校でのわたしそっくりな――安心できる姿。
放課後以降の、たくさんの女の子から好かれていて――最低でも78人からは本気のラブコールもらってて――――うち25人はあと1歩ってところまで近づいてきてたほどの、魅力的な女の子。
何でもできて、小学生から働いてる人までの憧れな明乃ちゃんだけど、学校での安心できる姿が完全な演技じゃないっていうのは――わたしだけが、完全に理解できている。
だって、根っこのところはおんなじなんだもの。
本気で人との会話を怖がったりする部分は、きっと同じ。
だけど――まるで「心が2つあるかのように」服装とメイクと髪の毛――エクステ、だっけ――で入り替わり、そこからは魅力的なのと他の子になびくせいで目が離せない彼女になる。
……銀藤さんって、本当に不思議な人。
「あっ……んっ……」
少しだけお布団をめくって――昨日の夜のままに服を着ていない、美術の教科書に出てくるような彫刻みたいな体を眺める。
ちょうど良い大きさのお胸はつんと張りがあって、あばら骨をさすられるのが弱くって、力を入れていないのに朝日で割れているのがくっきり見える腹筋。
――傷ひとつないはずの彼女の体で、唯一そこだけにいくつかある、治りかけの切り傷。
わたしたちのせいで、刻まれてしまった罪。
奇跡的に助かったし、その下の臓器も無事だったけど、それでも見ているだけで罪悪感がこみ上げてくるお腹。
だからわたしは、そこを舐め続けるの。
――舐め続けたらいつかはその下の血潮や中身を、味わえる気がして。
うん、わたしは、おかしくなっている。
それはあのとき、何度も何度も刺されてお腹から血がどばどば出ていて止まらないように見えた――あとで血糊だって聞いてびっくりしちゃったけども――とき。
そして、包帯を変えて――まだ血がにじんでいてもっと見るに堪えなかった、手術後数日。
彼女の傷ついた肉とにじむ血を見ていたら――わたしは、理解しちゃったの。
わたしは、銀藤さんの「中身」も、好きなんだって。
だから、明乃ちゃんが2人に怒られてるとき、便乗して約束したの。
「もし浮気をしたら――最初は、お互いに肌を切って血を流して飲み合うので許してあげる」って。
その先も約束してあるから……ほんとは、早く浮気してもらいたい。
直接楽しみたい。
けど、我慢するの。
だって本当は、もう傷ついてほしくないから。
わたしたちだけで満足してほしくって、満足してほしくない。
私たちから離れないでほしくって、離れないでほしい。
――大きなケガなんて二度としてほしくなくって、何度でもしてほしい。
ああ。
わたしは、きっと、壊れちゃったんだ。
だから、あなたに尽くすよ。
わたしたちのどっちかが死んじゃうまで――あるいは、我慢できなくなったわたしが刺しちゃって――たぶん明乃ちゃんは、諦めた顔をして笑顔で受け入れると思うから――そのままわたしも刺して、2人仲良く血を流しきって死ぬかするまで。
それも、いいかも。
でも、今はもうちょっと。
もうちょっとだけ――こうして、静かにしていたいかな。
◇
ぴぴぴぴぴぴぴぴ。
「……みんなは寝てて良いのに」
「んーっ。 いやー、朝運動するのも習慣になると気持ちいいしー?」
のびーっとしている紅林さんの、白鳥さんに比べたら控えめだけどしっかり柔らかいお胸が美しい。
その下のふかふかしたふとももも最高。
うむ。
「ええ。 私たちも体力、ちょっとだけどついてきたもの。 いずれは銀藤さんに追いつくわ!」
ふあ、と大きなあくびを――してから僕を見て恥ずかしそうにしているでっかい白鳥さん。
うむ。
「いつものルート……不審者情報はないし、監視カメラのどこにも変な人は居ない、ね……」
「黒――美緒ちゃん?? 犯罪はダメだよ??」
起きて早々にノートパソコンをかたかたやってる……屈んでも寄せて上げることにならない平坦な黒木さん。
うんうん、ロリ枠は大切だよね。
小さいってのにも興奮するし。
うむ。
――美少女3人に囲まれて、そろって裸に毛布と布団を被って目覚める朝。
お互いに、ちょっとだけ恥ずかしそうな顔をしつつも、それが嬉しくって。
このあと、完全に目が醒めたらみんなでジャージを着て1時間の運動をしに行って。
朝ごはんのときにまた父さんと母さんにいろいろ言われて気まずくなって。
お兄さんの頼りない運転で送り迎えしてもらって。
学校では落ちつけるひとときを、いつものジャンガリアンハムスタースタイルで実現して。
夕方は店長さんのとこで――最近は何故かおじさんも良く来るよね――配信したり、3人をお化粧させてみたり、服を着せ替えてみたり。
そうして夜は、流れるままに僕の家か3人の家のどれかに行って、みんなでお風呂に入って、みんなでごはんを食べて夜の時間を過ごして。
……そんな日々が、しばらくは続くんだろう。
この子たちが飽きるまでは。
僕が飽きるまで――――――。
「………………………………」
……いや。
それは、ないかな。
たぶんね。
ま、こういう人生も――きっと、ありだよね?
え?
違う?
ちょっとやり過ぎ?
……うん、それは否定できないけども、でも。
人はきっと、何回生まれ変わっても本質のところは変われないんだ。
だからこそその人生で、全力で楽しむ。
それがきっと、前世の僕から受け継いだ魂なんだ。
だから、生きよう。
少なくとも、今は――3人と一緒に居るっていう、TS転生をして静かな高校生活を送りたかったけどもなぜか失敗しちゃって、愛も重ければ闇も重いけどかわいい彼女たちと一緒の、この日常を。
◆◆◆
明乃ちゃんのお話は、これでおしまいです。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
明乃ちゃんはこのあとも好き勝手するでしょうが、きっとヒロインの3人と心の中で生きる3人(?)のおかげでちょっとはマシになるでしょう。たぶん。
明乃ちゃんは完結しましたが、他の連載作品はまだまだ続きます。
次回作もそのうち出てきます。
よろしければ作者あずももものフォローをしていただき、お好きなものを追っていただければと思います。
最後に、最下部↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけたら……明乃ちゃんの悪癖が多少はマシになるかもしれません




