91話 敵だらけの僕と地獄と天国
「そっか。 そうだよね。 ごめんねアキノちゃん、あたし、満足させられてなくって」
「私も、最近はジョギングとかがんばってるけどまだまだね。 ごめんね? 不満だったんだよね」
「許してごめんなさいわたしがぜんぜん役に立ててなくてお願い見捨てないでなんでもするから」
あー。
おじさんが僕のファンの子たちからのプレゼント持って来ちゃったもんだから、まーた3人が真っ黒になってる。
こうなると大変なんだよなぁ……。
「いやぁ、黙っててあげようと思ったんだけどねぇ……週に何人も、明らかに普通の女の子たちが事務所に来ちゃってさぁ、明乃ちゃんはどこかって聞いて来ちゃうから困ってるんだよねぇ……」
「あっあっ」
「ほら、おじさんの仕事柄、いかがわしい犯罪の拠点って思われると、困っちゃうからさぁ……ごめんねぇ」
――がしっ。
僕の両腕と胴体が――柔らかい体で拘束される。
「……奥の部屋、空いてるわ。 好きに使って頂戴。 清掃は外注しているから気にしなくて良いわ」
「ありがとうございます、店長さん」
「じゃ、行こっか?」
「浮気、ダメ、絶対……搾り取る……」
「あー」
ずりずりずりずり。
僕は悲しい目をしながらドナドナされていく。
「あのあとからはナンパしてないんだって……ほんとうだってぇ……」
「……はぁ……あの子は本当に……」
「まあまあ、明乃ちゃんだからねぇ」
「こ、ここからは夜の百合展開……!」
ああ。
嬉しいはずなのに、それでも悲しい身の上な僕。
……男は狩人なんだ、数多くの獲物を追って回りたいんだ……なのにどうして獲物に捕獲されて日々捕食されてるんだ……こんなの絶対おかしいよ。
◇
「明乃。 弟と妹、どっちがほしい?」
「え? そりゃ妹でしょ」
「………………………………」
「………………………………」
朝帰りしての朝食。
家族の団欒で、とんでもない事実を告げられた。
……いや、まあね?
僕も悪かったよ?
3人が基本毎日泊まりにくるもんだから、つまりはそういう声が聞こえちゃうってことで……ま、まぁ、夫婦仲が良くなったなら、それはそれで子供としてはいいこと……なのかな?
「……明乃……」
「仮に妹だとして、いや、弟だとしてもだ。 手を出したら、さすがの明乃でも本気で怒るからな?」
「や、そんなことしないって。 信じてよ、母さん、父さん」
「信じられると思う?」
「昨日の夜も3人の親御さんに謝って回ったんだが?」
「ごめんなさい」
ぐぅとも言えない事実を真顔で叩きつけられた僕は凹んだ。
……や、ほんとだって……手なんて出さないって……。
「アキノちゃん……?」
「お姉さん……」
「そのころから……そう、なんだ……」
「お、黒くなってない……じゃなくて、ほんとほんと」
3人から、じとっとした目を浴びせられる。
だから怖いって。
「でも明乃? 幼稚園のころ、何人かの女の子に――手、出してたでしょ?」
「うぇっ!?」
母さんが真顔のまま、特大の爆弾をゼロ距離で投げつける。
ああ!
3人の目が! 目が!!
「見てくれていた保母さんからね……『教育に悪いコンテンツを見させていませんか』と聞かれたことがあったらしいんだ、母さん……」
「おっふ」
ここで幼稚園のころ――前世の記憶をおぼろげに思い出しただけの、けども覚醒してなかったからただの園児だった僕は……うん。
ちょっとね?
かわいい子たちにね?
ませてる子たちとね?
園児らしくほほえましいいちゃいちゃをね?
「……園児のスモッグコス、買おうかしら」
「やめて」
「赤ちゃんプレイ……病院でも……興奮してた……」
「やめて、両親の前でそういう話はほんとやめて」
「誰のせいだと思うの?」
「3人に同時に手を出して、しかも3股を続ける宣言をしたらしい明乃?」
「ごめんなさい」
僕は居心地が悪い。
対面に座る両親と真横に座る3人からの視線のせいで。
「……本当にごめんなさいね? 奈々さん、優花さん、美緒さん」
「うちの子、いつでも見限ってくれて良いからね」
「いえ、大丈夫です!」
「紅林さ」
「奈々」
「アッハイななちゃん」
元気溌剌な強気美人の紅林さ――奈々ちゃんが言う。
「も、一生別れないって誓ったので。 別れ話したら――どうするかも言ったんで!」
「ひゅっ」
あのときの恐怖が蘇る。
「だから安心はしているんです」
「白鳥さ……優花」
「ええ♪」
少し垂れ目の癒やし系美人な白鳥さんもとい優花ちゃんが、言う。
「私たちを裏切ったら、私たち3人による72時間コースでお詫びって約束してくれたので♪ ――ウソは、つかないわよね?」
「ひゅっ」
泣いても叫んでも許されなくって責め続けられて――あ、あれ、女の子にするのは大好きなんだけど、されると死ぬほど辛いんだよね、嬉しいのに。
「わ、わたし、銀藤さんと血液型同じだし……だから、ね? 『交換』するのも、良いんだよね?」
「ひゅっ」
黒木さ――美緒ちゃんがいちばんやばい。
2代目のメガネさんと前髪の奥から光るどす黒いおめめが、本気で「僕たちの体の一部を交換する」って言っている……!
「……はぁ。 あなたたちには申し訳ないけど、でもようやく明乃が落ちついてくれると思うと、ほっとするわぁ……」
「ああ……中学までは本当に酷かったからね……」
「やめて、ちょ、ほんとストップストップ、昨夜も大変だったのにまた3人がまっくろけになっちゃうのお願い父さん母さん」
――24時間、3人のうちの誰かが一緒。
や、大半の時間は3人とも一緒で、僕から目を離してくれない。
家に帰れば帰ったで、母さんと父さんは完全に3人の味方で、むしろ事あるごとに僕の黒歴史を掘り返してきて僕を地獄に叩き落としてくる。
店長さんとことかおじさんとこ行ったら行ったで、3人に謎のアイテムとか知識とかを伝授するもんだから、そのあとがやっぱり地獄。
……おっかしいなぁ、僕、助かったはずなのに。
「……ふぅ」
ま、いいや。
たとえ、TS転生後の静かな高校生活がこんなにも愛が重い子たちに囲まれておしまいになったとしても――そこそこ以上に幸せだし。
うん。
前世覚えてるチートの代償としては安いどころかお得だし。
ね?
『しかし、我らは何故消滅せぬのか』
『決まってるッス。 まだまだ死の危険があるから成仏できてないんスよ』
『もう一度でも二度でも三度でも良いから程々に刺されろ、この女狂いが』
せっかく良い感じに締めようとしたのにさぁ……僕の良心の声たち……ひどくないかな?
◆◆◆
最終話な雰囲気ですが、最終話は明日となります。
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