87話 辱められた
「いいんだね? 本当にいいんだよね? あたしたちが明乃ちゃんのお世話するって」
「はいはい、いいからいいから。 それよりも」
紅林さんが、きらっきらな笑顔でかわいい。
「よかったわ! 御母様と御父様からは許可取ってあるんだけど、肝心の明乃さんが寝ちゃっていたから!」
「うんうん、よかったね。 それで、僕はいつ退院」
白鳥さんもまた、すっごい笑顔でかわいい。
「よ、よかった……拘束しないで済んで……銀ど、明乃ちゃんって呼んで、いい……?」
「呼び方はどうでもいいから好きにしてね。 んで、とりあえずSNSでDMとか確認したいんだけど」
黒木さんも、目隠しメガネっ娘属性を吹き飛ばすような満面の笑み。
「嬉しいなぁ……」
「あ、御母様? はい、今、目が醒めまして! ……はい、良いって言ってくれて……」
「ふふ、ふふふふ……」
うーん。
なんか僕がしゃべろうとすると食い気味に被せてくるなぁ、この子たち。
なんでだろ。
「……あちゃー、深く聞かずに簡単にお世話されるだなんて……」
「明乃ちゃんはこういう子だからねぇ……言っちゃうよねぇ……」
「?」
頭を抱えている店長さんとおじさんが……とぼとぼと、出ていこうとしている。
?
この子たちのきゃぴきゃぴが苦手だったりする?
「あれ? もう帰っちゃうんですか?」
「……ええ……あなたの意識が戻るまで……せめて、説明だけでも……って思っていたから……」
「今ので無駄になっちゃったけどねぇ……明乃ちゃん、がんばってね……差し入れは、するからねぇ……」
「? そうですか……ありがとうございます?」
「……ああ、今さらだけど、この部屋、特別室だから……とりあえず臓器に損傷もないし、命の危険はないらしいから……それじゃ……」
「……広めの個室だし、プライベートはそこそこ保たれるから……がんばってねぇ……」
そう言いながら――なんだか哀愁ただよう大人たちが出ていったドアを、見るともなく見る。
……なんだったんだろ、あの人たち……ただ様子を見に来ただけだったのかな?
まぁいいや、すぐ帰ったんなら大したことないんだろうし。
「……じゃ、あたしたち、明乃ちゃんの介護するから」
「なんでも言ってね?」
「は、恥ずかしがらなくて……いいから……」
「そう? ありがと。 あ、そうだ」
3人とも、妙にうっきうきだ。
なにかいいことあったのかな……あれかな、「僕が起きたから、明日からは普通に学校行ける!」って喜んでるのかな?
そうだよね、たぶんちょっとばかし僕への罪悪感とか覚えて毎日来てたのかもしれないけども、それは大変だもんね。
それで、ずっと寝ていたらしい僕は――ふと、生理現象を覚えたんだ。
「じゃ、看護師さん呼んでもらって良いかな? 僕、ちょっとトイレに――」
……あれ?
そういや僕……「今、どっちの僕として認識されてるんだっけ」?
「――大丈夫よ、明乃さん」
「うん、この3日で慣れたから」
「お医者さんたちに……無理、言って、やらせてもらってたから……」
「? なに……を……」
ごそごそと白鳥さんが取り出すものが何かなって見てたら――それは。
「え゛。 ……いや、そのー……」
「大丈夫よ」
3人が立ち上がって――僕を、取り囲む。
「え?」
「ぜんぶのお世話、するからさ。 24時間交代で、片時も1人にしないでさ」
「え、いや」
「……おトイレのお世話も、やり方教わったから……」
「いやいや、恥ずかしいし……臭いし……」
「――明乃ちゃんから生み出されるものはなんだって好きだよ」
「――ええ。 明乃さんの全てを愛するって決めたから」
「――恥ずかしがる明乃ちゃん……ぜんぶ、見せて……」
え、待って待って、みんなして僕の服めくらないで?
「え、ちょい恥ずかしいからナースコール」
「あたしたちが、預かっているから――諦めよっか?」
「次の診察までは、時間、あるから……ね?」
紅林さんが、白鳥さんが――最高の笑みを浮かべている。
「あの」
「3日間寝たきりで、手術後で体力もなくって……あと、絶対安静。 もう……逃げられない、からね……?」
黒木さんが――眼鏡の奥から、真っ直ぐに見下ろしてくる。
「や、あのさ、こういうのってなんていうかさ、デリケートな問題だからさ? この歳になってお医者さんごっこは――あ、ちょ、待って、普通に脱がそうとしな――ナチュラルに脚を開かせ――」
◇
「ごめんなさい……明乃ちゃんを、守り切れなくて……どちらの意味でも……」
「いえ……あの子はいつか、こうなると思っていましたから」
病室の外。
「ひぇぇぇぇ」などと情けない声が漏れ聞こえてくる廊下で、銀藤明乃そっくりの顔をした女性と、彼女の「お守り」を任されていた「美女」が、ため息をつく。
「あの悪ーいおじさんの背後は、『こっち』でなんとかしましたから、明乃ちゃんが今後巻き込まれることは……あの子から突っ込んでこない限り、ないと思いますがねぇ……」
「うちの明乃ですからねぇ……」
「いい子なんですよねぇ、とっても……本当、男なら跡取りにしたいくらいのねぇ……」
ぽりぽりと頭を掻く壮年の男性も、ため息をひとつ。
「あれでも、中学までに比べたら相当マシなんですが……」
「あれで……なんですよね……」
「いやぁ、ぎりぎりで『防犯グッズ』を渡せたからあれで済んだわけではありますけどねぇ……」
「いやあぁぁぁぁぁ」という悲鳴が聞こえる。
「……でも、あの子たちには迷惑を掛けてしまいますけど、あれでよかったのかもしれません」
明乃がそのまま成長したような美女の母親は、憑き物の落ちたような顔つきで言う。
「あの子は、どうして男の子に産まれなかったのかが分かりませんけど――ええ。 女の子だからこそ取らなくて良かった『責任』を。 ようやくに、女の子の心を盗んで好き勝手してきた責任を、取れそうですから」
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