86話 逃げ場が消滅したらしい
「いやー、やっぱおもちゃはおもちゃだから大したことなかったみたいだねぇーあっはっは」
「……そ」
「ええ、よかったわ……」
「うん……」
目が醒めたらお腹がめっちゃ痛くって「今回の生理キツすぎない!?」って思ったら、普通にめった刺しされてたのを思い出した僕。
女の子に生まれて1番良かったことは、女の子といちゃいちゃしても責任取るとかいう選択肢が発生しないこと。
「生理が来ないの……」っていうあのデスワードを聞く可能性がゼロってのはやっぱり違うもんね。
で、女の子に生まれて1番よくなかったことは……1ヶ月に何日の、これだ。
いやぁ、確かに女の方が男より痛みに強いってのは本当――少なくともじくじくした系統の痛みには慣れてるってのは事実だね。
だから女の子は労らないとね。
大丈夫、僕はそういうの得意だから。
でもどうやら今回のはざくざく刺された末の痛みだから、やっぱ痛みの系統が違ったし、お腹ぐるぐる巻きだったからすぐにわかった。
で。
駆け込んできて僕の話聞いて『「めっちゃ痛い」で済んでるのが奇跡だ!』とかお医者さんも言ってたけど、実際にはちがう。
たぶん――これは、転生特典だ。
『嘆息』
『馬鹿か此奴』
『転生とか特典とかは認めるのに、俺たちのことは絶対認めないんスよね』
そりゃそうだよ、この世界は科学の世界なんだ。
人じゃないものがしゃべったり脳に直接語りかけてきたりするはずないもん。
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
や、あのときは必死だったから「もしかしたらそういうのもあるのかも」って思ったよ?
なぜか3人分、バリトンボイスの爺さんとおじさん、チャラい兄ちゃんの声が代わる代わるで聞こえてきてたし。
けど、やっぱそれも幻聴――アドレナリンどばどばな僕の脳みそが必死で生み出した、あの場を生き残るための試行錯誤のひとつ。
要は自己対話ってやつ。
実際、あれのおかげで「こうすれば万事解決だよね」って流れを思いついて――ほぼほぼその通りになったわけだし?
聞けば、あのあと、おじさん(極悪・鬼)は普通に逮捕。
未成年誘拐略取暴行銃刀法違反その他もろもろの現行犯+あのアパートに押し込められてたいろいろの余罪の数々で、まず間違いなく10年単位で娑婆に戻ってこられないとのこと。
その余罪については……くわしく聞かせてくれない時点で、かわいそうな目に遭った女の子たちがいるってことで悲しくなるけども、僕が知らないところで起きてた不幸には嘆いてもしょうがない。
そのへん、僕は意外と淡泊なんだ。
無理なものは無理だよね。
今の僕に男の相棒を取り戻すことくらい無理だもん、そりゃしょうがない。
鬼から金棒を取り上げたんだ、それで充分身の丈に合った仕事はしたよ。
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
でも、結果としてみれば――今回で被害に遭ったのは僕だけ、しかも僕の純潔性は保たれたわけで?
おじさんは――たぶんもう再起不能で?
あの3人は――って、そういや居たねぇ、僕の周りに。
あれ?
なんでこんなに静かなんだろ?
あとなんでみんなだんまり決め込んでるんだろ?
「どうしたの? 元気ないね」
せっかく僕が元気になったのに。
「……ううん、元気だよ」
「ええ、明乃さんのおかげで」
「助け、られたから」
お、ちょっと落ち込んでるみたいだけど元気そうだね。
きっとあれだけ連れ回したし、自分たちも被害に遭わなかったしで気が抜けたんだろう。
わかるわかる、僕もそういうことあるから。
でもこの子たちってばいい子だから、「自分たちだけ喜ぶのも悪いし……」とかで勝手に不要な罪悪感覚えてるんだろうね。
大丈夫なのにね。
『盆暗め』
え?
なんだって?
「……よかった、起きたのね、明乃ちゃん」
「あ、店長さん」
「よかったねぇ……もう3日も寝ていたから」
「あ、おじ――え、3日!?」
店長さんとおじさん(善)が入ってきたけども……え?
そんなに寝てたの!?
『なにせ、腹へのダメージ軽減でごりっと生命力使ったッスから』
『使わねば致命傷だった故な。 感謝せよ』
「え、てことは3人とも……」
「――明乃ちゃんが寝てるんだから行けるわけないでしょ」
「――先生たちにも『ちゃんと』説明したから大丈夫よ」
「え、そう?」
ちょっとびっくりしたけど……まぁそうだよね、どう考えても学校帰りとかだよね。
うん、きっと放課後とかに来てくれてるんだ。
『72時間離れなかったがな』
いやいやそんなことあるはずないって、常識で考えようよ?
『………………………………』
「……まず、明乃ちゃん」
「あ、はい、店長さん」
「あなたは――お医者様からの許可が出るまで、動けないわ」
「まぁそうですよね、入院はしょうがないですよね」
「うんにゃ、ちがうよぉ? 絶対安静だよぉ?」
「え、そうなんですか?」
あー、まぁお腹刺されたわけだし、そうなるのかな?
なんだか思ったよりも大事になって……、僕、ちょっとびっくり。
「で、ね? あなたのお母さんたちとも相談したんだけど」
「――わ、わたしたちが、面倒見るの」
「? そうなの?」
「ええ……だって、救われたんだもの。 全てを」
「ね。 ――『ずっと』、そばに居ないとね」
「? そう? じゃ、お願い?」
なるほど。
……これはあれだ、庇った子から怪我が治るまでのあいだ、甲斐甲斐しくお世話してもらうってやつだね。
女の子ってのはこういうことしたがるからね。
でも僕は経験豊富だから、こういうときにどうしなきゃいけないかって知ってるんだ。
とりあえず、満足するまでさせてあげよう。
そのうち飽きてくれるから大丈夫大丈夫。
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