80話 一発逆転の策
「ぐふ? ……なるほど、相当の冷え性なのだな……? 腹巻きなどもしおってからに……」
僕は、怖がっている演技を全力でしつつ、運ばれてきた道を脳内で再確認。
「ふむ……しかし、相当に体を鍛えているな……新体操の生徒のような肉付き……これはこれで……」
あのおじさんもといお兄さんたちが僕を気にかけて、ほぼ最短ルートで来てくれたおかげで、ある程度のエリアまでは絞り込めている。
しかも車から降ろされてこのアパートのエレベーター、そしてドアの前までも周りが見えるように運んでくれたもんだから――僕が車に乗り込んだもとい乗せられた時点からの視界だけで、このアパートそのものの住所も分かるはず。
そう――一般人でも使える範囲のネットを使えば。
今の僕は、両手両脚を拘束されて全身まさぐられてるから当然できないし、そもそもとしてスマホは紅林さんに「渡してある」。
そして、一見何の役にも立たないって思うだろう、首には……。
「ぐふ……胸は大きくはないが、なるほど、スポーツ向きのサイズ……私が育ててあげるから感謝しなさい……ところでこの腹巻きとタイツは、どこから外せば……?」
一応適度に反応はしたげてるけども、僕の意識にはおじさんの臭い息とかねちっこい手つきとかいろいろなのは、意識に昇ってこない。
どんな女の子でも堕とすためにいろんな修行したからね。
セルフ感覚遮断なんてのはお手のもの。
その逆のとあわせて、女の子と致すためには必須スキルだよね。
「……そうだ。 ぐふ……お前がいけないんだぞ、校則違反なものを所持していたから……」
「……あっ……」
きらり。
ごそごそと僕のバッグからおじさんが勝手に取りだしたのは――ナイフ。
「切れ味はなくとも、布程度ならこれで……なぁ?」
「い、いや……」
んー、まだベストな予定には遠いんだけどなー。
けども、これでも充分か。
「や、やだ……!」
「安心しなさい。 抵抗しなければ痛い目には……ぐふふ」
「に、荷物を漁らないで……!」
「……ふん? なにか、私に見つかったら困るものでもあるのか? どれどれ……」
自分が圧倒的強者で反撃を受けないと思い込んでいる人間は、とにかく隙が多くなる。
あれだ、マンガとかで主人公とかヒロインがピンチになるほどに、敵の雑魚キャラがポンコツと化していくあのパターン。
おじさんは僕に背を向け、僕の服をひとつずつ見ながらにたにたと楽しんでいる。
『主よ』
『分かってるッスね?』
うん――チャンスは、1回だけ。
両手両脚が自由でない以上、ワンミスしちゃったらその時点でおじさんは激おこモードに。
そしたら……まぁ、痛めつけられるならマシって段階に入るから。
うん、理解してる。
「……む? これは……?」
――運ばれてる途中、おじさんに使われたくないものを、お兄さんたちに取りだしてもらっておいた。
それほど融通が利いた。
だからこそできた、チャンスなんだ。
「――おい娘ぇ!! これはなんだ!!」
「ひぃっ……!」
振り返って――おー、めっちゃ怒ってる――500円玉みたいな形と大きさをした物体を手に、顔を真っ赤にしているおじさん。
「これは、あれだな……? 痴漢してやった娘が私のポケットに忍ばせたせいで警官がやってきて、そのまま自供させられた……!」
おーおー、ぼろぼろと余罪が。
そう――なくしたら困る鞄とかお財布に入れる、なんちゃらタグってやつ。
カード型でも良かったんだけども、今回は見つかりやすい方を選んでおいた。
「ぐっ……痛い……っ!」
「これは! 親から持たせられたのか! どうなんだ!!」
「は、はいぃ……ぶたないで……っ」
「ふーっ、ふーっ……まぁいい、1、2回、教育してやってから破壊すれば……いい……どうせほっつき回っている娘の親だ、すぐになんか気づきやしない……」
カード型じゃないからすぐに壊せずに諦めるおじさん。
そして僕の体が楽しみすぎて、適当な理由で後回しにするおじさん。
――やっぱ君、悪は悪だけど、あのチンピラさんたちと同程度の悪だね。
良かった――想定よりもおバカで。
「他にはないな!? ……ぐふ、今言えば許してやる……答えろ!」
「ひ、ひぃっ……! ちょ、チョーカー……」
「チョーカーだぁ!? ……チョーカーが一体……?」
チョーカーさんに何か秘密があるのかと、のしのしと僕の真ん前に来るおじさん。
ナイフを僕の顔に突きつけつつ、チョーカーへ顔を近づけ――あ、ちょっ、頭が!
ハゲてテカテカしている頭が近い!!
ひぃぃぃ!!!
感覚遮断してもテラテラしてるのが怖いぃぃ!!
「……こんなチョーカーに……んん? ……――っ!?」
お、気づいた?
「――と、盗撮用のカメラだとぉぉ!?」
「――ま、痴漢を始め、女の子への犯罪ばっかしてるんだ、当然こういうのも知ってるよ――ねっ!!」
「なん――――――――」
おじさんが僕に覆いかぶさるようにして来たからこそ、届く位置。
おじさんの体にある、僕が失ったもの。
その真正面には、僕の膝。
そして――『筋力最大化』『こんなの潰しちゃって良いッス』だよね。
「――――――――ぐほぉっ!?!?」
きーん。
僕の両膝が――とんでもない速さで収縮した腹筋によって加速した膝小僧が、男の肉体の中で最も無防備な急所を、ぐにっと潰す。
「……うわぁ……」
とんでもなく嫌な感覚っていうか……僕の体からはもうとっくになくなってるのに、それでもそれをキュって〆たって思うだけで、なくなった僕の中の象徴が縮み上がった。
――ぴんぽーん。
どんどんどんどんっ。
「――さーん! 居るんでしょ? ドア開けて!」
「――署のものですが、通報及び動画サイトにて、未成年誘拐と――」
「……ふぅ」
どさっ。
僕は、外からの助けの声を聞きながら――もはや泡吹いてぴくぴくするしかない哀れな物体をひと蹴りして体から離す。
――これであとは、ここの大家さんか誰かが鍵開けてくれたら助かるでしょ。
あー、気持ち悪かったー。
でも僕は男だからね、こういう目に遭う囮的なのにはぴったりなんだ。
おかげでずいぶんと油断してくれたから――ま、これだけのことしたらそこそこの罪にはなるでしょ。
◆◆◆
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