72話 煙幕で修羅場からエスケープ
さて。
いざとなったら口説けばなんとかなりそうな2人は置いておこう。
で、
「ぎんどうさん」
「うん、待ってね」
「………………………………」
――やばいNO.1は――この子だ。
何がやばいって……うん、知ってた。
この子、案外残虐な展開ある小説とか好きなんだよ……ほら、復讐晴らす系統のとか流行りじゃん?
んで、女性向けのそれってば男じゃ正視できないなれの果てとかわりとあるわけで?
追放なら生ぬるい、断罪からの処刑私刑とかの作品を熱く語ってた気がする。
……まぁね、この子は言ってみれば生まれつきの最下層――性格的に――だから、学校生活とかでいろいろ抱えてるものがあるんだろうね……ヘタすれば10年くらい分。
つまりは僕を分割とかとんでもない発言も、たぶん――やる。
「骨になっちゃっても」とか、猟奇的なのも――やる。
なまじ同じクラスになってからずっと僕に依存してた分、裏切ることになっちゃったとなると、その分の感情が真逆になるからね。
ほら、熱心なファンが何かのきっかけで熱心なアンチになる「反転アンチ」ってやつ。
愛が重いって怖いね。
そうさせたのは僕なんだけどさ。
てことで――僕の身の危険だけを考えるのなら黒木さん一択では、ある。
そう。
僕の保身だけを考えたら。
『――でも、選ばないんスよね?』
うん。
『――分かっていての、此所までの行動であるな』
そうなんだよ。
『――女子を護るという意気だけは粋である』
そうだ。
僕は、女の子が好きだ。
だから常日頃からちょっかいかけて回っている。
――それはもう、どうしようもないくらいに。
それが、きっと今世の業なんだ。
それは理解している。
だから――女の子を護るためなら、命だって惜しくはない。
ま、偶然とはいえ「これ」は僕の撒いた種なんだ、上手に刈り取らないとね。
だからさ。
「君たち」も――ちょっとだけ、頼むよ。
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
この子たちを――最後に助けるためなんだ。
「それで?」
「お姉さんは」
「……だれを」
「うん」
僕は、3人から奪った追加装備でさらに重くなったボストンバッグを、よっこらせって持ち上げる。
「僕の答えは、ね」
訪れる、静寂。
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「――――――――――君たち3人とも、だよ」
――詠唱、完了。
そして、魔法は発動する。
「――――――――――そっか」
「――――――――――残念ね」
「――――――――――ばいばい」
3人が、完全に闇に呑まれる。
うん――「これで、良い」。
「ごめんね。 僕は――君たち3人全員を、選べないんだ」
そうして僕は――バッグの中から、大きな筒を取り出した。
◇
「3人を同時に選ぶ」クズ発言をしたことで3人が闇堕ちし。
直後に正反対の「3人を同時に選ばない」原因不明な発言をしたことで、理解が追いつかないために――3人が帰還する。
「……へ?」
「お姉さん……?」
「それは……?」
そう。
人間は、予測していなかったことを急にぶつけられると、猫だましみたいになる習性がある。
直前までの怒りとか策略とかを全部忘れて、たとえ1、2秒でも隙ができるもの。
「じゃあこれを……っと!」
ぽちっ……ひゅう。
「な、何だ!?」
「これは、まさか発煙――」
「発煙筒じゃ、すぐにスプリンクラーになっちゃうからね」
――からんからん。
……しゅうううう。
「煙が!?」
「ゲホッ、ゲホッ……」
僕の肩は、本気でスポーツ少女をしてなかったにしてはなかなか強いと自負している。
その筒は狙った通り、十数メートル先の、広場の隅の柱のあいだに立っていた――7人ほどの男たちの足元へとたどり着き。
「煙……火事!?」
「やばっ!? アキノちゃん、何を――」
「あれは、ただの煙幕。 『煙に巻く』っていう言葉そのものを起こしてるだけだよ。 まぁちょっとしたら火災警報器反応するだろうけどね」
そうして「自動で」騒ぎになってくれるから手間いらずでね。
僕はすばやくバッグの中の装備を取り出して、かちゃかちゃと上着の両側のポケットに収め、バッグを背中に掛け。
「3人とも、逃げるよ」
「え……え、あの」
「白鳥さんは、黒木さんをお姫様抱っこして」
「あ……え?」
「この子の走れなさは知ってるでしょ? ……さっきは紅林さんに荷物持ってもらってたから、彼女に持ってもらうと多分、途中でへばっちゃう」
「……お姉さん。 訳は……ちゃんと、聞かせてくれるのね?」
「うん」
「うん、信用する。 良いわ。 2人とも、今はお姉さんの言う通りに……急いで」
ハムハムしてるだけの黒木さんとは違い、白鳥さんはすぐに飲み込んでくれる。
……やっばり君は、こんなのに即座に反応してくれるほどに頭も良い子だよ。
「紅林さんは……はいっ」
「わっ!? っと……え、これって」
「うん、僕のスマホ。 ロックは解除済み。 持ってて、好きに使って」
さっき荷物持ちしてもらった彼女には、通信機器を。
「あの煙幕に紛れて、まずは逃げるよ。 僕を切り刻んだりするのも、その後で」
「……分かった」
「じゃ、黒木さん。 ごめんなさい」
「あ……ひゃうっ」
スマホを握りしめて鋭い目つきになった紅林さん。
難なく黒木さんを抱っこした白鳥さん。
難なく抱っこされた黒木さん。
3人とも、準備は万全だね。
「転んだりしてケガしないのが第一。 でも、僕が止まるまではできるだけ走って」
「うぇ? ……え?」
「ええ、分かったわ」
「りょ!」
そうして僕たちは――走り出す。
「――くそっ、いつから――――――」
「すぐに連絡を――――――」
騒ぎ、叫ぶ男たちの声。
そして明らかに増える、足音と怒号。
――やっぱり他の人も用意して、退路は断ってるよね。
駅前だったら、駅員さんとか交番とかあるもんね。
だから、逃げるなら――――。
僕は、この周囲の地理を頭に浮かべながら彼らとは真逆の方向へと――市街地の方へと、駆け出した。
◆◆◆
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