68話 詠唱開始(序)
「――あたしはなんにも取り柄がないってことが取り柄なだけのバカな女なの。 この高校だって奇跡的に受かっただけで、けどそれまでの友達と離れたとたんにあたしの属性は『無』になったの」
「そんなときにアキノちゃんの言葉が、ずっと入ってきたの。 明るさを生かしてギャルになれって。 だからギャルになった。 見た目も整えた。 ――けど、それって結局さ、あたしが決めたわけじゃなくって『アキノちゃんが押してくれたからギャルな紅林奈々になった』だけ。 あたし、やっぱなんにもないの」
「新入生気分で春休みの気分だったんだろうね、あたしはギャルっぽくノリと顔さえ良いっていうできたばっかのギャル友たちと一緒に派手なカッコしてさ、治安悪くなったって聞いてた繁華街でゲーセンとカラオケ楽しんでてさ」
「で――あのときはあたしも知らなかったんだけどさ、ギャルのあの子たち、止めようとしてくれてたんだよね。 生粋のギャルだけど、良い子たちなんだよ。 入らない方が良い路地にあたしが入ろうとしちゃってたのとか、男たちに目ぇつけられそうになったあたしをさりげなくフェードアウトさせようってしてくれてたらしくってさ」
「あたし、バカだし付け焼き刃だし雰囲気ギャルだったからさ、本物のギャルたちが適度に遊んでるうちに分かるっていう不文律とか勘とかがさっぱりでさ」
「で、そんなドジ踏んでさ、良くて――女として最悪の経験したあとにその映像とかで揺すられてっていう地獄でさ、悪くて数日以内にこの世のすべてを呪いながら死ぬ結末しかなくってさ」
「なのに助けられたの」
「なのに、助けられたの」
「ねぇ」
「あたしがあのときどんな気持ちだったか分かる?」
「やばかったよ」
「あの瞬間からあたし、『女』になっちゃったんだよ」
「アキノちゃんも女の子とか気にならないほどにさ」
「でもアキノちゃんも女の子なのに女の子が好きっていう奇跡的な確率で相思相愛だって知ったの」
「だから飽きたら捨てられてもいいからって思ってたの」
「ほんとなら男たちに弄ばれるところだったんだから、アキノちゃんにその分程度は何でもしたげようって」
「なのにアキノちゃんはいつもあたしをすっごくその気にさせてからはいさよならしてを繰り返して」
「教室で、廊下で、体育館で登下校で何回も何回も何回も何回も全部ぶちまけてさっさと食べてって叫びたかったのずっと我慢してたんだよ」
「死にそうだったんだよ」
「なのにアキノちゃん銀藤ちゃん明乃ちゃんはさ、なぜか表ではことごとくに『女の子に興味ありません』って態度でさ、これでアタマおかしくならない方がおかしいでしょそう思わないそう思うでしょそう思ってよなんで思ってくれないのわざとなのううん違うよね明乃ちゃんはきっと全部無意識でやってるからなんだよねだってこうして3人も追いかけるほどに女の子のこと助けて回って知らんぷりなんだからさずるいよひどいよでもそんなアキノちゃんだからあたし銀藤ちゃん好きになっちゃってもうどうしたら良いかわかんないのねぇ教えてあたしはどうしたら良いのねぇ聞かせてよ導いてよ全部決めてよあたしがギャルで良いんじゃないかってあたしはこれからどうすれば良いのかってねぇアキノちゃん銀藤ちゃん明乃ちゃんねぇねぇってば聞いてよアキノチャン」
「捨てないで」
「拾ってから忘れないでよ」
「お願い」
「あたしなんでもするよ」
「アキノちゃんの配信のアーカイブ全部見直して全部ノートに書き留めてさ」
「あたしバカだからそうでもしないとすぐ忘れちゃうんだよ」
「だから完璧だよ明乃ちゃんが好きなプレイとかシチュ69個勉強したよ」
「毎日でも何時でも真夜中でもいつでも呼ばれたら飛んでって相手するよ」
「アブノーマルなプレイでも喜んで奉仕するよ」
「男に抱かれろって言うんなら言う通りにするよ」
「だってそれが銀藤ちゃんがいちばん嬉しいことならそれがあたしの生きる意味だからさ」
「ねぇ」
「答えてよ」
「教えてよ」
「あたしはどうすれば良いの」
「アキノちゃんに相手されない人生なんて意味ないのに」
「そんな無をどうやって生きれば良いっていうの」
「答えて」
「教えて」
「そう」
「またそうやっていつもみたいにしらばっくれるんだ」
「ふーん」
「そっか」
「じゃあもういいや」
「今度死のうよ、2人で」
「いろいろ考えてるんだ」
「ロープ、刃物、お薬、何が良いかなぁ」
「一緒ならなんでも良いや」
「――いっしょに、死の?」
「きっと――死ぬほど気持ちいいよ?」
「大丈夫」
「あたし、地獄でも尽くすよ?」
「で、来世こそは――優しくしてね?」
「構ってね?」
「――カノジョに、してね?」
◆◆◆
ないないが1日延びましたが、今日から復帰です。
引き続き、大ピンチの明乃ちゃんを観察してください。
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