66話 武器を没収すれば刺されないはず
「………………………………?」
かわいい。
なんにも分かってない顔をしている黒木さんがかわいい。
……じゃないじゃない、なぜか僕の差し出した手に「おて」をしてきているジャンガリアンハムスターに癒やされたけども、そうじゃない。
まぁ白鳥さんと紅林さんの笑いが止まらないから結果オーライだけども、そうじゃない。
「……かわいいから嬉しいけど、今はちがうかな」
「あ、はい……」
「じゃ、最初に黒木さんでいいかな」
「はい……?」
名残惜しそうに丸めた拳を下ろした彼女が首をかしげると、前髪で隠れがちなおめめがその隙間から覗く。
「なんか持ってきてるでしょ。 出して?」
「え……?」
「んじゃ、そのバッグ、中、見せてもらって良い? 具体的にはさ、人体に何らかの危害を加える可能性のある物体、渡してほしいんだ」
「え゛っ……………………は、はいぃ……」
「あ、あと2人もおとなしく出してね。 じゃないと走って逃げるよ? 僕。 まだあと10キロくらい、あのペースで走って逃げられる自信はあるからさ」
「……アキノちゃんって、ほんと何でもできるよね」
「ぜーんぶ、お見通しかぁ。 悔しいなぁ」
ぎくっとした顔の黒木さんとは対照的に、諦めた顔をした2人が降参の声を上げる。
うんうん。
僕の中の第六感的な声が「3人が武器を忍ばせてるから気をつけろ」って囁き続けてたからね。
『いくらドクズで女の子の敵でも、女の子たちにトラウマ植え付けるレベルの大怪我とか死ぬとかは勘弁ッスから』
『更生の余地は……羽虫くらいは有る。 何より償いが必要ゆえ』
『どうせ此所で本懐を果たさずとも、此奴ならいずれ機会が必ず来る』
とにかく何もかもをけちょんけちょんに言ってくるやばい幻聴かって思ってたけども、一応聞いといてよかった。
……女の子って、ぷっつんすると真顔で刃物取り出すからねぇ……あと飲み物に普通に混ぜてきたり、寝込み襲ってきたりするもん。
男みたいに力尽くじゃない分、本当に事前動作なしにいきなりブスリだからなぁ。
え?
何で分かるかって?
僕の経験値は人並み以上だからね。
ほら、前世の知識チートだからさ。
『……忠告しない方が良かったッスね』
『朝、昼、夕で我ら1体ずつを使用し、今は完全に無力なっていた方が良かったやも知れぬな』
『嘆息』
僕に「それ」を忍ばしてるのを指摘されたびくっとした黒木さんは、10秒くらいフリーズ。
そして、観念したらしく――さっきも思ったけども、中学生も、よくて中盤までくらいしか使わないような子供っぽいデザインの小さな肩掛けバッグだよね、それ――を、差し出してくる。
それを失礼してごそごそ。
お、あったあった。
「……これは何?」
「お、お守り……」
「うん、お守りだね。 神社とかお寺で売ってそうな。 ……剣の形してるけど」
そこには――金属製で、やっぱ小中学生、それも男子が好きそうなデザインの、剣をかたどったお守りが不自然に紛れ込んでいた。
「うん、鞘を抜くと金属製の刃があるね。 もちろん指先で突いてもたいして痛くなんかないけど」
「ふぇ……」
「……何に使うつもりだったのかな?」
「ふぇぇぇ……」
もう泣きそうな黒木さん。
まぁ黒木さんなら……そもそもこれは刃渡りとしても5センチないし、その気になっても首とか心臓じゃなきゃただちに死にはしないから大丈夫だったかもだけど。
「で、白鳥さん?」
「はーい、これでーすっ」
「これは何かな?」
「コンパクト警棒と手錠でーすっ」
「何で持ってるのかな?」
「痴漢騒ぎのあと、お父さんが買ってくれたの。 で、今日使えるか持って思いました!」
「僕に?」
「他に誰か居ますか?」
「居ないかなぁ」
「ね?」
「あれ? ハサミも入ってるよ?」
「ほつれ糸を切るための裁縫用のですよ?」
「そっかぁ、偉いねぇ」
「偉いでしょう」
にっこりとすごい笑顔な白鳥さん。
思わずで振り返った男が連れの女の子から怒られるレベルだ、ざまぁ。
けどもその笑顔は覚悟が決まってる気がするから、この件については追及せずに回収。
「あとで返すからね」
「はーいっ」
「じゃあ紅林さん」
「あたしのはスタンガンと催涙スプレー。 はい」
ずっしりと重みのある、映画とかドラマ、あとは店長さんと仲が良いおじさんと仲が良い手下のお兄さんたちがたまに持ってたりするそれが、差し出される。
「なるほど、暴漢対策だね」
「そーよ? あと、なにかあったらスプレーでアキノちゃんの動きにぶらせてスタンガンでダウンさせて、連れて帰ってオシオキしようってしてたの」
「うんうん、動機は分かるよ。 けどいったん預かるね」
「いいよー。 逃げないんなら……ね?」
「で?」
「あ、そっか。 はい、カッターナイフも」
「うんうん、きっと手紙とか開けるんだね」
「え、いざとなったらこれ使おうとしてたけど」
「え?」
「うん」
「……そっかぁ」
「そうよ?」
こっわ……やっぱ紅林さんが1番怖い。
おもちゃでも体重をかけたら普通に刺せる刃物、折りたためる警棒に手錠、そしてスタンガンと催涙スプレーに……刃が分厚くて頑丈なタイプのカッターナイフ。
……これ、仮に全部、もしも全部、全部本当に自衛のため用だったとしても、だ。
全部持ってる状態でお巡りさんに見とがめられたら普通に補導だよね……過剰防衛ってやつで。
まぁ今世の僕は肉体的には女の子だし、男とは違って基本的に犯罪起こす前提では見られないだろうから厳重注意止まりだろうけども。
もっともこれが男だと、その時点でしょっ引かれるのは世の常か。
しょうがないよね、男は素で肉体能力が高いからね、警戒されるのもしょうがない。
「それじゃ、アキノちゃん」
「そろそろ良い、かな?」
「き、聞かせて……?」
ごそごそとそれらをボストンバッグに詰めた僕に、3方向から降ってくる声。
……うん。
女の子たちって、無意識でそうやって陣形組んで男を威圧してくるよね。
今世の僕はそういうのできない時点で、やっぱこういうのって女の子の本能なんだろうね。
ちょっと羨ましいね。
「……ふぅ」
さぁ。
ここで言いくるめられなかったら、これから卒業まで毎日不意打ちのリスクが存在するデンジャーでハードな学生生活の始まりだ。
大丈夫、僕ならできる。
なぁに、いざとなったらもう覚悟決めて3人とも口説き落として連れ込んで組み敷いてとろっとろにし尽くして彼女にするっていう最終手段があるんだ、気楽に行こう。
……まぁやっちゃったら3年間他の女の子たちにちょっかいかけられないわ、3人とのいろいろが翌日には学校中に広まる羞恥プレイな日々になるわ、僕の女癖の悪さが周知のものになるわになるから、できれば回避したい未来だけどね……。
男はね、こう、自由でないといけないんだ。
女の子と1対1の契約関係とかはちょっと重苦しく感じる生物なんだ。
◆◆◆
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