第三話 事件
この日の放課後、俺は俺の彼女、野崎シホとカフェで待ち合わせいた。外の寒さに抵抗するように、ガンガンに暖房が効いている。
「お、シホ、こっちこっち。」
「ごめん優介。ゴリ先がやけにやる気あってさ。」
ゴリ先とは彼女が所属している空手部の顧問である。無論、ゴリラに似ている。
俺の横で浮いている天使は、初めて彼女に会うためかずっとハイテンションだ。
「てかさ優介のクラスに転校生きてたよね! あのかわいい子。」
「あ、うん。」
ギクリとする。
「その子が俺の運命の人らしい、なんて言えるわけがないですもんねー。」
この状況を楽しんでる天使。黙っててくれ。
「なーにその反応。もしかして、好きになったとか?」
冗談っぽく話す。こういうときのシホは冗談でないことが多い。
下手なことを言えばゴリ先仕込みの正拳突きが飛んでくるだろう。
「なに言ってんだよ。シホがいるだろ。」
これは本心。なのになんだか嘘をついている気持ちになる。
その時俺のスマホが鳴った。佐々木サクラからだ。
「あー! もう連絡先交換してる!」
シホが騒ぐ。
横の席だから交換しただけだって、そう言いながら電話にでる。
「助けて!!」
電話口から大きな声が聞こえてきた。シホにも聞こえたようで、2人の間に緊張が走る。
「どうした、何があった。」
「は、刃物をもった、男に、追いかけてられて…」
息切れした声で話す。
「警察には?」
「電話したけど、夢中で逃げてたから、ここかどこかわからなくて…
どこかの森だと思うんだど…」
昨日来たばかりで土地勘がないのだろう。
「やばい。男が近くに来たかも…」
小声になる。
「わかった。必ず助けにいく。」
俺は驚きと恐怖を噛み殺して冷静にそう言った。
電話の向こうで大きく頷いた感じがした。
電話が切れた。
「ごめん、俺行かないと。」
シホは深刻な表情をしている。
「何があったか分からないけど私も行く!」
「いや、シホを危険な目に合わせられない。」
「そんなこと言ったら優介だって…」
「いや俺は大丈夫。」
でも…と食い下がるのを制止して、俺は上着を着た。
運命の赤い糸なら佐々木サクラの居場所がわかる。
助けられるのは、
俺しかいない。