閃き
物語って書いてると訳わかんなくなるよね。知らんけど
ケントがイミトリに応援として入ってから一週間。あれから行方不明事件の捜査に本腰を入れてきた。
行方不明者の身元確認、家族構成、いつ頃から行方をくらませたのか。
ただ、3日経っても犯人の手がかりどころか、形すら掴めていない。
しかしイミトリのみんなは諦めずに夜通し捜査を繰り返していた。
その結果
「……」
「…………」
「アバァ………」
「……フヘッ…」
皆撃沈していた。
ユラは死人のような目で何回も見た書類を読み、終わってはまた読み直す。
ケントは頭を抱えて自身の足元を見ていた。
ルアと葡愚に至っては口から涎が溢れ出し、不気味な笑みを浮かべて倒れている。
ユラはともかく、夜通しの捜査に慣れていないルア達にはだいぶキツかったらしい。
「みんなかなり疲れてるみたいだね」
「ははは……まだまだやれますよ………」
様子を見に来たアカネに強気で言うルアだが、そんな倒れた状態で言われても説得力のカケラもない。
「キリがいいところでみんな休憩してね。調べ物はその後で」
「お、俺ちょっと寝てくる……」
「俺もォォ……」
そう言いルアと葡愚は今にも壊れそうな体を起こし仮眠室へノソノソと重い足取りで向かう。
そんな二人とは逆に、ソファーから立ちあがろうとせずに資料に目を通す二人。
「ユラ君とケント君は寝なくて大丈夫なの?」
「全員が寝てしまったら時間が勿体無いですし……」
「それにもう三週間近く経ってます。早くしないと新しい犠牲者が出てしまいますよ……」
3日間ろくに睡眠を取らなかったせいだろうか目の下のクマが酷い、にも関わらず事件解決を優先する。
それに対してアカネは「倒れたら元も子もないよ」と心配して声をかける。
しかし二人の耳には届いていないのか、資料に釘付けになっている状態。
諦めたアカネはため息をついて自室に戻っていった。
それからおよそ二時間後。
「………」
「………」
「うわっ、コイツら座ったまま寝てやがる」
仮眠から戻ってきたルアが声を上げる。
忠告を無視していた結果二人とも手に書類を持ったまま眠りについていた。
「そんなことより腹減ったワ……カップ麺買い置きしてあったよナ」
そう言い台所にある籠の中からカップ麺を一つ取り出し、お湯を注いだ。
3分時間が経つと蓋をとりズルズルと麺を啜り始めた。
「う〜ん……やっぱりカップ麺は美味いナァ……」
「……」スンスン
「俺も食べよっ………おい葡愚!俺の味噌ラーメンだぞそれ!」
「……」スンスン
「名前が書いてなかったからナ。コレは俺のもんダ」
「んだとこの野郎っ!」
「…」スンスン
「いつもお前がやってる事を俺もやり返しただけダ!少しは反省しロ!」
「あ“ぁ“ぁ“?!」
「やんのカァ?!」
「……ズルズルズル〜…もぐもぐ……」
「「あ?」」
ふと何かを啜る音を耳にした二人は言い争いをやめ、音のする方を見た。
そこにはさっきまで寝ていたはずのケントが目を瞑りながら、美味しそうに葡愚の食べていたラーメンを食べていた。
状況の理解が出来てない二人はしばらく固まり、その間にケントはラーメンを完食した。
そして
「……ぐぅ〜………」
「「寝やがったッ!!」」
ものの数秒で眠りについた。
驚きを隠せない二人は大声をあげ、その声に反応しユラが目を開いた。
「なんだようるさいな………もうお昼か…」
「おいユラ!コイツ俺のカップ麺食った挙句ねやがったぞ!」
「新入りの癖ニ!」
「……」スヤスヤ
兄弟喧嘩をして母親にちくる子供のようにルアと葡愚がユラに話す。
寝起きのユラはイラつきながらも怒らないよう話を聞き流そうとしたが、二人はしつこく話しかけ続け、結果的にユラが折れた。
「犬神君は鼻がよく効くんだよ。だから匂いに釣られて寝てる状態で食べたんじゃないの」
「なんだよそれ犬かよ」
「この駄犬ガ」
食べ物の恨みは怖いと言うが、あまりにも酷い言われ様だ。と微笑したユラ。
しかし、ここで一つの考えが浮かぶ。
犬神ケントは鼻が効く。
寝ていて意識が無い状態でも正確に物の位置を当てるほどに嗅覚が優れている。
なら、もしその嗅覚が食べ物以外……“衣服や鞄”の様な常に身に付けてる物だったら
そう考えたユラは突然立ち上がる。
「……どしたのユラ」ガクブル
「なんか俺ら怒らせる様な事言ったカ」ガクブル
「被害にあった人達の家族に連絡入れろ。
行方不明者の服や鞄を持ってくる様に」
震えるルアと葡愚をよそにユラはテーブルに広がる書類を漁る。
目当ての書類を見つけ出し、町の縮図と見比べる。
一つがここ、次がここ…
とぶつぶつ声を出しながら縮図に何かを書き込む。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
あれから1時間
テーブルには服や鞄の入った紙袋が用意されていた。
これらは全て行方不明者の所持していた物。
それらの先にケントが座っていた。
「…ええっと……つまりは俺に警察犬の代わりになって欲しいって事ですか?」
「簡単に言えばそうだね」
突然の事に驚きを隠せていないケント。
それもそのはず、会議が始まっていきなり犬になれと言われたのだ。驚かない方が逆に可笑しい。しかしユラもただ言っているわけじゃない。それなりに理由がある。
「ケント君、何か隠してる事あるでしょ」
「…」
アカネの言葉に口を閉じ顔色を暗くした。
それを見たその場のみんなが察した。
ケントはただの人間じゃない。
アカネ達と同様、人の形をした特別な力を持つナニカ。
イミトリのメンバーと同じ存在。
「今回の事件、キミが力を貸してくれれば確実に解決する。けれど、もしキミが秘密を隠し続ければ……今も生きてるかもしれない行方不明者を見殺しにする事になる」
「ッ!」
正義感の強いケントの事だ。
本来であれば二つ返事ですぐに返す。だが、今回は違う。本人が暴かれたくない、隠し続けてきた事、それが公になればケントの地位も名誉も危うくなるかもしれない。
それを承知の上での発言。
もちろんその後のケントの対応も考えてある。
後はケント本人の問題。
他人を犠牲とするか
自分を犠牲とするか
その二択である。
「俺は……」
「………」
言葉を詰まらせるケント。
沈黙が広がる室内に緊張が走る。
「そんな事は良いからよー」
が、それはルアの言葉によって断ち切られる。
「早く犯人みっけて倒そーぜー、俺早く暴れたい〜」
「俺モ〜」
机に足を乗せて組むルアと葡愚がそう言った。
空気の読めない二人によって空気が壊された。
ユラはこの二人を会議に参加させた事を深く後悔した。
あと少しで事件解決に進めると思っていたのに、そのためにこの空気を作り出した。
それなのにこの能天気な二人によって壊される。
「それに俺ケントの秘密に興味無いし」
「…え?」
「ケントはケントダ。それに秘密なんてココのみんなが抱えてるモンだしナ」
二人の言葉に腑抜けた声を出すケント。
さっきまでの顔色の悪さも治り、いつもの顔色に戻る。
きっとその言葉はケントにとって救いの言葉だったのだろう。
そんな二人とは違い、ユラは急かす様に
「二人は黙ってろ。これは犬神君の問題なんだ。本人のこれからに関わることでもあるんだぞ」
「だからこそどうでも良いんだよ、秘密なんて。俺は協力してくれるな何でもいいわ。ただ暴れたいだけだし」
「そもそもそんな大事なことをわざわざみんなの前で話させるのは違うだロ」
ユラは歯を噛み締めた。
思い通りに行かない事に憤りを感じたのだ。
それは事件を解決させたい想いから来るのだろうか。
ユラの沈黙を察したルアは席から立ち上がりケントの肩を叩いた。
「ま、本人が決められないならこっちで指示出すしかないだろ。ケントにはちょっと酷かも知れないけど」
「なんか他に考えあるのカ?」
葡愚の問いに歯を見せて笑うルア。
その言葉を待っていたかと言わんばかりの顔だった。
「秘密を隠し続けながら捜査すりゃ良いんだよ。ケントにどんな力があるのか知らないけど、見られるのが嫌ならケントが一人で捜査すればいい」
「そりゃぶっ飛んでるワ」
ケント一人で事件の捜査。
確かにそれなら秘密を隠し続けられる。だが、
「時間がかかりすぎるだろ。それに捜査の範囲も広いんだ。犬神君1人に任せるわけにはいかないだろ」
「だから俺たちがカバーしてやればいいんだ。
例えば……現場実証とか」
ユラとルアの言い合いが段々と盛り上がる。
そこでケントは声を上げ
「あの!」
ケントの声に二人の言い合いは止まる。
「俺、一人で捜査します!なので俺ができない事カバーして欲しいです!」
その言葉を聞いてルアと葡愚はケントの肩を組み
「よく言ったぞケント!」
「それでこそ漢ダ!」
そう言いケントの頭をわしゃわしゃと撫でる。
まるで仲の良い友達の様なやり取りだった。
その光景を見てアカネは一息吐き
「じゃあ決定だね。ケント君は主に捜査を、私たちはケント君のフォローに回る。それでいいよね、ユラ君」
「……はい」
さっきまでの勢いを無くし、折れた様に返事をするユラ。
「よしっ!そうと決まれば腹ごしらえしようぜ!」
「俺ラーメン食いたイ」
「俺美味い店知ってますよ!」
そう言い三人は会議室から出て行った。
部屋に残ったユラとアカネ。
「それじゃあ私も、ユラ君は?」
「……僕はやる事があるので」
「そう、明日から捜査は始めるから。あまり無理しない様にね」
そう言い残し部屋を出る。
ユラは一人夕日に照らされた部屋に閉じこもっていた。
来週も頑張って投稿します。