面倒な
民間のケントと交渉し、今回の事件にイミトリも参加することになった。
参加、と言っても基本的にイミトリが捜査、民間は応援と言う形だ。
その民間からの応援にケントを指名した。
「ここがイミトリの事務所ですか」
自分の勤めている所と違う内装が新鮮なのだろう。
ケントは声を漏らした。
「ちょっと暗いですけどすぐに慣れますよ。
席はどこでも好きなところ座ってください。
仮眠室はあそこの扉です。冷蔵庫にある物は基本的に共有ですので、自分の物には名前か印を付けておいてください。じゃないと……」
ふとユラが言葉を止め、視線を向ける。その先に居たのはあのコンビ
「俺のドーナッツ返せェェェ!」
「名前書かなかったのが悪い!よってコレは俺の物だ!」
買ってきたドーナッツを取られて追いかける葡愚と、それから逃げるルア。
案の定、二人が暴れているせいでオフィス内はゴミや書類が散らばって辺り一面しっちゃかめっちゃか。
しかも上に提出する大事な書類はくしゃくしゃになっており、ついでに靴跡もついていた。
無論、それを見たユラが怒らないわけが無く
「…………」
ニコニコと無言で笑い暴れ回る二人に近づく。
二人はそれに気付かず未だ走り回っている。
一歩、また一歩と二人に近づき最後には
「わっぷ…!あぁ〜ごめんごめん、前見てなかっ……………た……」
「僕が帰るまでにオフィス片付けておけって言ったけど…………随分と綺麗になったんだねぇ……」
ユラにぶつかったルアは、あの笑顔を見て顔を青色に染めた。ガタガタと身体が震え出し、額から汗が滲み出てくる。
やばいと察した葡愚は気付かれないようそーっとその場から逃げ出した。
「お、おかえり……なさい」
「うん、ただいま………それで………」
怯えているルアにさらに威圧をかけるユラ。
床に落ちたしおしおの紙を拾い上げ、ルアに見せる。それはユラが寝る間を惜しんで作った書類だった。
「コレは一体何なのかなぁ?」ニコニコ
「……し、書類です」
「何の書類?」
「ユラが徹夜して作った………大事な書類です」
「そうだねぇ……その大事な書類がなぁーんで、こんなにぐちゃぐちゃになってるのかなぁ?」ニコニコ
「…………」ガタガタガタ
見るだけでトラウマになりそうな笑顔。
それを間近に、目の前で、蛇に睨まれたウサギのように動くことが出来ずに居た。
「ルア?」ニコニコ
「は、はひぃ……」ガタガタガタ
これから起こる事が分かっていたのか、震える身体がさらに震える。
そこに追い打ちをかけるかの様に言葉を告げる。
「今までの事全部アカネさんに報告するね♪」
「うぎゃあぁぁぁ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!!」
そう叫びながら散らかった紙を全て拾い上げ、ユラの作った書類をすぐさま複製した。
掃除から書類の複製までこれらにかかった時間はたったの30分ほど
「はぁ…はぁ……!す、すみませんでした…」
「はい、お疲れ様」
吹き出す汗と息切れを耐えてユラに書類を渡す。ルアはやれば出来る奴なのだが、なかなかやろうとしないだらけ癖がある。
そのせいでユラに散々怒られている。
「とまぁ……最悪この二人みたいな事しなければあとは自由にしてていいですよ」
「は、はぁ……わかりました」
さっきまでの惨状を目の当たり視していたケントは引き攣った顔で返事をし、心の底で拭えない程の不安を抱いた。
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「…というわけで、民間からの応援で来てくれた犬神ケント君だよ」
「犬神ケントです!しばらくの間よろしくお願いします!」
アカネが一部始終を話しケントの紹介をする。
緊張してるのか少し表情が固い。
「ケント君は今回の事件解決までユラ君の元に着いてもらうね。ユラ君はケント君のフォローよろしく」
「よ、よろしくお願いします」
「緊張しなくていいですよ。犬神君みたいな真面目な人が下についてくれて嬉しいです。どっかの誰かと違って」
「おい言われてんぞ葡愚」
皮肉を込めた一言をルアを見ながら放つも、ルア本人に自覚はないらしく葡愚の腕を突いた。
それを見たケントは諸々のことを察したのか、ユラを同情する様な目で見ていた。
「さてと、じゃあ早速だけどこれから働いてもらおうかな」
「はい!どんなことでも全力で頑張ります!」
「そう、じゃあ…オフィスの掃除、みんなで協力して今日中に終わらせてね」
そう言いアカネは散らかったオフィスを見た。
ケントのイミトリ初の仕事はオフィスの掃除。
何とも間抜けで、初歩的な事なのか。
ケントは心の中で落胆した。
毎週火曜投稿できるよう頑張って書いていきます…